石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(再録)現代中東の王家シリーズ:サウジアラビア・サウド家(7)

2019-01-08 | 中東諸国の動向

 

初出:2007.7.16

再録:2019.1.8

 

(注)以下の人名、肩書はいずれも2007年当時のものです。2019年現在のサウド家の勢力図については下記の系図を参照ください。

・ サウド家第二~第五世代の主要王族:http://menadabase.maeda1.jp/3-1-1.pdf 

 

(7)要職を独占するサウド家の王族(その1):中央政府閣僚

 「サウジアラビア王国」は国王に全ての権力が集中する絶対君主制の国家である。1992年に制定された「統治基本法」では、政体を君主制とし国王が皇太子を選任すると定められている(同法第5条)。そして国王自らが首相となり(同法第56条)、副首相及び大臣を任免する(同法第57条)。また国王は軍の最高司令官である(同法第60条)。同国には国会に相当する諮問評議会があるが、評議会に立法権限はなく、政府が提出する法案を審議するだけで拒否権も無い。この諮問評議会の議員は普通選挙ではなく国王によって任命される。このようにサウジアラビアの政治制度は西欧型民主主義とは全く異質のものなのである。

 そもそも「サウジアラビア王国」とは「サウド家によるアラビアの王国」の意味であり、サウド家の家父長がサウジアラビア王国の国王となる仕組みである。そしてアラブ・ベドウィンの一族であるサウド家は絶対家父長制である。従ってサウド家の当主である国王に全ての権限が集中するのはある意味で当然のことである。政府の要職もサウド家の王族が独占することになる。

 首相である国王は、まず皇太子を第一副首相に任命し、重要な閣僚ポストには兄弟或いは彼らの子息(つまり国王の甥たち)を指名する。因みにアブダッラー国王(左写真)には実の兄弟がいないため、王族閣僚は異母弟またはその子息達である。重要な閣僚ポストとは、国防相、内務相、外相など、サウジアラビアとサウド家の命運を握る治安と外交の閣僚ポストである。その他にも財務相、石油相なども同国にとっては重要なポストであるが、これらはナイミ石油相に見るように能力のあるテクノクラートに委ねられている[1]

 中央政府の閣僚ポストにある王族とその年齢及び血縁関係を列挙すると以下の通りである。


首相: アブダッラー国王(83歳、初代国王の11男)
第一副首相兼国防相: スルタン皇太子(79歳、同15男。スデイリ・セブン次男)
内相: ナイフ王子(74歳、同23男。スデイリ・セブン五男)
外相: サウド王子(67歳、初代国王の孫。故ファイサル第三代国王4男)
国務相: アブドルアジズ王子(36歳、ファハド前国王6男)
都市村落相: ムッテーブ王子(76歳、初代国王17男)
国防副大臣: アアブドルラハマン王子(76歳、同16男。スデイリ・セブン三男)
内務副大臣: アハメド王子(66歳、同31男。スデイリ・セブン末弟)

 (注)各王子の年齢については諸説ある。スデイリ・セブンについては前回参照。

 サウド外相とアブドルアジズ国務相を除く6人はアブドルアジズ初代国王の息子達、いわゆる「第二世代」と言われ、サウドとアブドルアジズは初代国王の孫の「第三世代」である。閣僚の構成で特に目立つのはスデイリ・セブンのメンバーが4人いることである。第三世代のアブドルアジズ国務相もスデイリ・セブンの長男である故ファハド前国王の息子であり、従ってスデイリ・グループは上記8人の王族閣僚のうち実に5人を占めている。

 第二世代は現在70~80歳の高齢であり、サウド外相も第三世代とは言えすでに60歳台後半であり決して若いとは言えない。王族閣僚の中ではアブドルアジズ国務相が際立って若い(36歳)。ファハド前国王の末子であるアブドルアジズ王子はファハドの存命中に28歳の若さで国務相に抜擢されている。彼の就任当時ファハド国王は既に病気がちで、実権はアブダッラー皇太子兼第一副首相(現国王)が握っていた。アブドルアジズの国務相抜擢は当時内外の話題となったが、彼を溺愛するファハド国王のたっての願いをアブダッラー他のサウド家王族が受け入れたものと考えられている。

 アブダッラーは2005年に国王に即位し、首相に就任して名実共にトップに立った後も、アブドルアジズ国務相を含め王族閣僚を交代させることはなかった。この結果皇太子であり第一副首相と国防相を兼務するスルタンは、1962年の就任以来半世紀近く国防相をつとめ、ナイフ内相も32年間にわたり同一ポストを続けている。今年3月、閣僚任期(4年)が終わったが、アブダッラー国王は上記王族を含め全閣僚を留任させている。アブダッラーは急激な変化を望まない慎重な性格と言われ、今回の閣僚全員の留任もその現れと受けとめられており、特に王族閣僚の扱いについてはサウド家内部に余計な軋轢を生じさせないためと思われる。

 そのことはアブダッラーが国王即位後、第二副首相(第一副首相はスルタン皇太子)を指名しなかったことにも現れている。アブダッラー及びスルタンの例に見られるように過去二代の国王が即位後の内閣で指名した第二副首相は、後に国王交替の時に皇太子に指名されている。このためアブダッラー国王が第二副首相に誰を指名するかが大いに注目されたが、彼は結局誰も指名しなかったのである。

 王族閣僚が高齢化し世代交替の時期にあることは間違いない。しかし84歳のアブダッラー国王はサウド家の権力承継の道筋を未だに示していないのである。

(続く)

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

 

(再録注記)



[1] 2018年12月現在の閣僚名簿は下記参照。

http://menadabase.maeda1.jp/4-1-1SaudiCabinet.pdf 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする