![]() | 場所はいつも旅先だった (集英社文庫) |
松浦 弥太郎 | |
集英社 |
☆☆
今や、「暮らしの手帖」の編集長をつとめる、松浦弥太郎が、
18才で渡米した先でのできごとを綴ったもの。
特に女性との出会いには、こんなことがあるのかと思うぐらい羨ましい
朝のやわらかい日差しにつつまれた朝食が、つねにある。
でも、一番心に残ったのは、「母のこと」と、素敵な関係を紹介している。
できるだけ、ト書きを省き「セリフ」だけを書くと、
久しぶりのニューヨークで過ごした冬・日本を離れて二カ月経ったある日の午後
母○「もしもし、お餅たくさん頂いたから、送ろうと思うんだけどいる?」
弥太郎●「「うん、でも、こっちには焼く道具はないよ。ホテルだから台所もないし、だからいいよ」
○「どう、そっちは」
●「寒いよ。風邪を引いて今日は寝てたよ」
○「熱あるの?」
●「測ってないからわからない」
○「あら、そう」
・・・・・・・
○「ちゃんとご飯食べてるの?」
●「ああ、食べてるから大丈夫だよ」
○「じゃあまたね」
それから、一週間後の朝
○「風邪は治ったの」
●「うーん、まあまあかな」
○「あら、そう。今ね、用事があって近くに来てるのよ」
●「えっ!来てるってニューヨークに?」
○「そうよ、友達に会いに来てるのよ。だからあなたのホテルに
これから行こうかと思ってるんだけどいいかしら?」
●「来るって、今どこにいるの?」
○「空港よ。タクシーでホテルまで行くわ」
●「大雪だから、タクシー走ってないよ」
○「大丈夫よ。じゃあね」
ホテルの部屋に、オーブントースタを持って来て
○「これでお餅を焼なさいね」
●「いいのにこんなにしてくれなくても」
○「じゃあ、私もう行くから」
●「どこに?」
○「友達のところよ」
●「そこはどこ?」
○「空港の近くよ」
○「がんばんなさいよ」
●「うん、ありがとう」
タクシーの中から
○「じゃあね、バイバイ」
三日後、の電話があって、
●「この間はありがとう。しかし、よく英語を話せたね?」
○「親を馬鹿にしちゃいけませんよ」
●「ニューヨークの友達って誰?」
・・・・・・・・
○「あんたの知らない人よ」
この母にして、心をいつも色鮮やかに保つ弥太郎、ありである。
会話は少なくても、想い想われるこころは、いたって濃縮。
旅先でも、読書後でも、こころ洗われる。
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