石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

SF小説:「ナクバの東」(56)

2022-12-01 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)

 

56. 悪魔の発明(4)

 

しかし彼の研究は次第に行き詰まってきた。何が優秀な遺伝子であるか、そしてその遺伝子の増殖能力をどのように高めるかを見極めることは困難を極めた。そして何よりも困ったのは研究室の顕微鏡レベルで作り上げたものを実際に人体実験することが不可能だったことである。かつての忌まわしいナチスの時代であればアシュケナジムが実際人体実験に使われたが、今のイスラエル国内でそのようなことができるはずがない。

 

兵器の分野では現代でも生物化学兵器の開発は行われており、白リン弾などはイスラエル自身がガザ紛争でパレスチナ人に対して実際に使用している。白リン弾そのものが化学兵器かどうかは議論の分かれるところであるが、これによって多くのパレスチナ兵士がかなりの火傷を負ったことも事実である。イスラエルにとって戦場は新型兵器の格好の実験場なのである。イスラエル政府内の強硬派或いは国内右派のユダヤ至上主義者達にとって、敵対するパレスチナ人を戦場で殺傷することには常に大義名分がある。

 

しかしいかにイスラエルが圧倒的な力を誇ろうと、その力を戦場以外のところでパレスチナ人に対して行使することは許されない。パレスチナ人を医療分野で人体実験に使うことはさすがのイスラエルもできない。もしそのようなことになれば自らがナチスの後継者になってしまう。ただ『ドクター・ジルゴ』が目指す優秀な遺伝子の臨床実験対象はユダヤ人のアシュケナジムであり、パレスチナ人では意味が無いと言う大前提がある。

 

 研究に行き詰った彼は発想を逆転させる必要を感じた。強いものをより強く、そしてその個体が自己増殖するような遺伝子を創り出すためには、逆に衰退しつつある地球上の生物を研究する価値がありそうだ。その衰退の原因を突き止めれば、そこから逆に別の生物、すなわちヒトの増殖に応用できるヒントがあるかもしれない、と彼は考えたのである。

地球上ではこれまで数限りない生物が生まれそして滅んでいった。地球上の生物の歴史は、栄枯盛衰、生者必滅の歴史であった。かつてある地域で繁栄していた生物が滅んでいく。それら滅びゆく生物の『種』を現代社会は「絶滅危惧種」に指定して何とか地球上に残そうとしている。

有史以来の『種』の絶滅の原因はいくつかある。例えば惑星の衝突による急激な気候変動とそれによる恐竜の突然の絶滅はその例である。或いは氷河期と温暖期の周期的な繰り返しという緩慢な気候の変動によってある『種』が徐々に絶滅する場合もある。また周囲から隔離された地域に外来種が侵入したことによって固有の『種』が死滅する場合もある。そして最も野蛮なケースこそ人間の乱獲による特定の動植物の絶滅であろう。これらは全て外部の圧倒的な力によって『種』が滅亡するケースである。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

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