石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

カタールGCC離脱(Qatarexit)の可能性も:カタールとサウジ国交断絶(2)  

2017-06-29 | OPECの動向

 

 

2017.6.30

荒葉一也

 

2.カタールのプライドをズタズタにしたサウジアラビア

 6月5日のサウジアラビア、エジプト、UAE及びバハレーンによるカタール断交の真の仕掛け人はサウジアラビア・サルマン国王の6男ムハンマド・ビン・サルマン(略称MbS)だとするのが衆目の一致した見方である。そのMbSは21日、副皇太子から皇太子に昇格し名実ともにサウジアラビアのNo.2になった。サルマン国王が甥のムハンマド・ビン・ナイフ(MbN)皇太子を解任し、自分の息子にすげかえたのである。サルマン国王が皇太子を交代させるのは昨年4月の異母弟ムクリン以来二度目のことである。昨年1月の即位からわずか1年半の間に異母弟と甥を次々と解任し息子のMbSを皇太子にしたことは極めて異例のことであり、これによってサウジアラビアの王位継承がサルマン一族の直系相続に絞られたと言って間違いなかろう。

 

 サウド家の王位継承問題は本稿のテーマから外れるので稿を改めて論ずることにするが[1]、皇太子就任によりMbSに絶大な権力が集中することになった。MbSは既に国防相の地位にあり、外交についても腹心(イエスマンと言うべきかもしれない)のジュベール外相を手足として動かし、経済面では2030年までに石油依存体質から脱却するとして無謀ともいえる野心的なビジョン2030計画を打ち出している。石油政策についてもMbSは全権を握っており、非OPECのロシアと協調減産体制を作り上げたことにMbSの強い意向がうかがえる。Falih石油相は実務を取り仕切るテクノクラートの域を出ず、むしろその権限はナイミ前石油相時代よりも縮小していると言えそうである。

 

 サウジなど4か国によるカタール断交宣言に続いて世界を驚かせたのは、6月22日、4か国がカタールに13項目の要求書を突きつけたことである。その要求とは次のようなものであった。

 

1.   イランとの外交関係のレベルを下げ、イランにあるカタールの事務所を閉鎖すること。

2.   ムスリム同胞団、イスラム国、アルカイダ、ヒズボッラーなどのテロ組織と関係を断つこと。

3.   アルジャジーラ及び関連事業を閉鎖すること。

4.   Arabi21などカタールが資金援助しているニュース局を閉鎖すること。

5.   トルコ軍の駐留を直ちに中止すること。

6.   サウジ、UAE、エジプト、バハレーン、米国、カナダおよびその他の国がテロリストと認定している個人、組織に対する資金提供を直ちに停止すること。

7.   サウジ、エジプト、UAE及びバハレーンがテロリストに指名している人物をそれぞれの国に引き渡すこと。

8.   各国の主権である国内問題への干渉を止めること。

9.   サウジ、エジプト、UAE、バハレーン各国内の反政府勢力との接触を断つこと。

10. 最近のカタールの政策により逸失した生命その他の損失を補てんすること。

11. 2014年のサウジアラビアでの合意に沿って他の湾岸及びアラブ諸国と軍事的、政治的、社会的及び経済的に同調すること。

12. 10日以内に要求に従わない場合はこのリストは無効となる。

13. 合意した場合は最初の1年間は毎月、2年目以降10年目までは3か月ごとに実施状況の監査を受けること。

 

 通常の外交文書でこれほどまでに一方的で強硬な要求は例がないと言えよう。32歳という若いサウジ皇太子の性急さと外交慣例とカタールの主権を無視した姿勢には驚くばかりである。カタール側が直ちに反論したのは当然である。サウジアラビアのMbSはカタールのプライドをズタズタにしたのである。

 

 10日間の期限内にカタールが全面的に要求を飲むことは考えられず、サウジ側も要求を取り下げることは無いであろう。多分第12項にある通り10日後に要望は無効となるのであろう。それでもMbSは要求を出した事実が残ることで成果があったと強弁するのであろうか。結局残るのはGCCの深い亀裂だけではなかろうか。年末には毎年恒例のGCCサミットが開催されるはずである。その頃には恐らくIS(イスラム国)は壊滅しているであろうが、テロ拡散という新たな問題が発生することは間違いない。GCCの盟主サウジアラビアは自国を含めGCC6か国の君主制国家の安全をどのように考えているのであろうか。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] サウド家相続問題については下記レポート参照。

「迫るサウド家の世代交代」(2010年11月):

http://mylibrary.maeda1.jp/0162SaudRoyalFamily2010.pdf 

「迷走と暴走を繰り返す老国王」(2015年9月):

http://mylibrary.maeda1.jp/0354SaudiKingSalman.pdf 

 

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(4)  

2017-06-29 | BP統計

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

 

2017.6.29

前田 高行

 

 BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2017」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

 

1.世界の石油の埋蔵量と可採年数(続き)

(世界の石油の7割はOPECに!)

(4)OPECと非OPECの比率

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G04.pdf参照)

 既に述べた通り2016年末の国別石油埋蔵量ではベネズエラとサウジアラビアが世界1位、2位であるが、両国は共にOPECのメンバーである。また両国の他にイラン、イラク、クウェイト、UAE及びリビアが石油埋蔵量の上位10カ国に名を連ねている(「1.世界の石油の埋蔵量と可採年数」参照)。実にベストテンのうち7カ国がOPEC加盟国であり、非OPECで世界ベストテンに入っているのは3位カナダ、6位ロシア及び10位米国の3カ国だけである。OPEC全加盟国の埋蔵量を合計すると1兆2千億バレルに達し、世界全体(1.7兆バレル)の72%を占めている。

 

 加盟国の中にはベネズエラ、イラン、イラクのように埋蔵量の公表数値に水増しの疑いがある国もあるが(前項参照)、統計上で見る限りOPECの存在感は大きい。現在OPEC13か国の内11か国はロシアなど非OPEC11カ国と協調減産を行っているが、将来の生産能力を考えた場合埋蔵量の多寡が決定的な意味を持ってくる。この点からOPEC加盟国の埋蔵量が世界全体の7割以上を占めていることはOPECが将来にわたり石油エネルギーの分野で大きな存在感を維持すると言って間違いないであろう。OPEC加盟国の間でもベネズエラ、イラン、イラクなどが埋蔵量の多寡に拘泥するのはその延長線上だと考えられる。

 

 OPEC対非OPECの埋蔵量比率を歴史的に見ると、1980年末はOPEC62%に対し非OPECは38%であった。その後この比率は1985年末にOPEC66%、非OPEC34%、さらに1990年末にはOPEC74%に対し非OPEC26%とOPECの比率が上昇している。これは1970年代の二度にわたる石油ショックの結果、1980年代に需要の低迷と価格の下落が同時に発生、非OPEC諸国における石油開発意欲が低下したためである。

 

 1990年代末から2000年初めにかけて世界景気が回復し、中国・インドを中心に石油需要が急速に伸び価格が上昇した結果、ブラジル、ロシア・中央アジアなどの非OPEC諸国で石油の探鉱開発が活発となり、2000年末にはOPEC65%、非OPEC35%と非OPECの比率が上昇している。しかし2005年以降はOPECのシェアが2005年末68%、2016年末72%と1990年代前半と同じ水準に達している。これはベネズエラが2008年から2010年にかけて自国の埋蔵量を3倍以上増加させたことが最大の要因である。

 

 前項(3)で取り上げたようにOPECのベネズエラ、イラン、イラク3カ国と非OPECの米国、ブラジル2カ国は2000年以降2014年までいずれも埋蔵量が増加している。しかし両グループの性格は全く異なることを理解しなければならない。ベネズエラなどOPEC3カ国の埋蔵量は国威発揚と言う動機が働いて水増しされているものと推測されるが、政府が石油産業を独占しており水増しの有無を検証することは不可能である。

 

 これに対して石油産業が完全に民間にゆだねられている米国、或いは国際石油企業との共同開発が一般的なブラジルのような国では埋蔵量を水増しすることはタブーである。何故ならもし水増しの事実が露見すれば当該石油企業は株主訴訟の危険に晒されるからである。かつてシェルが埋蔵量を大幅に下方修正して大問題となったが、私企業としては決算時に公表する埋蔵量は細心の注意を払った数値でなければならないのである。したがって米国やブラジルは経済性の原則に従い油価が高い状況下(2000~2014年)では探鉱が活発化し埋蔵量が増えるのに対して、油価の低い時期(2015年以降)は探鉱投資が低迷し埋蔵量が停滞または減少すると言えよう。

 

 ただ一般論としては埋蔵量に常にあいまいさがつきまとうのは避けられない。本レポートで取り上げたBPの他にも米国エネルギー省(DOE)やOPECも各国別の埋蔵量を公表している。しかしいずれも少しずつ数値が異なる。埋蔵量そのものを科学的に検証することが困難であると同時にそれぞれの査定に(たとえ米国の政府機関と言えども)政治的判断が加わる。結局「埋蔵量」とは掴みどころの無いものとしか言いようがないのである。

 

(石油篇埋蔵量完)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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