![]() | 赤めだか 立川 談春 扶桑社 このアイテムの詳細を見る |
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へそまがりの、私も納得も得心も・・・・の一冊。
一昨年のエッセイ大賞受賞のベストセラー本を、今頃、読む(2010年6月)。
世間が、良いという本はいいのに決まっている、おもしろくてあたりまえ。
だったら、自分の感性に合うものを独自で探したいと・・・・避けていたが。
今週、近くの図書館に行くと、有ったので借りて、一気に読破。
おもしろい、談春だけではなく、談志(イエモト)のいきざまが、かっこ良い。
住込みの新聞配達の仕事をみつけ、弟子入り志願する、17才の、のちの坊主(談春)に、
「弟子にしてやる。よし、いい了見だ。・・・」と上機嫌で受け容れる。
そのあと、事あるごとに、いう談志の言葉が、心に沁みる。
最初の稽古で、何かやれるだろうという師匠に、「大山詣り」を演る談春に、
「おい、それは誰の大山詣りだ?」・・「志ん朝師匠です」・・
「そうか、志ん朝か。小さん師匠のとは違うんだがな」
「まあ、口調は悪くねぇナ。よし小噺を教えてやる」と十分ほど喋ったあとに
「ま、こんなもんだ。今演ったものは覚えなくていい。プロとはこういうものだと
わかればそれでいい・・・・・・落語を語るのに必要なのは、リズムとメロディだ。」
そして、最後に「それからな、坊やは俺の弟子なんだから、
落語は俺のリズムとメロディで覚えろ」と、談春でなくても、鳥肌が立つような台詞。
そして、タクシーの中でしゃべろという談志は、聴き終えると
「よーし。それでいい。よく覚えた。坊や、お前は何も考えなくていい、そのまま、
片っ端から落語を覚えていっちまえ。良い口調だ。今度は道灌を教えてやると」
ほんと、弟子がうれしく、得意になる台詞。
ほんと、人間の業がわかるだけに、相手が感動する、ツボのある言葉が出てくる。
と思いきや、「たらちね」を、談志のテープで覚えた言う談春に、
「だから、お前はダメなんだ・・何でもかんでも俺で覚えることはねえんだ。
たらちねは、俺の売り物じゃない。圓生師匠で覚えるんだ。努力の方向性が違う。
一言で言えばセンスがない」とぼろくそに・・・・・。
続いて「志らく、お前は何を覚えている、」
「堀の内です」・・「誰のテープだ」・・「円遊師匠と円蔵師匠です」
「うん、お前はわかってるな。少しは談春に教えてやれ・・・・」
いじめとも差別とも思えるショックな談志の言葉。
ただ、翌日、「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と突然談志が、談春に・・・。
「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、
自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんだ。本来なら相手に並び、
抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし、それができない、
嫉妬している方が楽だからな。よく覚えとけ、現実は正解なんだ・」と
十九の男に、真剣に男の生き様を語る・・人生訓である。
相手の、立場、力量に応じて、あるときは、感情剥き出しで、
談志は、我が生き様を教えようとする。
この「赤めだか」は談春が語る、談志論。
家元の談志が凄いだけに、談春の日常は非日常であり、
全編、最高におもしろい本になっている。