![]() | 東京日記 卵一個ぶんのお祝い。 |
クリエーター情報なし | |
平凡社 |
☆☆☆
前回の、穂村弘さんとの対談で気になったので、川上弘美さんの本を。
それも、小説ではなく日記を・・・・雑誌「東京人」に連載している日記の最初の三年分。
あとがきで、これは本当日記です。少なくても五分の四くらいは、本当です。
とすると、残りの五分の一の嘘はどの部分か、あとから言われてもという感じですが、
すべてが嘘のような、すべてが本当のような、ふわふわ感の日記です。
でも、川上弘美さんの文章の凄さ、特に最後の二行には、エッセンスが詰まっている。
意味不明になるかもしれないが、最後二行だけを少し紹介すると・・・・
一瞬、元の場所に五十センチ移動した先との両方に、松尾スズキの腰とか腕とかが同時に見える。そんな感じ。 終わってから生ビールを二杯。後のビールがとてもおいしく感じられる劇でした。
ちょっと離れたときも、大声で喋りあっていたら、前を歩いていたカップルが
非常に迷惑そうにふりかえったので、ますます大きな声で喋ってやった。
夜になってまた腕時計をはずしながら、そういえば今日は一回も腕時計で
時間を確かめなかったことに気がついた。一日じゅう九時半を指していても
ぜんぜんかまわなかった。
腕時計が不憫でたまらなくなる。
友人はふたたび息をひそめた。わたしも受話器を強く握ったまま、息をひそめた。
そのまましばらくは二人して息をひそめていた。
またセンチメンタルになっちゃうじゃない、と心の中で思うが、ニラ炒め定食が来た
とたんセンチメンタル関係のことは忘れてしまう。
一度に一つのことしか考えられない質なのだ。
不動産屋のねえさんから、家主の了承が無事出たとの電話がある。
お祝いに、お昼に食べる納豆に生卵を一個割り入れる
(生卵はぜいたくなので、いつもは入れない)。
突然同じ絵馬の最後の方で字が三倍くらいの大きさになり、
「私の願いもかないたい 妻××子」と筆圧高く書いてあって驚く。
風が吹くと、はなびらが一二片、散る。落ちているはなびらを拾って、
ポケットにしまう。はなびらは冷たい。
いくらたっても家に着かないような気がしたが、一時間以上も漕いだころ、ようやく着いた。
盗んだひとも、真夜中、同じ道を漕いでせっせと走ったのかと思いながら、ていねいに、
自転車の鍵をかけた。
二時間ほど歩いたけれど、結局店をみつけることができなかった。しかたなく
駅の改札近くに置いてある記念スタンプを手の甲に押して、とぼとぼ帰る。
ぜんぜんそんな男好みじゃないと気づいて、あわてて口を閉じる。
閉じながらも、友だちに相槌を打ちたくてしょうがない。どうしてこんなに
主体性がないのかと情けなくなりながら、必死に口を抑える。
ああ、と声を出してみる。 ああ。 ああ。
カラスが二羽、大きな羽音をたてて、斜め上を飛んでいった。まだ、夜は明けない。
ああ、とまた言ってみる。 人生は、せつない。
最後の二行のために、どれだけの時間をさいているのか、気楽にみえる言葉だけど、
よりすぐられた後味がする素敵な日記でおます。
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