アドルフ・ヒトラー、20世紀ドイツ。
これは独裁者ヒトラーを描いた数少ない絵の一つである。川の色が赤いことが、まるで血が流れているようにも見えるが、これを描いた当時の画家にそんな意図はなかったろう。
普通自画像と言えば大きく前面に自分を描くものだが、この男は風景の中に小さく自分を描いている。なぜこのようなことをしたのだろう。おそらく彼は誰より自分が嫌いだったのだ。ヒトラーは数多くの前世を積んできたが、そのたびに罪を重ねてきた。それをまだ一つも払っていなかったのだ。大きな罪の影を持つ自分が、遠いところに置き去りにしてしまいたいほど、彼は嫌でたまらなかったのだろう。彼が後に行った虐殺は、その自分への憎悪の転写と言っていい。本当は自分を殺したかったのにできなかった心が、大量殺戮を行ったのだ。
戦争を行う人間の心は、ときにむごいほど愚かな人間の真実を見せる。