
《総理来る》
【22ページ】
中山は冗談ともつかずに言って、吸い差しの煙草を灰皿にねじりつけた。
【39ページ】
中山は懸命に二人をとりなし、煙草に火をつけた。
【45ページ】
「----僕は皆さんから鬼呼ばわりされてますよ。通常の二倍働かされたなんていう奴には、『仕事し過ぎて病気になるなんてことは無い。暴飲暴食か徹夜麻雀のほうがよほど身体に悪い』と言っています。欲張りで点数が辛いですかねぇ」
【42ページ】
「なんにもやっておらんのはわしのほうだ。そのセリフはわたしの専売特許だよ」
『私は仕事はなにもしていない。政治家の依頼を断る以外は』----これは小林の口ぐせだが、率先垂範ぶりをいちばんわきまえているのは中山だった。
【56ページ】
田実のくだけた口吻に誘われるように、高井は咥え煙草で、返した。「田実さん、そっぺいさん、堅物の岩佐さん。役者も揃ってました。角栄節が炸裂する舞台が氷川寮だったわけです。宇佐美総裁は何故欠席したんでしょうか」
【60ページ】
「歴代総理で田中角栄はどうですか」
高井に煙草の煙を吹きつけられて、柳田は顔をそむけた。「郵政、大蔵、通産の大臣を歴任して、官僚を手なづけたのはたいしたもんだよなぁ」
[ken] 田中角栄さんについては、たくさんの本や雑誌でとりあげられ、テレビでもたくさん登場した伝説の政治家であり、一方ではロッキード事件をはじめとする金権政治の代名詞のような印象が強く残っています。でも、本書では実績にもとづく好意的な記述が多く、客観的な見方をする上での参考になると感じました。政治家と企業や団体との健全な関係、もしくは利害関係抜きの天下国家を想い合う間柄というものは、今では稀有なことになってしまったのでしょうか。(つづく)