読書。
『サクラ咲く』 辻村深月
を読んだ。
三作の短編を収めた連作集。
まず、最初の『約束の場所、約束の時間』ですが、
初挑戦の辻村さんの小説の文体は穏やかで、
それでいてストーリーテラーだなあと思いました。
饒舌にならずに、でもちゃんと表現していて。
中学生くらい向けのせいか縦より横に重点を置いた作品。
縦、横というのはこないだ読んだ文学講義の本に書いてあった捉え方で、
横はストーリーの流れのことで、
縦はひとつのセンテンスなどから立ち上がる表現の奥行きやそれ自体の面白さなど。
『約束の場所、約束の時間』は、
それこそドラえもんを読んでいるみたいに
すーっと流れて行きながらも残る感覚でしょうか。
続いて、表題作の『サクラ咲く』。
中学生の女の子が主人公なのですが、
その性格の弱いところからはじまり、
仲間内の人間関係をを通じてどうなっていくかがひとつの読みどころでした。
ストーリーはストーリーでしっかりと流れていくのだけれど---
それも興味を十分にそそられながらなんだけれど---、
その物語のなかで生きている少年少女たちがそこに息づいている感覚で、
苦しみ、悩み、考え、喜び、笑い、楽しみ、心を成長させていくんですよね。
そういう一人ひとりの個性や変化や過去なんかの設定が
細かくされているのかな、と思いましたが、
それが功を奏しているのか、
物語の中の人間模様が、穏やかに波打つ水面のように、
シームレスに変化しながらきらめくように出来ているかのようでした。
そして、心理面だとか、人との関係性の繊細な面がさりげなく表現されています、
それも、書き込みでではなく、空白でかんじさせるようなところもありますね。
そして、最後の『世界で一番美しい宝石』。
ヒロインの美しい女生徒の描写を読むと、
すぐに彼女に対する僕の個人的なイメージは、
漫画『恋は雨上がりのように』の主人公、橘あきらにピタッと決まってしまいました。
今作のヒロインの名前も立花亜麻里といって、ちょっと似ていたりする。
今作では、前二作に比べてテーマが深いというか、
より考えさせられる内容にもなっていました。
未開の地に作者が分け入っていくような感じで、
哲学して書いたような面白さ。
これは以前、20数年前ですが、
「ソリトンSIDE-B」というEテレの番組で、
「哲学を勉強する」と「哲学する」は別だよね、
と出演者の方々が語っていて、
僕も見ていてそうだよなぁと思い、
哲学を勉強するよりか哲学するほうが本当のように感じたものでしたが、
作者の辻村さんがここでも腰を据えてきちんと哲学して書いているなあと、
すばらしさを感じると同時に、
自分も次に書くときには彼女の姿勢を忘れないようにしようと
見習う気持ちで背筋を伸ばしました。
物語は、レイヤーをはぎとって、
下の絵をみせるかのような流れの構造になっています。
さらに、だからといって、下部構造のほうが本当だよ、なんていわずに、
上部の表層構造だって同じくらいの力はあるものだとして扱っているように読みました。
下部構造になると、弱みとか妬みや汚さなんかがでてきて、
人によっては、そういう見えない部分こそが真実なんだ、と語りますけれど、
表層でみることのできる、爽やかで美しく、
楽しく笑っていられるような部分だって真実なんだ、という意識で
書かれているように思えましたねぇ。
全体を通してもおもしろいギミックというか、
細いのだけれど物語を貫く軸があって、
そういうところで、「あっ」と思う感覚で物語の重層性に気持ちよくなります。
辻村さんはもう直木賞を獲ってらっしゃって有名な書き手さんですが、
僕にとっては遅い、初めての出会いでした。
しかし、こういう書き手さんがいたのだなあと嬉しくなりましたし、
刺激にもなりましたし、プロットをしっかり書いてそうだというヒントもあり、
また違う作品を手に取ることになると思います。
すでにこの作品を読んでいる方は多いかもしれないですが、
まだの方にはぜひ、おススメします。
『サクラ咲く』 辻村深月
を読んだ。
三作の短編を収めた連作集。
まず、最初の『約束の場所、約束の時間』ですが、
初挑戦の辻村さんの小説の文体は穏やかで、
それでいてストーリーテラーだなあと思いました。
饒舌にならずに、でもちゃんと表現していて。
中学生くらい向けのせいか縦より横に重点を置いた作品。
縦、横というのはこないだ読んだ文学講義の本に書いてあった捉え方で、
横はストーリーの流れのことで、
縦はひとつのセンテンスなどから立ち上がる表現の奥行きやそれ自体の面白さなど。
『約束の場所、約束の時間』は、
それこそドラえもんを読んでいるみたいに
すーっと流れて行きながらも残る感覚でしょうか。
続いて、表題作の『サクラ咲く』。
中学生の女の子が主人公なのですが、
その性格の弱いところからはじまり、
仲間内の人間関係をを通じてどうなっていくかがひとつの読みどころでした。
ストーリーはストーリーでしっかりと流れていくのだけれど---
それも興味を十分にそそられながらなんだけれど---、
その物語のなかで生きている少年少女たちがそこに息づいている感覚で、
苦しみ、悩み、考え、喜び、笑い、楽しみ、心を成長させていくんですよね。
そういう一人ひとりの個性や変化や過去なんかの設定が
細かくされているのかな、と思いましたが、
それが功を奏しているのか、
物語の中の人間模様が、穏やかに波打つ水面のように、
シームレスに変化しながらきらめくように出来ているかのようでした。
そして、心理面だとか、人との関係性の繊細な面がさりげなく表現されています、
それも、書き込みでではなく、空白でかんじさせるようなところもありますね。
そして、最後の『世界で一番美しい宝石』。
ヒロインの美しい女生徒の描写を読むと、
すぐに彼女に対する僕の個人的なイメージは、
漫画『恋は雨上がりのように』の主人公、橘あきらにピタッと決まってしまいました。
今作のヒロインの名前も立花亜麻里といって、ちょっと似ていたりする。
今作では、前二作に比べてテーマが深いというか、
より考えさせられる内容にもなっていました。
未開の地に作者が分け入っていくような感じで、
哲学して書いたような面白さ。
これは以前、20数年前ですが、
「ソリトンSIDE-B」というEテレの番組で、
「哲学を勉強する」と「哲学する」は別だよね、
と出演者の方々が語っていて、
僕も見ていてそうだよなぁと思い、
哲学を勉強するよりか哲学するほうが本当のように感じたものでしたが、
作者の辻村さんがここでも腰を据えてきちんと哲学して書いているなあと、
すばらしさを感じると同時に、
自分も次に書くときには彼女の姿勢を忘れないようにしようと
見習う気持ちで背筋を伸ばしました。
物語は、レイヤーをはぎとって、
下の絵をみせるかのような流れの構造になっています。
さらに、だからといって、下部構造のほうが本当だよ、なんていわずに、
上部の表層構造だって同じくらいの力はあるものだとして扱っているように読みました。
下部構造になると、弱みとか妬みや汚さなんかがでてきて、
人によっては、そういう見えない部分こそが真実なんだ、と語りますけれど、
表層でみることのできる、爽やかで美しく、
楽しく笑っていられるような部分だって真実なんだ、という意識で
書かれているように思えましたねぇ。
全体を通してもおもしろいギミックというか、
細いのだけれど物語を貫く軸があって、
そういうところで、「あっ」と思う感覚で物語の重層性に気持ちよくなります。
辻村さんはもう直木賞を獲ってらっしゃって有名な書き手さんですが、
僕にとっては遅い、初めての出会いでした。
しかし、こういう書き手さんがいたのだなあと嬉しくなりましたし、
刺激にもなりましたし、プロットをしっかり書いてそうだというヒントもあり、
また違う作品を手に取ることになると思います。
すでにこの作品を読んでいる方は多いかもしれないですが、
まだの方にはぜひ、おススメします。