Fish On The Boat

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『喜劇の手法 笑いのしくみを探る』

2018-12-28 00:05:24 | 読書。
読書。
『喜劇の手法 笑いのしくみを探る』 喜志哲雄
を読んだ。

どういう技術でもって笑いが起こるのか、
おかしみが生まれるのか、を分析して述べているのですけど、
面白いです。
こういう講義を受けたかったよね、
もしも若い頃から文学に興味があったならですが。

大きく、戯曲を悲劇と喜劇にわけてみる。
そのうち結婚で終わるような比較的幸せな終わり方をする方が喜劇であって、
一般的なイメージとしてあるように、
笑劇がすなわち喜劇、ではないんですよね。
人が死んで終わるような、
わかりやすい悲しみの戯曲でなければ、
ちょっと切ない喜劇もあるんじゃないかなと、
本書を読んでいると、
そう分類については考えたりしました。

でもって、
いろいろあるなかで23の項目に分けて取り上げ、
それら喜劇の技巧について具体例から端的に述べてくれています。
なので、とてもわかりやすいですし、
おもしろいし楽しみながら、その技術を知ることができる。
これは小説を書く場合にも大いに参考になります。
構想の段階で参考にするならば、
格段にイメージが広がるくらいのバラエティに富んだ技巧を収めている。

また、終章へ向かうにつれて、
演劇というものの深みについて、
どんどん誘ってくれるような作りになっていました。
新書という形式で、
紙数もそれほどの量ではない中で、
要点をついた文章で
読者は最短ルートをたどって、
演劇表現の最前線の苦闘領域まで行けてしまいます。

苦闘領域とはなにか、といえば、
たとえば劇中劇を用いることで、
劇そのものを茶化しながら、
観客の劇に対する認識を、揺さぶることについてなどですね。
劇中劇について演者が論じることは、
その本当の劇そのものをも論じることであり、
劇を壊しかねないわけですね、興ざめを引き起こすかもしれない。
でも、その技巧をあえて、
そして上手に用いることで、
認識論や記号論の深みと演劇自体が繋がるところまで、
観客を連れていくことがある。

そういう位相に頭がもっていかれれれば、
いつもならば疑問に思わなかったものが疑問として立ちあがってきます。
いったい演劇ってなんなんだろう?
演者は観客に話しかけることがあるし、
その話しかけは周囲の演者には聴こえない設定になっているしです。
たとえば現代的なリアリティを重視するドラマや映画と比べて
どう解釈し、そういった話しかけはどう受け止めるべきなんだろう?
哲学して体系立てたくなるのですが、
なかなかそう、すとん、とは治まるものではない。

というように、
最初は技術や手法、方法論の形式を一つずつ知る、
みたいな読書になるのですが、
最終的には演劇論の領域までちょっと足をつっこむくらいの内容になります。
だから余計に面白かったですね。

ひとつの戯曲の性格を決めるのも一つの手法で足りたりしますが、
戯曲の筋とは関係なしに、
観客の認識を揺さぶったりするのも一つの手法としてある。
本書収録の手法は幅が広く、
もっと言えば、次元が異なるものが並列に収められていて、
それが「手法や技巧は360度に放たれるものだ」とでもいうみたいに、
それこそ自由を感じさせられます。

僕はこれまで演劇はあまり観ていないし、
戯曲を読んだのもシェイクスピアとチェーホフをあわせて3つほどです。
でも、これからまだ読む予定のものがもうすでに積読になっているし、
それらに触れるときに多少、分析的な目で楽しめるものさしになったかもしれない。
また、なにより小説を書くのに役立つタイプの本でした。

実用できる本として、
本棚の、目についてすぐに抜きやすいところに入れておこうと思います。
良い出合いでした。


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