Fish On The Boat

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『憤死』

2018-12-29 22:05:01 | 読書。
読書。
『憤死』 綿矢りさ
を読んだ。

掌編「おとな」からはじまる、
こども時代を取り扱う全4編の短篇集。
三つ目の表題作「憤死」は喜劇だし、
最後の「人生ゲーム」もじんわりくるものがありますが、
二作目の「トイレの懺悔室」が、純文学調の文体で進行しながら、
内容がこれまたなかなかエグくて、
年末に読むには失敗したかな、と思ってしまったくらいでしたが、
全体を通してだと、おもしろい読書になったなあという気持ちです。

本書を読んでいると、
自分の子ども時代の悪いところや友人たちの悪いところ、
それもあまり意識していなかったり、
もうほとんど忘れてしまい相当薄らいでいる気持ちだったりが
薄いベールのように音もなくこころに降りかかってきて、
でも直視しようとするとふっと消えてしまうみたいな感覚になる。

綿矢さんは、用いるのはやんわりした感じの文章だけれど、
気骨というか敵を作る覚悟があるというか、
そういった気構えで格闘している感はありますね。
本書の表題作なんかは、
さっきも書いたように喜劇ですが、
作者の綿矢さんに対して、
こいつ悪いな、
と思いながら苦笑いしてしまうくらい踏みこんでいる。
その前の「トイレの懺悔室」も意地悪だった。

最後の「人生ゲーム」、これはよかったです。
これを書いた時の年齢で、
これだけのことがわかっていたか、と思うと、
すごいなあと吐息がもれる。
ある意味で、諦めがいい人なのかもしれない。
でも、執念深さはある人だ。

『憤死』は、
人間関係のなかで自然となあなあになっていく
人間のしょうもなく悪いところ、
それも無邪気に悪いところを、
書くことであぶり出すというのも近いのだけれど、
見逃さず忘れさせず野暮といわれようがしっかと捕まえる感じで書きあらわす
といった姿勢のほうに真実味を感じる作風に思えました。
解説で森見登美彦氏が書いているように、
綿矢さんに本書の人物をあらわすような感じで自分を意地悪く描写されたら、
その華麗で上手な表現のために、
一年くらい立ち直れなくなりそうです。

著者 : 綿矢りさ
河出書房新社
発売日 : 2015-03-06

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