石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(2)  

2017-06-27 | BP統計

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

 

2017.6.27

前田 高行

 

BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2017」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

 

2.1980年~2016年の埋蔵量と可採年数の推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G02.pdf参照)

 各年末の可採埋蔵量は、[ 前年末埋蔵量 + 新規発見(又は追加)埋蔵量 - 当年中の生産量]、の数式で表わされる。従って埋蔵量が停滞することは新規発見又は追加埋蔵量と当年の生産量が均衡状態にあることを示し、また可採年数が短くなることは石油資源が枯渇に近づいていることを示している。

 

(2011年以降埋蔵量は1.7兆バレルで頭打ち!)

(1)埋蔵量の推移

  1980年以降世界の石油埋蔵量はほぼ一貫して増加してきた。1980年代後半に埋蔵量が大幅に増えたのは1979年の第二次オイルショックで石油価格が高騰したことにより80年代前半に石油開発に拍車がかかり、その成果が現れた結果だと考えられる。1990年代に入ると毎年の追加埋蔵量と生産量(=消費量)がほぼ均衡し、確認埋蔵量は横ばいの1兆バレルで推移した。2000年代前半には埋蔵量は1.3兆バレル台にアップし、後半は埋蔵量の増加に拍車がかかって、2008年から2010年末まで毎年1千億バレルずつ増加してきた。しかし2011年以降は1.7兆バレル前後で横ばい状態にある。

 

2000年代は中国、インドなど開発途上国の経済が拡大し、それにつれて石油需要がほぼ毎年増加している。それにもかかわらず各年末の埋蔵量が増加したのは石油価格が上昇して石油の探鉱開発のインセンティブが高まった結果、新規油田の発見(メキシコ湾、ブラジル沖、中央アジア等)のほか非在来型と呼ばれるシェール・オイルの開発或いは既開発油田の回収率向上により消費量を上回って埋蔵量が増加したためと考えられる。

 

過去36年間の埋蔵量の推移を俯瞰すると1980年代に増加した後、90年代は停滞、90年代末から2000年代前半に埋蔵量は再び増加し、2000年代半ばに一旦停滞した。そして2008年から2010年にかけて3度目の増勢を示した後、3度目の停滞期に入っているようである。現在石油価格は多少回復したとはいえ50ドル前後に低迷しており、産油国および石油企業は油田の開発投資を大幅に抑制している。米国のシェールオイルの開発は活発であるが、石油価格に敏感であり短期的な生産抑制と生産増強が繰り返されているため埋蔵量の増加には結び付いていない。

 

今後数年間は埋蔵量が停滞または減少する傾向が続くと思われる。石油の開発あるいは生産増強投資は原油価格の上昇に敏感に反応するため、中長期的な埋蔵量がどの様に変化するか見通すことはかなり難しい。ただ、BP統計からは埋蔵量の増加と停滞のサイクルが短くなっていると言う事実を読み取ることができよう。

 

(昨年の可採年数は50.6年、問題含みの下落の兆候!)

(2) 可採年数の推移

可採年数(以下R/P)とは埋蔵量を同じ年の生産量で割った数値で、現在の生産水準があと何年続けられるかを示している。オイルショック直後の1980年は埋蔵量6,800億バレルに対し同年の生産量は6,300万B/D(年換算230億バレル)であり、R/Pはわずか30年にすぎなかった。しかし1990年代にはR/Pは40年台前半で推移し、1999年以後の10年間は40年台後半に伸び、2009年末のR/Pはついに50年を突破した。そして2016年末の埋蔵量は1兆7千億バレル(上記)に対し生産量は9,200万B/D(年換算336億バレル。なお生産量は次章で改めて詳述する)で、R/Pは50.6年である。

 

石油のR/Pは過去30年以上伸び続け、1980年の30年から2013年には54年へと飛躍している。この間に生産量は6,300万B/Dから8,700万B/Dへ40%近く増加しているのに対して埋蔵量は6,800億バレルから1兆7千億バレルと2.5倍に増えている。過去30年の間毎年7~9千万B/D(年換算約250~320億バレル)の石油を生産(消費)しながらもなお埋蔵量が2.5倍に増えているという事実は石油が地球上で次々と発見され(あるいは技術の進歩によって油田からの回収率が向上し)ていることを示しているのである。

 

かつて石油の生産が限度に達したとするオイル・ピーク論が声高に叫ばれ、石油資源の枯渇が懸念された時期があった。理論的には石油を含む地球上の炭化水素資源は有限である。しかし生産量を上回る新規埋蔵量の追加とそれによるR/Pの増加が示すように、現在の技術の進歩を考慮すると当面石油資源に不安は無いと言って間違いないのである。

 

現代における問題はむしろ人為的なリスクであろう。人為的なリスクとは例えばイラン問題に見られるような地政学的なリスクであり、或いは治安が不安定なイラク、リビア、ナイジェリアのような産油国の国内リスク、さらには国際的な投機筋の暗躍による市場リスクなのである。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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