妻女山・斎場山山系で早春の蝶といえば、ヒオドシチョウ(緋縅蝶)とルリタテハ(瑠璃立羽)です。ヒオドシチョウの翅は、鎧の緋縅(ひおどし)を連想させる文様。ルリタテハは黒に瑠璃色の帯と、どちらも武士や武具を連想させるものです。英名は、Blue Admral(青い提督)ですから、やはり武官のイメージ。けっこう派手なのですが、日当たりのよい林道の温まった石などに留まっていると以外と保護色で見えないものです。歩いていて急に足元から飛び立ってハッと思うことがしばしば。
やっと見つけて近づいても、人の気配ですぐに飛び立ってしまうので、なかなかすんなりと撮影させてくれません。しかし、暫く待っていると必ず舞い戻ってきます。ひたすら辛抱強く待つことが肝要です。留まったら気配を殺し、姿勢を低くしてにじにじと近寄ります。誰も見ていないからいいようなものの、道路に這いつくばるようにしているところを見られたら、春の陽気でおかしくなったおじさんと思われるかもしれません。
蝶が石に留まって翅を広げたら、しばらく待ちます。一度などは、接近してシャッターを切ろうとしたら、なんと小蠅が蝶に体当たりしておじゃん。再び三度辛抱強く舞い戻って留まるのを待ち、留まって落ち着いたところで気配を殺してにじり寄り、撮影したのが掲載のカットです。最も接近したカットは、レンズと蝶の距離がわずか3センチ。コツは、なるべく蝶を直接見ないこと。視線を感じると飛び立ってしまいます。こんな時、液晶ファインダーが役立ちます。辛抱強く待ったかいがありました。
このルリタテハは、時折もう一頭の蝶が舞ってきて、一緒に舞い踊っていました。縄張り争いのような激しさやぶつかり合いはなかったので、ペアの飛翔でしょう。ちょうど満開のキブシ(木五倍子)の花で吸密をしたり、春を謳歌していました。翅を広げると目にも鮮やかな瑠璃色の帯が輝いていますが、閉じると地味な樹皮模様です。越冬時は木の虚などで閉じているので、保護模様なのでしょう。
瑠璃とは本来「吠瑠璃(べいるり)」(梵 vairya)の略で、宝石のラピスラズリのことでしたが、あまりに希少なため、日本では青いガラス製品をいうようになったと思われます。正倉院の白瑠璃碗(はくるりわん)、 紺瑠璃杯は、ペルシャのササーン王朝時代(226-651)のガラス製の器です。瑠璃は青色なのに白瑠璃碗というのは変ですが、ガラス製品一般を古語では瑠璃というようにもなったのでこういう名称なのです。瑠璃色は、空の青を由来とします。ラピスラズリのラピスは、石。ラズリは地中海の群青の空の色。イタリア代表の愛称アズーリもイタリアの空の色から。ラピスラズリは、絵の具のウルトラマリンの原料ですが、この色を使うと他の色を全て食い尽くしてしまう非常にたちの悪いやっかいな色で、高校時代の美術班の顧問は、ウルトラマリンブルー使用禁止令を出したほどです。
ここ数日で気温が急に上がり、杏や桜も満開になりました。妻女山・斎場山も木々の芽吹きが始まり、少しずつ森の見通しがなくなってきます。この時期、低山歩きにはゴーグルが必須です。花粉用の眼鏡タイプのものですが、クロメマトイが大発生して、次々に目に飛び込んでくるのでとても裸眼では歩けないのです。山菜の季節到来ですが、森の見通しが悪くなると熊鈴も必要になってきます。
★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。山藤は樹木で。他にはキノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、特殊な技法で作るパノラマ写真など。