ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

参宮橋実験 結果の分析

2007年11月09日 | ITS
参宮橋実験では、VICSを使った路車間通信は事故防止にあまり効果がなかったことが明らかになったが、だから路車間は効果がない、という前に以下を検討するのがフェアだろう。

第一点
・参宮橋実験では、光ビーコンによる情報提供が行われた。
・光ビーコン装着車両総数は170万台。首都高4号線走行車では10%程度。
・光ビーコン用のセンサーはほとんどのカーナビメーカーでオプション設定。
 単体出荷数は少なく、お金を払って装着しているユーザーはあまりいない。
・実は、170万台の過半がクラウンなど、高級車への標準装備。

ということで、ビーコン装着車(およびその運転者)に「あまり無茶な運転をしない」「カーブにオーバースピードで突っ込んだりしない」というスクリーニングがかかっていることが想像できるし、仮に危険な運転となった場合でも、「ASCなどの高級装備でスリップしない」ことが想像できる。

つまり、VICS路車間通信による警報は効果がないのではなく、その対象車両はそもそもあまり事故を起こさないのだ、という仮説が成立しそうだ。

第二点
VICSへの情報提供とほぼ時を同じくして、同一内容の路側表示板への情報提供が行われている。
VICSサービス停止の間も、この路側表示板へのサービスは実施されていた。
つまり、車載器に表示することの有効性は証明されなかったが、カーブ先の危険情報を事前に通知する仕組みそのものに関しては、効果無しということは出来ない。

但しこれが効いたのか、舗装改良が効いたのか、路面カラー塗装が効いたのかの分析は、この結果からではできない。

結局のところ、複数の仮説を同時に導入したため何に効果があったのかがまったくわからないという「実験の体をなしていない」実験となってしまったことが最大の問題だ。
多分、効果を出すことが命題として与えられていたのだろう。そういう意味では確信犯かもしれない。

この辺の反省を踏まえて、今やっている首都高のDSRC実験については有識者の意見を真摯に聞いてまともな分析をやってもらいたいものだ。

両角氏いわく、参宮橋実験の構想段階で道路継ぎ目段差については指摘したし、実際首都高速は舗装打ち替え時にそれを改善しているが、各団体の発表してきた実験結果ではその事実をまったく無視している。
VICS停止期間と事故の関係もしかり。
こんなの分析の初期段階で気が付いていたはずで、意図的に隠していたとしか思えない。

この先でるであろう首都高DSRC実験とその報告ではこうしたつまらない隠蔽はやめてもらいたい。

第2回日本ITS推進フォーラム 参宮橋の真実

2007年11月08日 | ITS
午後の部で行われた赤羽教授がコーディネーターとなって行われたパネルディスカッションは本当によかった。
まず、自動車評論家両角氏のご発言によって、参宮橋実験に関しての私の疑問がすべて明らかになった。

やはり事故が減ったのは路車間通信の手柄ではなく、まったく違う理由だったのだ。

それは、カーブ途中にある路面の継ぎ目。
氏は以前からこの路線を日常的に使っており、コーナーの途中、タイヤがまさにグリップし踏ん張るあたりで継ぎ目段差があり、そこで車両の挙動が変化することを知っていた。

両角氏は、参宮橋カーブが事故多発カーブであることには理由があるはずだ、という。そして、単に直線からの急カーブ、カーブ先の渋滞という理由なら、新宿カーブとの事故件数の差が説明できない、という。そして、その理由はカーブ途中に路面継ぎ手があることだという。
そのとおりだろう。

この実験にあたって氏はこの事実を首都高速側に提示しており、実際に舗装打ち直しで段差が改善されているのだ。

問題は、それを含めた路面、路側掲示板などの改善を、カーブ先情報のVICS表示や掲示板表示などとほぼ同時に五月雨式に実施したため、明確に何が功を奏したのかがわからない、ということだ。
今回の資料で初めてそれらの改修の詳細が説明されている。
(後日画像を上げます)

平成16年12月 舗装打ち替え(含む段差解消) これ以降、事故は大幅減少
平成17年3月 VICSサービス開始
平成17年4月 全面カラー舗装による注意喚起
平成17年4月 渋滞末尾情報板設置
平成17年6月 VICSサービス中断 事故の増加はなし
平成17年7月 継ぎ目のノンスリップ加工実施
平成17年9月 VICSサービス再開

そして、これはきわめて皮肉なことだが、その各種対策のなかで唯一VICSによる情報提供だけが見かけ上は「効果なし」と分析できる。
なぜなら、上の一覧でわかるとおりVICSサービスは平成17年6月~9月の3ヶ月間サービスを休止していたが、その間事故はまったく増えていないのだ。(一年前の拙稿

(注:実際には「カーブ先情報を車載器に表示する以上ポジティブな効果は当然あるはずだが、装着台数やカーブ先渋滞のオケージョンが多くないので顕著に結果として現れていない」というのがより正確だと思います)

いままでの会議や資料では、こうした事実は隠され、単純に「参宮橋実験で事故が減った」という恣意的な宣伝が行われていたが(AHSRAの例)、今回の資料で事実を明確に示したことは大いに評価できる。

参宮橋実験は「路車間通信の成功例として評価するべきものではない」ということが今回ITSジャパン関係者の間でも正式に確認された、と私は理解したのだが、それでいいのでしょうか?

第2回日本ITS推進フォーラム

2007年11月08日 | ITS
今日は大手町の経団連ホールで行われている第2回日本ITS推進フォーラムに来ている。
参加者は200人くらいかな。

午前中は豊田会長、ITSアメリカのCEO、各省庁のITS関係責任者のかたがたのお話。PHSの電波が届くので、PCからモバイル接続している。

内容については後ほどゆっくり記事にします。

第二東名 その3

2007年11月08日 | 高速道路
引き続き、第二東名。

この道路の設計速度については、いろいろ言われている。

140km/hを前提に設計し、そのために直線を多くした、したがってトンネルや橋も多くなり、建設費も高くなった。
しかし140km/h走行に対する関係省庁のコンセンサスが取れておらず、今のところ140km/h制限のめどが立っていない、という。
この話は、日テレの報道特捜プロジェクトがわかりやすい。
(でも、なんでこの話がその後盛り上がらないのでしょう)

まあ、これは縦割り行政によくある間抜けな話だが、多分120km/hあたりに落としどころがあるのだろう。

一方、落としどころがないのが、第二東名は海老名で終わっちゃうってこと。
山側を通る第二東名は、海老名の手前で東名と交差して海側を通り東京にいたる。しかし、その海老名よりも東のルートについてはまったく建設の目処が立っていない。
東名高速の慢性渋滞箇所である綾瀬バス停とか大和トンネルとか横浜インターとかは改善されないのだ。

10兆円使っても。

いずれ圏央道が海老名のあたりで繋がるので関越、東北へ行くトラフィックは東京を迂回するようになり、東名神奈川県内の渋滞は緩和され、第二が海老名まででも意味はあるのだ、という主張もある。
静岡県は「第二東名を利用して都心方向に向かう交通は圏央道により適切に分散」などとわざわざHPで謳っている。

でもそれはあくまで圏央道の手柄であって、別に第二東名が出来ようが出来まいが関係ないことだろう。
それを、「第二東名によって首都圏とのネットワークが形成される」なんて言っている。典型的な理論のすり替えだ。

第二東名 その2

2007年11月07日 | 高速道路
第二東名建設推進派といえば、静岡県の石川知事。
実際、静岡県のインターネットホームページには(4年前の古い記事ではあるが)「第二東名を一日も早く開通させよう」というページが存在する。

逆にわざわざこうした特集を組んでまで建設反対論を押さえ込まなければならないほど第二東名は怪しい話なのだ、と私には映る。

ここで示されている建設の必要性は、以下の通りだ。
・慢性的な渋滞解消
・事故の多発
・災害時のバックアップ

しかし、これら示されている理由が本当に10兆円に値するのだろうか。

慢性的な渋滞というが、現在東名高速道路の静岡県内における慢性渋滞ポイントは上り線沼津-御殿場間の上り坂サグぐらいらしい。
かつては日本坂トンネルが渋滞ポイントであったが、1998年のトンネル・車線増設などで改善されている。
というか、渋滞対策はこのように現在の東名を改善すればよく、10兆円かけて新しいの作る、ってのはどう考えてもWILDな計画だ。

では、事故はどうなのか。
WEBページでは中央高速の山梨県内が1kmあたり年間1.4件、東名静岡県内が1kmあたり年間2.5件で、現在の東名が事故の多い道路だとしている。
その理由が、カーブが多いからなのか通行量が多いからなのかはわからないが、多分通行量だろう。東名をもう一本作れば通行量は分散されるから1kmあたりの事故件数は間違いなく減るだろうが、現行東名と第二東名全体での事故絶対数が減少する、ということが検証されているのだろうか?
第二東名はカーブのRがゆるく、直線が多いのである程度事故が減少するのはその通りだと思うが、これに関するデータは国交省道路局によるこんな恣意的な物しか見つからなかった。

(3000R以上、勾配2%以下の区間と、1000R以下、勾配3%以上の区間を比較して、死亡事故は約半分とか言っている。2000Rはどこへ行った?なんで勾配まで検討に含める? 「この条件にしないと説得力がある差が出なかった」 としか考えられない)

そして、災害のバックアップだが。
確かに東海地震のリスクはあり、東名はわが国の大動脈だと思う。
でも、中央自動車道があるじゃないの。まったく高速自動車道路が寸断されるわけじゃない。
ちょっと論点はずれるが、阪神大震災の被害総額は10兆円だそうだ。第二東名の建設費は震災の復興にとっておいた方がいいんじゃないの?

ということで、私にはどうしてもこれらが10兆円をかけてもう一本東名を作る理由には思えないのだ。

第二東名

2007年11月06日 | 高速道路
さて、静岡の山の中で着々と建設が進んでいる第二東名について、しばらく書いていきたいと思う。

まずは、単純に考えてみよう。
わが国の人口が今後減少することは間違いない。高齢化社会の到来は目前だ。
当然のことながら、人・貨物ともに物量・トラフィックが今後右肩上がりで増加するということはありえないだろう。

そういう環境のもと、東名高速がいかにキャパシティ不足とはいえ、新しいのをもう一本、10兆円かけて作るという選択肢が正しいとはとても思えない。車線拡大等の改良をまず考えるのが普通だと思う。
たとえば、東海道新幹線はいつも満席だからもう一本作る、といったら誰でも反対するだろう。

10兆円といえば、国民一人当たり10万円近い。

高速道路だから通行料収入があるといっても、東名をもう一本作っても東名間の高速道路通行車両の絶対量は増えないのだから、この費用は収入増の見込めない社会インフラ整備費用であり、結局国=国民に降りかかる。

これだけの金額をインフラ整備に費やすのであれば、それなりの国の承認がなされていると思うのだが、明快な事業計画などが見つからなかった。
1987年の第4次全国総合開発計画に盛り込まれている、というような話もあるのだが、それを引っ張り出してみてもあまりはっきりしない。
そもそも、こんなバブル真っ盛りの昭和の亡霊みたいな計画が今も生きていることに驚かされる。

クルマとITの未来は?

2007年11月05日 | ITS
CNET Japan はオンラインパネルディスカッションで「クルマとITの未来は」という題で有識者の意見を聞いてる。
クルマと通信とかテレマティクスの今後の可能性とか、そんなことだ。

この中で、一番上に表示されている江島健太郎氏のコメントは、きわめて正しいと思う。
安全をもっと改善できるはずだということ、結局車内でのエンターテイメントなんて音楽くらいしかないということと、そして日本のETCをはじめとする公共システムのデザインの悪さ。
SFの橋が片道で倍額を徴収するという話とETCの厳格さへの批判は、まさに私が書いたとおりの話だ。
(このリンクが間違ってました。11月7日修正)
アメリカの発想から考えると、首都高Xなんてとんでもないということになる。

これは氏がアメリカに住んでいて、クルマが生活に密着しているからかもしれない。

一方、日本にいるとどうしても「渋滞時の暇つぶし」というような発想が出てくるのだろう。
まあ、それはそれでわかるんだけど、いまだに「クルマに広告配信」なんてことを言っている人がいるのには驚いた。

別に日本のITSにグローバル化を求めているわけではないが、こうしたことは、車という道具の本質ではない。

よく考えるとおかしいパーキングメータ

2007年11月04日 | 雑記
一昨日パーキングメータについて書いたが、パーキングメーター作動時間外は駐車禁止となっているケースがほとんどだ。(例外はあるらしいけど)

一般的に、作動時間外(夜間や日曜日)のほうが交通量は少ない。つまり、駐車車両が交通安全に与える悪影響は小さい。ところが、その時間は駐車すると違反になる。

一方、交通量の多い平日・昼間はお金を払えば駐車をしてもいいという。

この理由を論理的に説明することは誰にもできないだろう。
普通の頭で考えれば、パーキングメーターってのは駐車しても安全な場所にだけ設置されるべきものだ。

なぜこんなことになっているのかといえば、そもそもパーキングメータってのは美濃部さん時代にきめた「都内は何がなんでも駐車禁止」という基本路線に対する例外処置だからだ。

もうこの辺から見直さなければどうしようもないのかもしれない。

宅配業者とパーキングメーター

2007年11月02日 | 雑記
佐川急便・大和運輸の宅配便ドライバーが不正を行いパーキングメータ駐車場を不法占拠したため、書類送検された。夕方のTVニュース(局はわからなかった)は、正義の味方のような論調で不正を告発していた。

しかし、彼らは本当にそんな悪人なのだろうか?

問題は、以下のようなことだと思う。

・オフィスが密集し、集荷・配達ともにたくさんの荷物がある地域で、いったんトラックを止めたら、そこから徒歩や台車で一日配達するほうが効率的な地区。
・しかし、トラックを駐車できる駐車場がない
・したがってパーキングメーターにとめることになるが、規制時間の60分ごとに出し入れ(ちょっと出してまた戻す)は面倒。
・誰かが、車を出さなくてもリセットする方法を考え付いて、それが広まった。

彼らは料金をごまかしているわけでもない。また、長時間とめることができる駐車場があれば、わざわざこんな面倒なことをせずに、そこに停めていただろう。
仕事をスムースに進めるために考えた生活の知恵のようなことだと思う。
そもそも、ちょっと出してまた入れること自体は違法ではないようだ。

ー以下11月4日に加筆ー
佐川もクロネコも、コンプライアンスにしたがって今後はやっていきます、という。
それは、こういうことを意味する。
一時間に一回、止めていたトラックを出す。ぐるっと一周して、またとめる。
場所がとられていたらもう一周。駐車スペースが確保できるまで、トラックは無駄に走り続ける。
無意味なCO2が排出され、集荷・配達効率がわるくなり、サービス・コストともに悪化する。
いったい誰がこうなることを歓迎するのだろうか?
ーここまでー

言いたいのは、だから大目に見てやれよ、ということではなく、国はインフラの整備をきちんとやったらどうなの?ということ。

佐川にせよ、クロネコ大和にせよ、宅配は産業界のみならず、通販などでは日常生活になくてはならない存在だ。この2社が宅配を行うことで宅配のトラフィックは集約され、渋滞やCO2削減にもかなりの貢献をしているはずだ。
もはやある意味半公共的な仕事だといえるだろう。
宅配業者のトラック駐車場は、社会インフラで提供してもいいぐらいだと思う。
むやみにトラックを移動させるより、一箇所にとめて台車を使うほうが安全、環境両面から好ましい。

私も昔、宅配ドライバーの経験がある。
世界貿易センターが配達区域だったが、配達の駐車が30分しか認められていなかった。ビル内のオフィスだけで一日に50個くらいあり、到底30分では終わらない。
30分ごとに車に戻り、いったん出てからまた入るということを余儀なくされ、非常につらかった。

いずれにしても、ニュースが配送員を不正を行う社会の敵のように扱ったのは、どうかと思う。

日産GT-Rで思った本当の技術の使い道

2007年11月01日 | ITS
日産のGT-Rはナビゲーションの位置情報をもとに、サーキット内であればスピードリミッターを解除できる仕組みを導入したらしい。

裏返せば位置情報から得た交通規制情報から車両の最高速度を規制することも技術的にはなんら問題なく可能だということになる。

これについては賛否あると思うが、少なくとも住宅密集地や歩道が分離されていない道路においては、法的強制力をもった導入を検討する価値があると思う。
住宅密集地で30キロ以上のスピードを出す必要性なんて、まったくない。

歩行者、自転車が多いわが国の交通死亡事故の特長を考えれば、ITS/スマートウエィのプライオリティは首都高速ではなく、こっちだと思うのだが。

どうも高速道路に投資をしたくて仕方がない人が裏に沢山いるような気がしてならない。