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(再録)現代中東の王家シリーズ:サウジアラビア・サウド家(8)

2019-01-13 | 中東諸国の動向

 

初出:2017.7.21

再録:2019.1.13

 

(8)要職を独占するサウド家の王族(その2):官選知事の顔ぶれ

前章で述べたとおり中央省庁ではアブダッラー国王兼首相をはじめ6人の王族が大臣ポストに就き、そこでは今も第二世代(アブドルアジズ初代国王の子息)の存在が大きい。しかし第二世代であるアブドルアジズの36人の息子のうち既に15人が亡くなり、存命している21人も83歳のアブダッラー国王を初め高齢者が多い[1]。一方、州知事レベルでは世代交替が進み第三世代(初代国王の孫)が中核となっている。

  サウジアラビアには13州の地方行政区がある。国土は日本の6倍近くあるが、人口は17百万人(外国人を含めれば23百万人)に過ぎずない[2]。人口はリヤド、ジェッダ及びダンマンの三大都市圏に集中しているが、地方では昔ながらのベドウィンの部族社会が幅を利かせている。サウド家はアラビア半島を征服するためこれら地方部族を時には武力で制圧し、或いはアブドルアジズ自身が相手の部族長の娘を娶ることにより同盟関係を築いた(第4回参照)。従って地方の部族と良好な関係を維持し或いは彼らの不満を和らげることは州知事の重要な役割である。

 13州のうちリヤド州、マッカ州及び東部州の3州は特に重要である。リヤド州は首都リヤドを擁する同国の中心であり、またサウド家発祥の地でもある。マッカ州は紅海沿岸に面し、商業都市ジェッダ及びイスラーム教の聖都マッカがある。そしてアラビア湾に面した東部州は油田地帯であり同国の財政を支えている。

知事は官選であり国王が任命する。その結果、13州の知事のうち11名は第二世代或いは第三世代の王族であり、残る2名もサウド家五摂家(第1回参照)のジルウィ家出身、及びサウド家と深い姻戚関係を持つスデイリ家出身である。つまり13名の知事全員がサウド家の身内なのである。

王族知事11名とその血縁関係及び年齢は以下のとおりである[3]

サルマン・リヤド州知事(故アブドルアジズ初代国王25男、スルタン皇太子実弟。71歳)
ハーリド・マッカ州知事(故ファイサル第3代国王3男。67歳)
ムハンマド・東部州知事(故ファハド第5代国王次男。57歳)
アブドルアジズ・マディナ州知事(故マジド・マッカ州知事次男。不詳)
サウド・ハイール州知事(故アブドルモホセン・マディナ州知事次男。60歳)
ムハンマド・バーハ州知事(故サウド第2代国王次男。73歳)
ファイサル・アシール州知事(故ハリド第4代国王次男。不詳)
ファイサル・カシーム州知事(バンダル王子長男。64歳)
ファハド・タブーク州知事(スルタン皇太子次男。57歳)
ミシャール・ナジュラン州[4]知事(故サウド第2代国王14男。不詳)
ファハド・ジョウフ州知事(バドル国家警備隊副司令官3男。不詳)

(注)北部国境州知事はジルウィ家出身、ジザン州知事はスデイリ家出身である。

 11名の王族知事のうちサルマン・リヤド州知事は第二世代であるが、その他は全員第三世代である。最近の例を見る限り、昨年10月のマッカ州のように知事の交替は現職が亡くなった場合に限られている。当時アブドルマジド・マッカ州知事(当時)は米国で病気療養中であり執務不能の状態であったが、後任知事(ハーリド・アシール州知事の横滑り)が任命されたのは彼が亡くなった後のことである。現状では知事は終身制であると言っても過言ではない。

 また知事の顔ぶれには第2代サウド国王から第5代ファハド前国王までの歴代国王の息子達が揃っている。さらにスデイリ・セブンとその息子達もリヤド州知事(サルマン)、東部州知事(ファハド前国王子息)、タブーク州知事(スルタン皇太子子息)の座を占めており、一族の優遇振りが目立つ。

 アブダッラー国王は2005年の知事任期(4年)の満了に際し全員を再任した。彼が知事全員を再任したのはサウド家内部に余計な摩擦が生まれることを懸念したからと考えられる。つまり知事の任命基準は本人の行政能力よりもむしろサウド家内部の勢力バランスを考慮した結果と言えそうである。スデイリ・セブンに属するサルマン・リヤド州知事とムハンマド東部州知事の続投などはその好例であろう。

これはあくまで筆者の個人的見解であるが、彼ら二人の行政能力には多少の疑問を感じる。特にサルマン知事の場合、3年前にリヤドでテロ事件が多発し首都の治安が問題となったケースを考えるとその感が強い。この時の一連のテロ事件を押さえ込んだのは実兄のスルタン国防相(現皇太子)あるいはナイフ内相であり、サルマン知事本人ではなかった。リヤド州知事が単なるテクノクラートであれば更迭されてもおかしくなかったはずである。また東部州知事のムハンマドについても新聞で見る限り市民の前に姿を現すことも稀で、行政上も確たる実績が見られないように思われる。

 サウジアラビアの地方自治は、昨年漸く州議会(Municipal Council)の半数が選挙で選ばれるようになったばかりであり、知事の公選制は当分先のことである。サウジアラビアが「サウド家のアラビア」であり続ける限り、大都市のみならず地方部族を掌握するためにも知事の国王任命制は変わらないであろう。そのため国王が知事を選ぶ基準も結局サウド家内部の勢力関係を色濃く反映したものにならざるを得ないようである。

(続く)

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

 

(再録注記)



[1] 2019年1月現在生存している第二世代王族は下記の7人のみである。

サルマン(国王、25男)、ムッテーブ(17男)、マムドゥーフ(28男)、アブドルイッラー(29男)、アハマド(31男)、マシュフール(33男)、ムクリン(35男)

[2] 国連人口基金の最新統計によればサウジの人口は3,220万人。

[3] 州知事は今も全員サウド家王族であり(1名は外戚のジルウィ家出身)、副知事にも王族が少なくない。

「サウジアラビアの州知事・副知事」参照。http://menadabase.maeda1.jp/4-1-2.pdf 

[4] 知事・副知事は国王任命制であり論功行賞の意味合いが大きく、現在はムハンマド皇太子の意向が強く働いているようである。

 

コメント
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