石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(5)  

2017-06-30 | BP統計

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

 

2017.6.30

前田 高行

 

2.2016年の世界の石油生産量

(世界の石油生産量の3分の1を占める中東地域!)

(1)   地域別生産量

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-2-G01.pdf参照)

 2016年の世界の石油生産量は日量9,215万バレル(以下B/D)であった。これを地域別でみると中東が3,179万B/Dと最も多く全体の34%を占めている。その他の地域については北米1,927万B/D(21%)、欧州・ユーラシア1,772万B/D(19%)、アジア・大洋州801万B/D(9%)、アフリカ789万B/D(9%)、中南米747万B/D(8%)である。2013年までは欧州・ユーラシアの生産量が北米を上回っていたが、現在では北米が中東に次ぐ世界第二位の石油生産地域になっている。

 

 各地域の生産量と埋蔵量(石油篇1参照)を比較すると、埋蔵量のシェアが生産量のシェアより高い地域は中東及び中南米であり、その他の地域(北米、欧州・ユーラシア、アフリカ、アジア・大洋州)は生産量のシェアが埋蔵量のシェアよりも高い。例えば中東は埋蔵量では世界の48%を占めているが生産量は34%に過ぎない。中南米も埋蔵量シェア19%に対し生産量シェアは8%である。一方、北米及び欧州・ユーラシアの場合、埋蔵量シェアがそれぞれ13%、9%に対して生産量のシェアは21%及び19%である。またアジア・大洋州も生産量シェアが埋蔵量シェアを6ポイント上回っている。このことから地域別に見て将来の石油生産を維持又は拡大できるポテンシャルを持っているのは中東及び中南米であることが読み取れる。

 

(3年連続で米国が生産量世界一、米、サウジアラビア、ロシアの3か国でトップを競う!)

(2)   国別生産量

(表http://bpdatabase.maeda1.jp/1-2-T01.pdf参照)

 次に国別に見ると、最大の石油生産国は米国である。同国の2016年の生産量は1,235万B/Dである。第2位はサウジアラビアであるがその差はわずか5千B/Dである。次いでロシアが1,123万B/Dで第3位である。かつて1980年代の旧ソ連時代にはロシアが世界最大の産油国であり、その後1990年代以降20年近くはサウジアラビアが世界一に君臨し、2010年代に入ると両国が世界トップを争う形であった。しかし2013年以降米国の生産量は急激に増加しロシア、サウジアラビアを追い抜き、2014年から3年連続で世界一となっている。因みに生産量が1千万B/Dを超えるのはこれら3カ国だけであり、3か国が世界に占めるシェアは4割弱に達する。

 

 4位から7位にはイラン(460万B/D)、イラク(446.5万B/D)、カナダ(446.0万B/D)及びUAE(407万B/D)が400万B/D台で並んでいる。イランは欧米の禁輸措置により輸出量が激減し、2011年の4位から2012年には6位、2013年から2015年までは7位と順位を落としたが、禁輸制裁が解除され生産量が回復し4位に浮上している。さらに8位は中国(399.9万B/D)、9位がクウェイト(315万B/D)と続き、10位以下は300万B/D以下である。

 

 10位以下20位までの国とその生産量は以下の通りである。

ブラジル(261万B/D)、メキシコ(246万B/D)、ベネズエラ(241万B/D)、ナイジェリア(205万B/D)、ノルウェー(200万B/D)、カタール(190万B/D)、アンゴラ(181万B/D)、カザフスタン(167万B/D)、アルジェリア(158万B/D)、英国(101万B/D)、オマーン(100万B/D)。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月30日)

2017-06-30 | 今日のニュース

・UAEエネルギー相、OPEC追加減産を否定。鈍い原油価格の上げ足:Brent $47.74, WTI $45.14

 

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カタールGCC離脱(Qatarexit)の可能性も:カタールとサウジ国交断絶(2)  

2017-06-29 | OPECの動向

 

 

2017.6.30

荒葉一也

 

2.カタールのプライドをズタズタにしたサウジアラビア

 6月5日のサウジアラビア、エジプト、UAE及びバハレーンによるカタール断交の真の仕掛け人はサウジアラビア・サルマン国王の6男ムハンマド・ビン・サルマン(略称MbS)だとするのが衆目の一致した見方である。そのMbSは21日、副皇太子から皇太子に昇格し名実ともにサウジアラビアのNo.2になった。サルマン国王が甥のムハンマド・ビン・ナイフ(MbN)皇太子を解任し、自分の息子にすげかえたのである。サルマン国王が皇太子を交代させるのは昨年4月の異母弟ムクリン以来二度目のことである。昨年1月の即位からわずか1年半の間に異母弟と甥を次々と解任し息子のMbSを皇太子にしたことは極めて異例のことであり、これによってサウジアラビアの王位継承がサルマン一族の直系相続に絞られたと言って間違いなかろう。

 

 サウド家の王位継承問題は本稿のテーマから外れるので稿を改めて論ずることにするが[1]、皇太子就任によりMbSに絶大な権力が集中することになった。MbSは既に国防相の地位にあり、外交についても腹心(イエスマンと言うべきかもしれない)のジュベール外相を手足として動かし、経済面では2030年までに石油依存体質から脱却するとして無謀ともいえる野心的なビジョン2030計画を打ち出している。石油政策についてもMbSは全権を握っており、非OPECのロシアと協調減産体制を作り上げたことにMbSの強い意向がうかがえる。Falih石油相は実務を取り仕切るテクノクラートの域を出ず、むしろその権限はナイミ前石油相時代よりも縮小していると言えそうである。

 

 サウジなど4か国によるカタール断交宣言に続いて世界を驚かせたのは、6月22日、4か国がカタールに13項目の要求書を突きつけたことである。その要求とは次のようなものであった。

 

1.   イランとの外交関係のレベルを下げ、イランにあるカタールの事務所を閉鎖すること。

2.   ムスリム同胞団、イスラム国、アルカイダ、ヒズボッラーなどのテロ組織と関係を断つこと。

3.   アルジャジーラ及び関連事業を閉鎖すること。

4.   Arabi21などカタールが資金援助しているニュース局を閉鎖すること。

5.   トルコ軍の駐留を直ちに中止すること。

6.   サウジ、UAE、エジプト、バハレーン、米国、カナダおよびその他の国がテロリストと認定している個人、組織に対する資金提供を直ちに停止すること。

7.   サウジ、エジプト、UAE及びバハレーンがテロリストに指名している人物をそれぞれの国に引き渡すこと。

8.   各国の主権である国内問題への干渉を止めること。

9.   サウジ、エジプト、UAE、バハレーン各国内の反政府勢力との接触を断つこと。

10. 最近のカタールの政策により逸失した生命その他の損失を補てんすること。

11. 2014年のサウジアラビアでの合意に沿って他の湾岸及びアラブ諸国と軍事的、政治的、社会的及び経済的に同調すること。

12. 10日以内に要求に従わない場合はこのリストは無効となる。

13. 合意した場合は最初の1年間は毎月、2年目以降10年目までは3か月ごとに実施状況の監査を受けること。

 

 通常の外交文書でこれほどまでに一方的で強硬な要求は例がないと言えよう。32歳という若いサウジ皇太子の性急さと外交慣例とカタールの主権を無視した姿勢には驚くばかりである。カタール側が直ちに反論したのは当然である。サウジアラビアのMbSはカタールのプライドをズタズタにしたのである。

 

 10日間の期限内にカタールが全面的に要求を飲むことは考えられず、サウジ側も要求を取り下げることは無いであろう。多分第12項にある通り10日後に要望は無効となるのであろう。それでもMbSは要求を出した事実が残ることで成果があったと強弁するのであろうか。結局残るのはGCCの深い亀裂だけではなかろうか。年末には毎年恒例のGCCサミットが開催されるはずである。その頃には恐らくIS(イスラム国)は壊滅しているであろうが、テロ拡散という新たな問題が発生することは間違いない。GCCの盟主サウジアラビアは自国を含めGCC6か国の君主制国家の安全をどのように考えているのであろうか。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] サウド家相続問題については下記レポート参照。

「迫るサウド家の世代交代」(2010年11月):

http://mylibrary.maeda1.jp/0162SaudRoyalFamily2010.pdf 

「迷走と暴走を繰り返す老国王」(2015年9月):

http://mylibrary.maeda1.jp/0354SaudiKingSalman.pdf 

 

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(4)  

2017-06-29 | BP統計

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

 

2017.6.29

前田 高行

 

 BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2017」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

 

1.世界の石油の埋蔵量と可採年数(続き)

(世界の石油の7割はOPECに!)

(4)OPECと非OPECの比率

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G04.pdf参照)

 既に述べた通り2016年末の国別石油埋蔵量ではベネズエラとサウジアラビアが世界1位、2位であるが、両国は共にOPECのメンバーである。また両国の他にイラン、イラク、クウェイト、UAE及びリビアが石油埋蔵量の上位10カ国に名を連ねている(「1.世界の石油の埋蔵量と可採年数」参照)。実にベストテンのうち7カ国がOPEC加盟国であり、非OPECで世界ベストテンに入っているのは3位カナダ、6位ロシア及び10位米国の3カ国だけである。OPEC全加盟国の埋蔵量を合計すると1兆2千億バレルに達し、世界全体(1.7兆バレル)の72%を占めている。

 

 加盟国の中にはベネズエラ、イラン、イラクのように埋蔵量の公表数値に水増しの疑いがある国もあるが(前項参照)、統計上で見る限りOPECの存在感は大きい。現在OPEC13か国の内11か国はロシアなど非OPEC11カ国と協調減産を行っているが、将来の生産能力を考えた場合埋蔵量の多寡が決定的な意味を持ってくる。この点からOPEC加盟国の埋蔵量が世界全体の7割以上を占めていることはOPECが将来にわたり石油エネルギーの分野で大きな存在感を維持すると言って間違いないであろう。OPEC加盟国の間でもベネズエラ、イラン、イラクなどが埋蔵量の多寡に拘泥するのはその延長線上だと考えられる。

 

 OPEC対非OPECの埋蔵量比率を歴史的に見ると、1980年末はOPEC62%に対し非OPECは38%であった。その後この比率は1985年末にOPEC66%、非OPEC34%、さらに1990年末にはOPEC74%に対し非OPEC26%とOPECの比率が上昇している。これは1970年代の二度にわたる石油ショックの結果、1980年代に需要の低迷と価格の下落が同時に発生、非OPEC諸国における石油開発意欲が低下したためである。

 

 1990年代末から2000年初めにかけて世界景気が回復し、中国・インドを中心に石油需要が急速に伸び価格が上昇した結果、ブラジル、ロシア・中央アジアなどの非OPEC諸国で石油の探鉱開発が活発となり、2000年末にはOPEC65%、非OPEC35%と非OPECの比率が上昇している。しかし2005年以降はOPECのシェアが2005年末68%、2016年末72%と1990年代前半と同じ水準に達している。これはベネズエラが2008年から2010年にかけて自国の埋蔵量を3倍以上増加させたことが最大の要因である。

 

 前項(3)で取り上げたようにOPECのベネズエラ、イラン、イラク3カ国と非OPECの米国、ブラジル2カ国は2000年以降2014年までいずれも埋蔵量が増加している。しかし両グループの性格は全く異なることを理解しなければならない。ベネズエラなどOPEC3カ国の埋蔵量は国威発揚と言う動機が働いて水増しされているものと推測されるが、政府が石油産業を独占しており水増しの有無を検証することは不可能である。

 

 これに対して石油産業が完全に民間にゆだねられている米国、或いは国際石油企業との共同開発が一般的なブラジルのような国では埋蔵量を水増しすることはタブーである。何故ならもし水増しの事実が露見すれば当該石油企業は株主訴訟の危険に晒されるからである。かつてシェルが埋蔵量を大幅に下方修正して大問題となったが、私企業としては決算時に公表する埋蔵量は細心の注意を払った数値でなければならないのである。したがって米国やブラジルは経済性の原則に従い油価が高い状況下(2000~2014年)では探鉱が活発化し埋蔵量が増えるのに対して、油価の低い時期(2015年以降)は探鉱投資が低迷し埋蔵量が停滞または減少すると言えよう。

 

 ただ一般論としては埋蔵量に常にあいまいさがつきまとうのは避けられない。本レポートで取り上げたBPの他にも米国エネルギー省(DOE)やOPECも各国別の埋蔵量を公表している。しかしいずれも少しずつ数値が異なる。埋蔵量そのものを科学的に検証することが困難であると同時にそれぞれの査定に(たとえ米国の政府機関と言えども)政治的判断が加わる。結局「埋蔵量」とは掴みどころの無いものとしか言いようがないのである。

 

(石油篇埋蔵量完)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(3)

2017-06-28 | BP統計

2017.6.28

前田 高行

 

  BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2017」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

 

(チャペス時代に意図的に埋蔵量を引き上げたベネズエラ!)

(3)8カ国の国別石油埋蔵量の推移(2000-2016年)

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G03.pdf 参照)

 ここではOPEC加盟国のベネズエラ、サウジアラビア、イラン、イラク及びUAEの5カ国にロシア、米国、ブラジルを加えた計8カ国について2000年から2016年までの埋蔵量の推移を追ってみる。

 

 ベネズエラは2016年末の埋蔵量が3,009億バレルであり世界で唯一3,000億バレルを超える埋蔵量を保有している。同国が世界一になったのは6年前の2010年からである。2000年当時の同国の埋蔵量は現在の4分の1の768億バレルにすぎず、サウジアラビアはもとよりイラン、イラク、UAEよりも少なかった。ところが同国は2007年に埋蔵量を994億バレルに引き上げると翌2008年にはさらに2倍弱の1,723億バレルとしたのである。そして続く2009年、2010年にも連続して大幅に引き上げ、それまで世界のトップであったサウジアラビアを抜き去り石油埋蔵量世界一の国となった。

 

 しかし世界の石油関係者たちの中にはベネズエラの発表数値に疑問を持つ者が少なくない。埋蔵量の上方修正が2006年のチャベス大統領(当時)の再選以来顕著になっていることから、同大統領が国威発揚を狙って数値を意図的に水増ししている可能性が否定できないのである。埋蔵量が多いことは将来の増産余力があることを示しているため、ベネズエラがサウジアラビアなどの中東OPEC諸国に対抗し、さらには世界最大の石油消費国米国を牽制する意図もうかがわれるのである。油価の暴落により同国は財政破綻の危機に直面しており、最近はサウジアラビア、ロシアを巻き込んで生産を抑え価格を上昇させることに躍起になっている。

 

 実はベネズエラのように国威発揚のため埋蔵量を引き挙げているOPEC産油国は他にもある。それは互いの対抗心から埋蔵量を競い合っているイランとイラクである。2000年末の埋蔵量はイラク1,125億バレル、イラン995億バレルであったが、2002年にはイランが1,307億バレルに上方修正しイラクを逆転した。その後2009年までその状態が続いたが、2010年にイランが再度上方修正し、イラクとの差を広げると、イラクは2011年に埋蔵量を見直し、結局2016年末の埋蔵量はイラン1,584億バレル、イラク1,530億バレルで両国の差はほとんど無い状況である。

 

 イラクはサダム政権の時代、そしてイランは核開発問題を巡り国際社会の経済制裁を受けて共に石油開発は殆ど進展しなかった。このような中で両国が度々埋蔵量を上方修正した理由は互いのライバル意識で順位を競い合ったからとしか説明がつかないのである。OPEC加盟国であるベネズエラ、イランおよびイラクの埋蔵量数値は信ぴょう性が疑わしいと言わざるを得ない。

 

 これに対して同じOPEC加盟国でもサウジアラビアやUAEの公表値は全く変化していない。両国とも1990年末に改訂して以来現在まで埋蔵量は殆ど変化していない。2016年末の埋蔵量はサウジアラビアが2,666億バレル、UAEは978億バレルであり20年以上横ばい状態である。ただし横這いと言う意味は毎年、生産量を補う埋蔵量の追加があったことを意味している。例えばサウジアラビアの場合は1990年から2016年までの生産量は900~1,000万B/Dであり年率に換算すると33~37億バレルであるから、これと同量の埋蔵量が追加されてきたことになる。これは毎年超大型油田を発見しているのと同じことなのである。UAEについても同じことが言える。サウジアラビアもUAEも探鉱開発では古い歴史があり国内には石油のフロンティアと呼べる場所は殆ど見当たらない。にもかかわらず両国が埋蔵量を維持できた理由は、一つは既開発油田からの回収率をアップしたことであり、もう一つは既存油田の下の深部地層に新たな油田を発見したためである。

 

 非OPECのロシア、米国及びブラジル3カ国の2000年末と2016年末を比較するとロシアは漸減傾向にあり、米国とブラジルは増加している。即ち2000年末の埋蔵量はロシア1,125億バレル、米国304億バレル、ブラジル85億バレルに対し、2016年のそれはロシア1,095億バレル、米国480億バレル、ブラジル126億バレルでありロシアは2000年当時よりわずかではあるが減少しており、一方、米国は1.6倍、ブラジルも1.5倍近い伸びである。特に米国の場合は2009年末までは横ばい状態を続け、2010年に350億バレルに上方修正され、以後2014年まで毎年大きく増加している。これはシェールオイルの開発が軌道に乗ったことが大きいと考えられる。

 

 (続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(2)  

2017-06-27 | BP統計

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

 

2017.6.27

前田 高行

 

BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2017」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

 

2.1980年~2016年の埋蔵量と可採年数の推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G02.pdf参照)

 各年末の可採埋蔵量は、[ 前年末埋蔵量 + 新規発見(又は追加)埋蔵量 - 当年中の生産量]、の数式で表わされる。従って埋蔵量が停滞することは新規発見又は追加埋蔵量と当年の生産量が均衡状態にあることを示し、また可採年数が短くなることは石油資源が枯渇に近づいていることを示している。

 

(2011年以降埋蔵量は1.7兆バレルで頭打ち!)

(1)埋蔵量の推移

  1980年以降世界の石油埋蔵量はほぼ一貫して増加してきた。1980年代後半に埋蔵量が大幅に増えたのは1979年の第二次オイルショックで石油価格が高騰したことにより80年代前半に石油開発に拍車がかかり、その成果が現れた結果だと考えられる。1990年代に入ると毎年の追加埋蔵量と生産量(=消費量)がほぼ均衡し、確認埋蔵量は横ばいの1兆バレルで推移した。2000年代前半には埋蔵量は1.3兆バレル台にアップし、後半は埋蔵量の増加に拍車がかかって、2008年から2010年末まで毎年1千億バレルずつ増加してきた。しかし2011年以降は1.7兆バレル前後で横ばい状態にある。

 

2000年代は中国、インドなど開発途上国の経済が拡大し、それにつれて石油需要がほぼ毎年増加している。それにもかかわらず各年末の埋蔵量が増加したのは石油価格が上昇して石油の探鉱開発のインセンティブが高まった結果、新規油田の発見(メキシコ湾、ブラジル沖、中央アジア等)のほか非在来型と呼ばれるシェール・オイルの開発或いは既開発油田の回収率向上により消費量を上回って埋蔵量が増加したためと考えられる。

 

過去36年間の埋蔵量の推移を俯瞰すると1980年代に増加した後、90年代は停滞、90年代末から2000年代前半に埋蔵量は再び増加し、2000年代半ばに一旦停滞した。そして2008年から2010年にかけて3度目の増勢を示した後、3度目の停滞期に入っているようである。現在石油価格は多少回復したとはいえ50ドル前後に低迷しており、産油国および石油企業は油田の開発投資を大幅に抑制している。米国のシェールオイルの開発は活発であるが、石油価格に敏感であり短期的な生産抑制と生産増強が繰り返されているため埋蔵量の増加には結び付いていない。

 

今後数年間は埋蔵量が停滞または減少する傾向が続くと思われる。石油の開発あるいは生産増強投資は原油価格の上昇に敏感に反応するため、中長期的な埋蔵量がどの様に変化するか見通すことはかなり難しい。ただ、BP統計からは埋蔵量の増加と停滞のサイクルが短くなっていると言う事実を読み取ることができよう。

 

(昨年の可採年数は50.6年、問題含みの下落の兆候!)

(2) 可採年数の推移

可採年数(以下R/P)とは埋蔵量を同じ年の生産量で割った数値で、現在の生産水準があと何年続けられるかを示している。オイルショック直後の1980年は埋蔵量6,800億バレルに対し同年の生産量は6,300万B/D(年換算230億バレル)であり、R/Pはわずか30年にすぎなかった。しかし1990年代にはR/Pは40年台前半で推移し、1999年以後の10年間は40年台後半に伸び、2009年末のR/Pはついに50年を突破した。そして2016年末の埋蔵量は1兆7千億バレル(上記)に対し生産量は9,200万B/D(年換算336億バレル。なお生産量は次章で改めて詳述する)で、R/Pは50.6年である。

 

石油のR/Pは過去30年以上伸び続け、1980年の30年から2013年には54年へと飛躍している。この間に生産量は6,300万B/Dから8,700万B/Dへ40%近く増加しているのに対して埋蔵量は6,800億バレルから1兆7千億バレルと2.5倍に増えている。過去30年の間毎年7~9千万B/D(年換算約250~320億バレル)の石油を生産(消費)しながらもなお埋蔵量が2.5倍に増えているという事実は石油が地球上で次々と発見され(あるいは技術の進歩によって油田からの回収率が向上し)ていることを示しているのである。

 

かつて石油の生産が限度に達したとするオイル・ピーク論が声高に叫ばれ、石油資源の枯渇が懸念された時期があった。理論的には石油を含む地球上の炭化水素資源は有限である。しかし生産量を上回る新規埋蔵量の追加とそれによるR/Pの増加が示すように、現在の技術の進歩を考慮すると当面石油資源に不安は無いと言って間違いないのである。

 

現代における問題はむしろ人為的なリスクであろう。人為的なリスクとは例えばイラン問題に見られるような地政学的なリスクであり、或いは治安が不安定なイラク、リビア、ナイジェリアのような産油国の国内リスク、さらには国際的な投機筋の暗躍による市場リスクなのである。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月26日)

2017-06-26 | 今日のニュース

・石油業界筋、OPECの在庫減少策に疑問。先物が高いcontangoの状態に

・OPECに新たな頭痛の種:国内不況で原油の輸出ドライブがかかるブラジル

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月23日)

2017-06-23 | 今日のニュース

・5月のOPEC-非OPEC協調減産達成楚は106%:監視委員会発表。 *

 

*参考:OPEC・非 OPEC の協調減産は守られているか? (含、OPEC 総会) 【2017年6月現在】

 http://mylibrary.maeda1.jp/OpecNonOpecSupplyCutJun2017.pdf

 

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(1)

2017-06-22 | BP統計

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

2017.6.22

前田 高行

 

BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2017」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

 *BPホームページ:

http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

 

1.世界の石油の埋蔵量と可採年数

(断トツの埋蔵量を誇るベネズエラとサウジアラビア、両国で世界の3分の1!)

(1) 2016年末の埋蔵量

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G01.pdf 参照)

(表http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-T01.pdf 参照)

 2016年末の世界の石油確認可採埋蔵量(以下単に「埋蔵量」と言う)は1兆7千億バレル(1バレル=159リットル)である。埋蔵量を地域別に見ると、中東が全世界の埋蔵量の48%を占めている。これに次ぐのが中南米の19%であり、以下北米13%、欧州・ユーラシア9%、アフリカ8%であり、最も少ないのがアジア・大洋州の3%である。世界の石油の約半分は中東地域に存在しているのである。

 

 次に国別に見ると、世界で最も埋蔵量が多いのはベネズエラの3,009億バレルで世界全体の18%を占めており、第二位はサウジアラビア (2,665億バレル、16%)である。ベネズエラは2005年のBP統計では世界6位の772億バレルに留まっていたが、2009年統計では1,723億バレルに急増し、2011年以降は現在のような数値に置き換わっている。このような埋蔵量の急激な増加はチャベス元大統領の在任時の政府発表によるものであり国家の威信を示すための政治的要素が強いが、BPは同国にオリノコベルトと呼ばれる非在来型の重質油が2,200億バレルあると脚注している。オリノコベルト原油はこれまで商業生産の方法が確立できず、石油業界では重視されていなかった。しかし同じ非在来型のシェールオイルやオイルサンドが米国、カナダで急速に市場での存在感を高めている。従ってチャベス後のベネズエラの石油産業で若し欧米の先端石油開発生産技術が応用されるようになればオリノコベルト原油が市場に登場するのも遠い将来ではないと思われる。

 

BP統計上で埋蔵量が1千億バレルを超える国はベネズエラ、サウジアラビアのほかカナダ(1,715億バレル、10%)、イラン(1,584億バレル、9%)、イラク(1,530億バレル、10%)、ロシア(1,095億バレル、6%)及びクウェイト(1,015億バレル、6%)の7カ国である。これら7カ国のうちサウジアラビア、イラン、イラク及びクウェイトの4カ国はペルシャ(アラビア)湾岸の国である。

 

以下8位から10位まではUAE(978億バレル)、リビア(484億バレル)および米国(480億バレル)である。米国は2014年以降3年連続でベストテンに入っている。シェールオイルの相次ぐ発見と開発の結果である。

 

なお世界上位10カ国のシェアの合計は85%に達し、石油が一部の国に偏在していることがわかる。因みにOPECの合計埋蔵量は1兆2,205億バレル、世界全体の72%を占めている。「生産量」の項で触れるが、OPECの生産量シェアは43%であり埋蔵量のシェアよりかなり低い。これは生産余力或いは潜在的な生産能力が大きいことを示しておりOPEC諸国の存在感は大きいと言えよう。

 

 (続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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*「イランのガス開発計画」参照。

http://menadabase.maeda1.jp/1-D-3-51.pdf

 

 

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