妻女山・斎場山山系のソメイヨシノや山桜も盛りを過ぎました。木々の芽吹きが始まり、少しずつ森の見通しがなくなってきました。そんな林道脇に今を盛りとたくさん開花しているのがスミレです。そのほとんどがタチツボスミレの変種、ケタチツボスミレです。毛立坪(壷)菫と書きますが、坪は坪庭の坪で、そういう場所に茎が立って生えるスミレということでしょう。もっともありふれたスミレといえるかもしれません。
葉はハート形で先が少し尖り、縁には細かい鋸歯があるのが特徴です。葉の基部には櫛の歯状の托葉があります。花は淡い紫色で、距は赤紫色を帯びています。葉柄や花柄に細毛があることがタチツボスミレとの違いです。今のところ妻女山・斎場山山系では、この毛があるものしか見たことがありません。また、なかには葉の葉脈が赤紫褐色のアカフタチツボスミレ(赤斑立坪菫)も見られます。
この山系は、歩き回ったところでは、それほどスミレの種類が多いようには思えませんが、隠れた場所に人知れず咲くスミレがあるのかもしれません。GW頃からは、いわゆるただのスミレ、濃い紫のスミレが咲き出します。万葉がなでは菫は須美禮と書かれています。語源は大工道具の墨入(墨壺)からきているというのが通説ですが、正倉院の尻割型墨壺を見るとスミレに似ているような似ていないような…。ただ、当時の墨入は最先端の道具だったはずで、それを花の名前にするというのもあったかもしれません。では、墨入が入ってくる前は、菫をなんと呼んでいたのでしょう。
万葉集から三首。
「春の野に すみれ摘みにと 来しわれぞ 野を懐かしみ 一夜寝にける」(山部赤人)
スミレ摘みに来てひと晩野宿ですか。すみれは乙女の隠喩でしょうね。艶っぽい歌です。
「山吹の 咲きたる野辺の つぼ菫 この春の雨に 盛りなりけり」(高田女王)
情景が浮かびます。
「茅花(ちばな)抜く 浅茅(あさじ)が原の つぼ菫 今盛りなり わが恋ふらくは」(大伴田村家大嬢)
茅花はチガヤで若穂を食用にしたそうです。今盛りなり わが恋ふらくは、とは男性への想いではなく、異母妹に思いを伝えた歌だそうです。
小林一茶の句から好きな三首。
「淋しさは どちら向ても 菫哉(かな)」
「草餅と ともどもそよぐ 菫哉」
「菫咲 川をとび越す 美人哉」
日本の伝統色すみれ色は、こんな色ですが、ケタチツボスミレの花弁の色はもう少し淡い色です。
それにしても異常に寒い日が続きます。腰痛が癒えません。野菜の値段も高騰していますが、これでは作物も育ちません。そしてアイスランドの火山噴火が巻き起こす気象への影響は? CO2による温暖化は問題なのですが、長期的にみると地球は寒冷化に向かっているというミランコビッチ・サイクルという学説もあります。4、5月が寒かった1997年の夏は猛暑でした。エルニーニョは終息しそうです。今年の夏はどうなるのでしょう。
★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。山藤は樹木で。他にはキノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、特殊な技法で作るパノラマ写真など。スミレは、花 春にたくさん載っています。