


妻女山で春一番の蝶といえば、ルリタテハとヒオドシチョウ(緋縅蝶)です。どちらもタテハチョウ科の代表的な蝶です。今年も陣場平や五里ケ峯でも目撃して撮影を試みたのですが、なぜか嫌われて撮影できませんでした。
夢中で樹液を吸っている時だと割と簡単に撮影できるのですが、日向ぼっこの最中は陽射しが弱かったり風があったりすると、すぐに飛び立ってしまいます。今回陣場平でやっと撮影できました。はねの表は、鎧の緋縅(ひおどし)を連想させる文様ですが、裏は地味な樹皮模様。ハネがボロボロなのは、オス同士の縄張り争いの戦いのためでしょうか。自分の縄張りを荒らすオスが現れると、猛然と襲いかかります。 夏眠中に風雨でボロボロになるという説もあります。
イモムシは、春にエノキの葉を集団で食べ、成虫は花よりもクヌギなどの樹液に集まります。初夏に発生し、成虫で越冬。春に産卵して成長した幼虫が初夏に発生というライフサイクルです。羽化する時に不要になった羽化液を捨てますが、真っ赤なので緑の派の上にあるのを見ると驚きます。妻女山のような低山の個体は、真夏は夏眠するために姿を消します。夏眠はどこでするのでしょう。見たことがないんですが…。高山では真夏でも活動しているので、移動する個体もいるのでしょうか。
緋縅とは、鎧(よろい)の縅の一。クチナシやキハダで下染めした上から紅で染めた紐(ひも)・革緒などで縅すもの。「緋威」「火縅」「氷魚縅」とも書く。[大辞林]ということですが、第四次川中島合戦で上杉謙信が布陣したと伝わる陣場平は、緋縅蝶にはイメージがピッタリの場所だなと思いました。緋縅の緋は、日本の伝統色の緋色のことですが、実際の緋色はヒオドシチョウの色よりも濃い色です。
「緋縅の 篝火揺れる 山桜」
緋縅蝶の舞う様は、まるで陣場に燃える篝火のよう。山桜はまだ蕾ですが、花散る梢の間を緋縅蝶が舞う日も間近です。毘と龍の旗がなびく戦国の陣場平にも、兵共(つわものども)の間を縫うように飛ぶ緋縅蝶が見られたかもしれません。
貝母(バイモ)の蕾もずいぶんと膨らんできました。帰化植物でも薬用だったためにあまり野生化はせず、群生地もほとんど知られていません。茶花として人気があり、園芸種は色々売られていますが。そのため植物図鑑にもあまり載っていないため、知られていない花といえるかもしれません。もちろん絶滅危惧種ではないし、かといって除草対象の有害植物というわけでもありません。ちょっと中途半端な宙ぶらりんの花ではあります。
あと10日か二週間もすると満開になるでしょう。もっとも、満開になっても俯いて咲くのと、花の外側が葉とほぼ同じ色なので、遠目では全く目立たない地味な花ではありますが、なぜかそこが好きですね。よく見ると蕾がいくつか何者かによってちぎられていました。近くの蕗もそうです。日本羚羊の仕業です。両方とも苦味がある植物です。お腹の調子が悪いときに食べるのでしょうか。動物は自然の薬草を知っているのではないですかね。栄養価があって美味しいなら彼らは全部食べ尽くしますから。
★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。