「二十六夜」
【336ページ】
「いやいや、みなの衆、それはいかぬじゃん。これほど手ひどい事なれば、必ず仇を返したいはもちろんのことながら、それでは血で血を洗うのじゃ。こなたの胸がはれるときは、かなたの心は燃えるのじゃ。いつかはまたもっとひどく仇を受けけるじゃ、この身終わって次の生まで、その妄執は絶えぬのじゃ。ついには共に修羅に入る闘諍(とうそう)しばらくもひまはないじゃ。必ずともにさようのたくらみはならぬぞや。」
【342ページ】
「心しばらくも安らかなることなしと、どうじゃ、みなの衆、ただの一時でも、ゆっくりとなんの心配もなく落ち着いたことがあるかの。もういつでもいつでもびくびくものじゃ。一度梟身(ひとたびきょうしん)を尽くしてまた新(あらた)に梟身を得(う)とこうじゃ。泣いて悔やんで悲しんで、ついには年老る(としとる)、病気になる、あらんかぎりの難儀をして、それで死んだら、もうこのような悪鳥の身を離れるかとならば、なかなかそうは参らぬぞや。身に染みこんだ悪業から、また梟に生れるじゃ。----」
[ken] 本編では、復讐や仇討の連鎖を戒めています。私自身に「身に染みこんだ悪業」はありませんが、悔しかったこと、謝罪しなくてはいけないことは多々あります。若い頃には復讐心や「いつか見返してやる」といった気持ちに、冷静さを失う場面もあったことは事実です。しかし、宮沢賢治さんは37歳で他界しますが、私は今年の5月で63歳になりました。日本の男子平均寿命80歳からすれば、残りが17年ということになります。考えようによっては長いような、指折り数えれば短いような、さてどうしようと覚悟のない気持ちになりますね。
ところで、6月24日はイギリスがEUからの離脱を決めた日として、私はこれからも記憶に残しておこうと思います。当日の日経平均株価は14,926.59円(▲1311.76)と暴落し、米国ドルも102.34円まで円高が進みました。まさに、本篇にある「闘諍しばらくもひまはない」状態が続き、紛争や貧困に苦しむ中東やアフリカから、欧州への難民の流入が数10万人規模に膨らんでいる状況に対して、イギリスが出した答え(国民投票)だったのです。(つづく)