男前

テレビを見ていたら、若くて顔のきれいな男の子達がふにゃふにゃと歌を歌っていた。

わたしは、美少年みたいな子に興味がない。

おやじが好きってことではないが、少なくとも若い男の子には

わたしを惹きつけるものは何もない、と思う。

容姿がいいだけではわたしにとって、お人形でしかないのだ。

彼らはまだ、生きる上での悲しさも浅ましさも哀れさも、きっと知らない。

知らなくていいと思う。

今はただ陽のあたる場所だけを見ていられる、人生のほんのひとときなのだから。

たまに陽のあたる場所だけを歩き続ける人もいるけどね。

わたしは男を見る目がなく、ろくな男に惹かれないのだが

それは、わたしの後ろ暗い部分が同じようなものを持った男を呼び寄せるせいである。

たぶん、これから先も素直で曇りのない目をした育ちのいい男とは恋をしないだろう。

そんなわたしの理想は、悪を知りつつ善を選ぶ人である。

そして人の痛みを知りつつ、その痛みに引きずられない人。

そういう優しさを持つ人が理想だ。

人に優しくするのは一見簡単だが、中途半端じゃない優しさには

責任と強さがともなわなくてはならない。

例えていうなら、拾ってやれない犬の頭を撫でたり餌をやったりしないほうがいいってこと。

この場合、優しくしないことにも強さと悲しさがともなうのだが。

でもわたしは、ついつい無責任に餌をやったりするのだなあ。

以前、みんなで居酒屋へ行ったとき、隣り合ったグループも大人数だったのだが

そのうちの一人がいきなり「ゴキブリだ！」と大声をあげた。

見れば白い壁に大きなゴキブリが。

折りしも食中毒が世間を騒がせていたこともあり、

お調子者らしいその男は「Ｏ-１５７だ」と、なおも叫んだ。

すると仲間の一人が「うるせえよ、黙れ」といさめたかと思うと

ティッシュですばやくゴキブリを捕まえてしまった。

そして小声でお店の人を呼んで処分させた。

わたしはその人をカッコイイと思った。

男前って、こういう人のことをいうんだな、って。

優しい男は、やっぱり強いのであった。