世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

五十にして

2012-08-21 07:21:00 | てんこの論語

子曰く、われ十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲するところに従えども、矩を踰えず。(論語・為政)

先生はおっしゃった。わたしは十五歳のときに学問を志した。三十歳のときに一人前の学者として立った。四十歳で自分の心に迷いがなくなった。五十歳で、天が自分に与えた使命を知った。六十歳になると、人の意見を素直によく聞けるようになった。七十歳になると、自分の心の思うままにふるまっても、正しい道を決して踏み外さないようになった。

    *

少々詩的に整えられた匂いのする言葉なので、これは孔子自身の言葉ではないと推測しているのですが、わたしももう五十になったので、今日は、これを上げてみました。

五十にして天命を知る。

わたしが自分の天命を知ったのは四十代の頃ですから、そう大きくは外れていません。で、実際に、四十を越えて五十になってみると、やはり思うことがあります。何かが、今までと違うような気がする。今の自分は、四十代だった頃の自分と、少し違う。

最近よく思うのは、二十代や三十代や四十代のときに、無駄だと知りつつもやってきた努力を、怠らずにしてきて、本当によかったということです。

二十代最後の年に小説を書いて出版してはみたものの、誰にも認められず、あまり読んでももらえなかった。わたしなりに当時の自分の思いの丈をぶつけ、当時の表現力で、懸命に書いたものでしたが、結局は今、書斎の書棚の上の荷物となっています。最近久しぶりに読みなおしてみましたが、自分でいうのもなんだが、なかなかにおもしろかった。一日どころか半日で読み終わってしまった。これを書いた当時の自分が、今の自分とまるで違うように思えるのは、過ぎた月日がそう感じさせるのでしょうか。

三十代には、同人誌をやっていました。二十人ほどの会員さんといっしょに、十年くらいやったでしょうか。年に三回の発行で、三〇号以上出したと思います。いろいろ苦しいこともあったが、自分なりに誠意をもって、かなり有意義な仕事ができたと思う。同人誌をやっていての一番の収穫は、自分の文章力が高くなり、表現力が深まったことでした。要するにスキルがあがったのです。

四十代に入ると、二冊目の本を出版した。中編程度の童話でしたが、これもほとんど売れませんでした。これも長いこと読んでないから、久しぶりに読んでみましょうか。また別の自分が見つかるかもしれない。それと、「花詩集」という小さな詩のペーパーを作って、知り合いに配ったりしましたっけ。多分、ほとんど読んでくれてはいないと思う。読んでくれても、何も心にひっかかることなく、ゴミ箱に入ったんじゃないかな。ブログを始めたのもこのころでした。いろいろとやりましたけれど、なかなか、よい反応はなかった。わたしはいつも、ほとんどひとりでした。自分をわかってくれるのは、神様だけだと思っていた。でも、たとえ無駄だと分かっていても、誰もわかってはくれないとわかっていても、何かの行動を起こすことをやめることはできなかった。たとえ陰で馬鹿にされていたとしても、自分のやりたいことはやりたい。やらなければならないことは、やらなければならない。

そして今、五十歳。まあ、毎日、切り絵を切ったり、色鉛筆で絵を描いたり、物語を書いたり、いろいろとやっている。この年になって振り返って、初めてわかる。今までやってきたことが、決して無駄ではなかったことが。わたしは、実に豊かにものをもっていて、本当に色々なことを自由にやれる。わたしとして生きることの楽しさを、深く感じている自分がいる。今までやってきたことが、そのとき流した汗や涙や、出せなかった声や叫びたかった思いが、宝石のようにきれいな石になって、わたしの中に一杯詰まっている。

いつだったか、PTAの会長なんかもしたこともありました。あのとき、本当はとても苦しかったんだけど、他にやる人がいなくて、わたしがやったのでした。一年間、一応会長はやったけれど、いろんな人が助けてくれて、何とかなった。わたしはただ、みなに、ありがとうとか、おねがいしますとか、本当に助かりますとか、言っていただけだったのです。ほとんどはそれだけ。やらなければならないことはもちろんやりましたが、やったことのほとんどは、みなに、心から感謝して、どうかみなでいいことをやって、みながいいことになるようにと願っていただけでした。

あの経験は今もわたしのおもちゃ箱の中で光っている。たくさんの人が、愛で、助けてくれたのです。だから、本当に楽しい活動ができました。バザーなども、本当にみんなでできることをいっぱい集めて、本当にすばらしいことができました。

愛ならばすべてうまくいく。

愛ならば。

心の位置を正しくして、自分の本当の心が嫌だということは決してしてこなかった。物事をやるときは、いつも愛を忘れなかった。辛い時も苦しい時もあった。未熟さゆえの失敗もあった。そして今、わたしは誰かというと、田舎に住んでいるおばちゃんで、多少絵が描けて、文章が書けて、おもしろいことを考えたりすることができる。ああ、花の写真なども、けっこうよいのが撮れたりします。それはわたしが、花や木と心を通わせるということを、長い間やってきたから、花が時々、とても良い顔をして写ってくれるからなんですが。それに関しても、いろいろな経験があったなあ。

家族はいるけれど、友達はいるかな。友達と言える人がいないこともないけれど、向こうはどうだろう? わたしという存在は、薔薇と真珠と透明な魚の瞳の悲しみを練り溶かして作った、白い星の入り込んだ一つの小さな青い石の結晶です。あらゆるとうめいな百合の詩の合唱隊。

ちょっと、賢治を気取ってみたり。

ここで少し説教的になりますが。お若い方、馬鹿にされるのがいやだとか、かっこ悪いから、面倒だからといわずに、とにかく何でも自分でやれることはやっておいたほうがいいですよ。人や世間のために、あるいは自分のために、自分のやれることは、やっておいたほうがいい。苦しくても、寂しくても、失敗を恐れずに、あきらめずにやっていきなさい。そうすると、五十になってからがすごく楽しくなりますよ。



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タティエル

2012-08-20 07:22:04 | 画集・ウェヌスたちよ

天使タティエルです。

自分が見た夢をタネにして、お話を書くことはわりかしありますが、実は、昨日のタティエルのお話もそうです。

いつだったかしら、夢の中で、わたしは手にノートを持って、大きな講義室の入り口のようなところに立っていた。友達らしい人が周りに数人いた。何があるかというと、どうやらこの講義室で、卵子についての勉強をするらしい、ということなのです。なぜなら、神が女性を創造なさるので、その計画のために、卵子について勉強せよ、ということらしいのだ。

そのときの夢の中のわたしは、ちょうどこんな感じの髪形をしていました。服装は全然違いますけど。

なんだか不思議な夢でした。

一応天使のお話は、これでおしまいです。いや、何せわたしのことなので、ふと何か思いついたらまた書くことはあるかもしれませんが。


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天使タティエルの話

2012-08-19 06:58:52 | 薔薇のオルゴール

白い石英の光の糸を、綿のように絡めたような雲の原が、どこまでも広がっていました。天からは星々の光が糸をひいて静かに落ちてきて、まるで光の雨が音もなく降っているかのようでした。

天使タティエルが、右腕の脇に金色の表紙の本を持って、雲の原を歩いていると、向こうから、静かな風に乗って飛んでくる大きな白い浮島のようなものが見えました。タティエルはそれを見つけると、背から白い翼を出し、自分も空を飛んでその島に向かいました。近付いて見てみると、それは浮島ではなく、小山のように大きな白い魚でした。

これは、天魚といって、雲の原に棲んでいる不思議な生き物のひとつでした。全身を真珠のように白い鱗におおわれ、容は鮒に似ていて、尾びれは三つに分かれ胸びれは透きとおった翼のように大きく、天魚はその翼をゆったりと動かしながら、雲の原の上を静かに飛んでいるのでした。タティエルは天魚の前まで飛んでくると、正面からその顔に向かって挨拶しました。近くから見ると、天魚の眼はまるでタンザナイトのような深い青でした。見ようによっては、海の色を固めて作った宝石のようにも見えました。とても清らかに澄んでいて、たれやら知らぬ、美しいお方の愛がその眼の中にひっそりと花のように棲んでいるような気がするのです。

「ふう」とタティエルは、天魚に向かって言いました。すると天魚は表情を変えぬまま、「るう」と言って、大きく口を開けました。タティエルは天魚にお礼を言うと、ゆっくりとその口の中に入って行ったのです。

天魚が口を閉じると、タティエルの周りは真っ暗になりました。でもタティエルには暗闇の中にある道がわかりましたので、静かに闇の中を歩いていきました。しばらくすると、だんだんと周りが明るくなり、やがて、まるで薄い銀の紙を壁に張り付けたような小さな扉にぶつかりました。扉には不思議な紋章が緑色の線で描いてあり、タティエルはその紋章に向かって深々と頭を下げると、顔をあげ、小鳥の声で一節の呪文を歌いました。すると、扉は静かに開いて、タティエルを中に導きました。タティエルは吸い込まれるように、扉の向こうに入って行きました。

扉の向こうには、不思議な風景がありました。そこには薄いオリーブ色の広々とした草原があり、上を見ると、月の光を溶かして空全体に塗ったような白い空が見えました。白い空は高いようにも低いようにも見え、太陽も月もなく、ただ空全体が白く光って草原を照らしているようでした。草原の真ん中には、深紅のそれは大きな翼をした天使がひとりいて、青瑪瑙の四角い机の前で、小さな琴に弓をあてて演奏前の音の調整をしていました。

その深紅の翼の天使を囲んで、草原の上や、また草原の上を吹く風の上に、それぞれに、赤い花の形をした椅子や、月光の糸を編んで作った敷物や、トルコ石を綿のように柔らかくして作った四角い座布団など、思い思いのものに座った天使たちが、たくさんいました。タティエルは、少しでも前の方に座りたかったので、天使たちの間を少しの間迷いながら、ようやく前から三列目ほどのところに空いたところを見つけ、ほる、と言って呪文を唱え、そこに蛋白石の布袋に鳩の羽を詰め込んだ小さな座布団をつくり、ゆっくりとその上に座ったのです。

今日は、とても大事な模擬実験が、この天魚の講堂で行われることになっていました。深紅の翼の天使は、琴がようやく正しい音を鳴らし始めたので、講堂に集まった天使たちに、深く頭を下げて挨拶をしました。天使たちもまた挨拶しました。広い会場に天使たちはそれはたくさん集まっていました。タティエルは、胸の鼓動が少し早くなるのを感じました。模擬実験とは言えど、これは神の導きによって行われることですから、結果がどんなことになるかは、誰にもわからないのです。

深紅の翼の天使は、琴をあごと肩の間にはさみ、弓をとって、一節の青い風のような曲を奏でました。すると、どこからか、ぽたりと雫が落ちるような音がして、深紅の翼の天使の前に、水晶水を固めた、大きくて透きとおった丸いボールのようなものが現れたのです。講堂の天使たちが、風のように、さやりとさわめきました。天使たちは微笑みを流し、講堂の風の中に愛がたくさん溶けてゆきました。それで皆は本当に幸せな気持ちになりました。その水晶水の玉を見るだけで、何やら嬉しくてならず、胸の奥から愛が次々と泡のように浮かびあがってくるのです。

深紅の翼の天使は、琴と弓を机の上に置くと、青瑪瑙の机の上に浮かぶ透き通った玉を指差し、そよ風のような声で、「これが、卵子です」と皆に説明しました。そうです。今日は、遠い遠いはるかな昔、神が行われた、人間の女性の創造の一部の、模擬実験が、ここで行われるのでした。水晶水の透き通った玉は、大昔に神が創られた、卵子の模型なのでした。模型と申しましても、神がどうしても教えては下さらない秘密のこと以外は、ほとんど、本物と同じでした。卵子というのは、ご存知ですね。女性のおなかの中にある、赤ちゃんの卵のことです。

深紅の翼の天使は、卵子の模型を、指さしたり、くるくる回したり、風でやさしくなでたりしながら、卵子の構造やその創造についてみなに深い知識を教えました。タティエルは、持ってきた金の本に、その言葉を一言ももらすことなく書いてゆきました。卵子の創造は、それはそれは深い愛に満ちた奇跡でした。深紅の天使の話を聞いているうちに、皆が、神の愛の深さに心を動かされ、歓喜のため息が幾つも流れました。中には神をたたえる歌を歌いだしてしまうものもいました。タティエルはただ、幸せに酔いながら、一心に、深紅の翼の天使の言葉を聞き取り、どんな小さな言葉も逃さず、金の本に書き写してゆきました。

やがて深紅の翼の天使は、講義の第2章を始めることを告げました。タティエルは目をきらめかせて、自分の細い光のペンを握る手に力をこめました。

深紅の翼の天使は、まず卵子に、白い小鳥の金色の声を、入れました。すると、それはとても楽しくて、豊かな、おもしろいものになりました。次に彼は、赤い薔薇の花弁の中に潜んでいる、小さな香りの蜜を入れました。すると卵子は、それは美しい真心の香りを放ち始めました。その次には、三つの白い星の光を丸めて作った小さな飴を入れました。飴が卵子の中に溶けてゆくと、卵子はとてもやさしい愛に染まりました。
タティエルはどきどきしながら実験を見ていました。深紅の翼の天使が、卵子に何かを入れるたびに、卵子はどんどんすばらしく、美しく、よいものになっていきます。一体どれだけの愛をこめるつもりなのか、タティエルはもううれしくてなりませんでした。神はこんなにも、人間を愛していらっしゃるのか。そう思うと、涙さえ目に浮かぶのでした。

深紅の翼の天使は、他にも、野の百合の忍耐の微笑みや、青い蝶々の小さな光を入れました。すると卵子は、とても忍耐強くなり、小さなものに愛をそそぐ心が大きくなりました。そして次に天使は、白い薔薇の知恵を入れました。すると卵子はたいそう賢いものになりました。

深紅の翼の天使が、琴を鳴らし、第3章を告げました。タティエルはまた、ペンを握る手に力をこめました。持ってきた厚い金の本は、いつしか全部のページが文字で埋まってしまい、タティエルは急いで本の厚さを二倍に増やして、新しく書くところをこしらえました。

水晶水で作られた卵子の模型は、ほぼ完成していました。というより、天使にできることは、ほぼ終わっていたのです。これ以上のことは、神でなければできないというところまで、後二、三歩というところまで来ていました。
深紅の翼の天使は、再び琴と弓をとり、それを静かに奏でました。草原の上の風に甘くも、少し苦い香りが流れました。タティエルは、かすかに、胸が小さく割れるような痛みを感じました。ああ、と悲哀のため息をついて、一筋涙を流しました。これから起こることはもう分かっていたからです。

深紅の翼の天使が、指で琴の糸を弾くと、空中に小さな銀のナイフが現れ、それが卵子の中に、すっと落ちて、入ってゆきました。すると卵子は、あまりの痛さに、悲鳴をあげました。草原は、しんとしました。天使たちは息を飲みました。風が悲しみのあまり空を飛ぶのをやめ、草原のうえに布を敷くように倒れ込みました。

深紅の翼の天使は、卵子に「痛み」を入れたと説明しました。なぜなら、女性は、耐えられないことにさえ耐えなければならない宿命を背負っているからなのです。

銀のナイフは、卵子の中で、まるで卵子の全てを壊そうとするかのように、あちこちを切り刻み、壊して行きました。それを追って、薔薇の香りの蜜が懸命に傷を縫ってゆきました。百合の微笑みが卵子の核を抱きしめてともに痛みに耐えました。蝶々の光が、卵子が悲哀に沈んで壊れていかないように、必死に踊りながら美しい歌を歌って慰めていました。

しかし、卵子の苦しみを救うことはなかなかできませんでした。ボールのように丸かった卵子の形は今や、へこんだり、くしゃくしゃになったり、ねじれたりして、とても苦しがっていました。卵子は苦しい、苦しい、と叫びました。そしてあまりの悲しさに、とうとう、決して言ってはいけないことを、言ってしまいました。

「神よ、なぜこのようにわたしをつくったのですか!」

タティエルは突然立ち上がりました。そして右手の人さし指と中指で宙に赤い文字を描き、それに息を吹き込んだかと思うと、自分の胸にいつも熱く燃えている真の赤い星の炎を切り出し、一瞬の迷いもなく、その炎のかけらを卵子の中に放り込んだのでした。

他の天使たちは、びっくりして、一斉にタティエルを見ました。タティエルでさえ、自分のしたことに驚いていました。深紅の翼の天使は、タティエルを優しく見つめ、無言のまま微笑み、静かにうなずきました。

赤い炎は卵子の中に静かに溶けてゆき、卵子の真ん中で星のような赤い結晶に変わりました。卵子は力を得て、くるりと回ると、少し縮んで、自らの痛みに耐えながら、力を込めて、ナイフを吐きだしました。どこからか、かすかに、赤ん坊の泣き声を聞いた者がありました。

卵子は心臓のようにどくどくと鼓動していました。そしてふと、力が抜けたかのように草原の上に落ち、しばし動きませんでした。深紅の翼の天使が、また琴を弾きました。それはこの上もなく美しい愛の歌でした。タティエルは、一体自分は何をしてしまったのか、まだ分からずにいました。ただ、卵子の苦しみが耐えられなかったのです。いや、それをしたのはもしかしたら、自分ではなかったのかもしれません。神の御心の一撃が、自分の心を打って、それをやらせたのかもしれません。

やがて、水晶水の卵子は、いつの間にか動き始めていた風の中に、ふわりと浮かぶと、くるくると回りながらタティエルの方に飛んできました。すると卵子は、天使タティエルの前で、四歳ほどの小さな女の子の姿に変わり、とてもかわいらしく、丁寧にお辞儀したのです。そして女の子は、タティエルに言ったのでした。

「すみませんでした。神にとても無礼なことを言いました。心から神にお詫びします。助けて下さってありがとう」

タティエルは微笑み、やさしく女の子の頬をなでると、人間にもわかる言葉でやさしく言ったのです。
「あなたを愛していますよ」

すると女の子は頬を染め、もじもじとしながら微笑んだかと思うと、卵子の容に戻り、深紅の翼の天使の元へ飛んで帰っていったのです。

深紅の翼の天使は言いました。今日ここで行われた実験で起こった一つの現象は、未来を占う大切な道標となるでしょう。わたしたちはここから、大きな神の導きを授かることでしょう。

深紅の翼の天使は、あと二つ三つの実験を行いました。卵子は、ハチドリの羽の光をいただいて、細やかな愛を編むことができるようになりました。また、イワシの群れのまなざしから抽出した、かすかな金剛石の光をいただいて、愛を硬く信じる真を教えられました。あとは、神でなければできないことなので、実験をこれ以上進めることはできません。けれども、一部でも神の創造の美しさを見ることができて、本当によい体験と学びを得ることができたと、皆は本当に喜んで、心地よい幸せを共有したのでした。

深紅の翼の天使が、実験の終わりを告げる歌を琴で弾くと、水晶水でできた卵子の模型は、ゆっくりと風の中に消えていきました。薔薇の蜜や百合の微笑みや蝶々のため息やイワシのまなざしなどは、色とりどりの金平糖のようなきれいな結晶になって、卵子が消えた後に残っていました。それは神が人に与えた豊かな愛の印でありました。ただ、タティエルが投げた赤い炎の結晶だけが、どこにも見えませんでした。きっと神がお受け取りになったのだろうとか、何か不思議なことがこれから始まるしるしなのだろうとか、これは女性たちに新しいことが起こるしるしなのではないかとか、天使たちはしばしいろいろと話し合いました。

天使たちは深紅の翼の天使に深くお礼と挨拶をして、それぞれに講堂を出て行きました。そして白い天魚は、まるで口の中に守っていた自分の子どもを吐くように、たくさんの天使たちを次々と外に吐いてゆきました。

タティエルも、天魚の口をくぐると、外に出て空を見ました。卵子に与えるためにもぎとってしまった自分の胸の炎は、もう元の形に戻っていました。ただ、もぎ取ったあとの傷跡は残っており、それがまだ小さく痛みました。タティエルはその傷跡をみると、それがまるで、まだ意味のわからぬ不思議な魔法の記号のように思え、そのためにか、かすかな悲哀の風を頬に感じるのでした。

タティエルは振り向いて天魚に、「ふう」といって挨拶すると、翼を広げて、空に飛び上がりました。持っていた金の本は、いつしか黄水晶の大きな玉になっていました。タティエルはその黄水晶の玉を、卵を吸うように口から吸い込み、飲みくだしました。新しい知識と経験が、自らの内部の光に溶けていき、タティエルは自分の内部に豊かな愛が満ちていくのを深く感じました。

そしてタティエルは、口から銀の粉を吐きながら清らかな歌を歌い、しばし風と星の流れに身をまかせて空を飛んでゆきました。そして胸の傷から生まれてくるかすかな悲哀と喜びを、美しくからみ合わせて、愛の歌を作ると、それを人間たちに与えるために、星空に入り口を作り、地球へと向かったのでした。

(おわり)



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クランペルパピータ

2012-08-18 06:35:17 | 画集・ウェヌスたちよ

クランペルパピータは、昔、同人誌に発表した「星屑ポケット」という幻想小品集に出てきた、娼婦の名前です。もうどんなお話だったかも忘れたし、同人誌も箱に密封して片づけたまま眠っているけれど、このながったらしいけどかわいい名前だけは覚えていて、この名前を使って、美しいお話を書いてみたいと思い、書いてみました。

あくまでも、お話はファンタジー。いえメルヘンかもしれない。テーマはとてもつらいけど。きっとこの世界には、すみれ屋という娼館も、マダム・ヴィオラも存在しない。わたしの知っている限りの少ない知識と、想像だけで描いた、小さなお話です。すみれ屋がある国も町も、架空の国、架空の町。

鉛筆で描いたこのパピ、いえミモザですが、ちょっと怖い感じになってしまいました。
何かを言いたげな瞳で、じっとこっちを見ている。

ミモザは、みなみじゅうじ座のβ星、別名をベクルックスと言います。なぜ、一つの星に二つの名前があるのか、調べようとしたのですが、わかりませんでした。なお、みなみじゅうじ座のすぐそばには、カムパネルラがいってしまった石炭袋(コールサック)という暗黒星雲があります。






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ミモザ

2012-08-17 07:34:33 | 薔薇のオルゴール

クランペルパピータは、小さな娼婦でした。十二歳のときに、父親を亡くして、母親に、この山の懐にある小さな町の、小さな娼館「すみれ屋」に売られてきたのです。

娼婦というのは、それはご存じの方はたくさんいるでしょう。男の人に、愛を売る商売をする、女性のことです。本当は、やってはいけない仕事です。女の子が一番つらく苦しむ仕事なのです。クランペルパピータが、この「すみれ屋」に売られてきたとき、母に捨てられて泣きじゃくる彼女に、この娼館の主であるマダム・ヴィオラは、厳しいともやさしいとも聞こえる声で、言ったものでした。

「ここはねえ、女の子の地獄だよ。一番つらい仕事をしなくちゃいけないところだよ。かわいそうにねえ。親に売られて、こんなとこにくる娘なんぞ、そう珍しくない。辛かろう、クランペルパピータ。面倒だからパピと呼ぶけれど。パピ、地獄は地獄でも、わたしゃねえ、少々ましな地獄にはしようと思ってるから。おまえたちにやってあげられることは、やってあげるよ」

それから三日後、クランペルパピータ、いえパピは、きれいな服を着せられて、化粧をされて、初めての客を取らされました。その人は、町の役場で課長をしていると言う、五十代くらいのおじさんでした。パピにとっては、亡くなったお父さんよりも年をとった人でした。

初めての仕事を終えて、客が金を払って帰っていくと、パピはあまりの辛さと痛さに、大声をあげて激しく泣いてしまいました。苦しくて、恥ずかしくて、悔しくて、全身がばらばらに壊れそうなほど、体も心も、痛かったのです。マダム・ヴィオラは、泣き叫ぶパピを、そのまま放っておいても、叱りつけてもよかったのですが、どうにも哀れと思う気持ちを捨てられず、ぶっきらぼうではありますが、気持ちのこもった声で言ったのでした。「おいで、パピ。お風呂で体を洗おう」

そうして、パピは泣きながらも、マダム・ヴィオラに手を引かれ、お風呂場に向かったのでした。お風呂場で、マダム・ヴィオラはパピの血が出ている一番痛いところを、やさしく丁寧に洗ってやりました。そして、しゃくりあげながらも、少し心の和んできたパピに、マダム・ヴィオラは言うのでした。

「いいかい、女の子の大切なここをねえ、ヴァギナというんだよ。知ってたかい?」するとパピは、涙をふきつつ、かぶりをふりました。でも、ヴァギナというのは、なんだかすてきな名前だと思って、ふとパピは、小さな声で言いました。

「ヴァギナっていうの?ここ。かわいい。まるで子猫の名前みたい」するとマダム・ヴィオラはシャワーでパピを洗いながら、おかしげに笑って言うのです。
「そうさねえ、意味さえ知らなきゃ、本当にかわいい名前だ。猫や犬にでも、つけてしまいたくなるねえ」

そうしてマダム・ヴィオラは、パピにヴァギナの手入れの仕方を教えました。ヴァギナの形や、洗い方、消毒の仕方、痛いところにつける薬の種類や塗り方、化粧用の香水の使い方など。

「ひととおりは教えたから、今度からは自分でやるんだよ」とマダム・ヴィオラは言いました。するとパピは、小さくうなずきました。

そしてパピのところには、毎夜のように、男の客がやってきました。パピはとても若かったし、名前も顔もかわいかったので、たくさんの男の人に気に入られたようなのです。パピは毎晩、違う男の人を愛しました。仕事のあと、自分のヴァギナの手入れは、教えられたとおり、丁寧に自分でやりました。いつも清潔にしておかないと、お客さんもいやがるからです。

マダム・ヴィオラは厳しかったけれど、そんなパピを見て、時に、目を閉じて涙をこらえるような顔をすることがありました。そして、「ああ、哀れと思っちゃやれない仕事なのに、たまらないねえ」と言って、長いため息を吐くのでした。

娼館「すみれ屋」には、パピのほかにも、女の子がたくさんいて、毎晩客をとっていました。マダム・ヴィオラのところには、なぜか不思議にきれいな娘が集まってくるのです。客もそれをよく知っていて、「すみれ屋」はなかなか繁盛していました。中でも一番きれいなのは、ミラという名の、黒い髪をした娘で、白い肌と青い目がそれはきれいで、お客さんにも一番人気がありました。

ミラは、初めてパピに出会ったとき、言いました。
「ここは辛いところよ。あんたみたいなおちびちゃんに耐えられるかしら」「おちびじゃないわ。十二だもの」「おちびじゃないの。あんた、パピって言うのね。白っぽいブロンドがかわいいわ。大きくなると美人になるわよ。ほんとの名前はなんていったっけ?」「クランペルパピータ」「そうそう、そのややこしい名前。響きはすてきだけど、舌を噛みそうだわ」「パピでいいわ。あなたはなんて呼んだらいいの?」

するとミラはたばこの煙を吐きながら、苦い思い出の幻を青い瞳の中に流し、少しの間無言でパピを見つめ、言ったのでした。
「ここではミラという名で通ってるけど、親がつけた本当の名前は、マリソルというのよ」
「マリソル?すてきな名前ね、パピみたいに縮めていい?マリとか、ソルとか」
「そうねえ、どちらもいいけれど、やはりミラって呼んでちょうだい。今はそれが名前だから。わたしはミラ。あんたはパピね」

そういうとミラは、煙草を灰皿に押し付けて火を消し、窓辺に手をついて夜空を見上げ、しばし鼻歌を歌っていました。パピもミラの横に来て、同じように窓から夜空を見上げました。ミラは言いました。
「知ってる?空に見える星にはね、みんな名前か、番号や記号がついてるのよ。お客さんに教えてもらったんだけど、ミラというのは、くじら座の星で、光が大きくなったり小さくなったりする不思議な星なんですって」「ふうん。ミラは星の名前なのね、ミラ」「そうよ。わたしは星なの。すてきでしょ」「すてきだわ。ミラは夜空のどこにいるの?」「わからない。でもきっと、この空のどこかにあるんだわ。そしてわたしを見てくれてる。ずっとね。そしてきっと、時がきたら、わたしはミラに帰るんだわ」「ミラ?帰ってしまうの?」
パピはミラに問いました。でもミラは何も答えず、ただ静かに空を見あげながら、かすかな吐息のような声で、讃美歌のような歌を一節歌ったのです。

そして二年が経ちました。パピは十四歳になり、だんだんと仕事にも慣れてきて、馴染みの客というのもできてきました。パピはまだ少女でありましたので、それが哀れを誘うのか、だいたいのお客は、あまりパピに乱暴なことはしませんでした。けれども時々、怖い客がきて、パピはひどく馬鹿にされて、とても恥ずかしく、辛いことをやれと言われることがありました。パピは、日ごろマダム・ヴィオラに、とにかく何を言われても我慢をして、客の言うとおりにするのよと言われていたので、一生懸命にやりました。でも客はパピが必死になればなるほど、汚い言葉でパピをいじめるのでした。パピは恥ずかしさにも痛さにも心に刺さる客の言葉にも耐えながら、仕事をしました。涙がほろほろ流れました。そしてやっと仕事が終わると、客はパピには何も言わずに、さっさと金を払って帰っていきました。パピは、ベッドの横で、捨てられたぼろぼろの人形のように、しばし倒れていました。悲しいとか辛いとか、感情はかすかに動きましたが、心はまるで凍った石のように床の上に転がっていました。パピは、自分が、丸ごと、ごみのようなものになったような気がしました。ガラスのような砕けた心を胸に抱いて、パピは一瞬、もう自分は死んでしまったとさえ、思ったのです。

やがてパピは、操り人形のように無意識のうちに立ち上がり、シャワーでいつもより丁寧にヴァギナを洗い、良い匂いのする薬を塗り込みました。

「辛いと思っちゃ生きていけないよ」マダム・ヴィオラの声が頭をよぎり、パピは喉からこみあげる声を飲みこんで、黙って涙を流して泣きました。辛くない。辛くないんだ、こんなこと。でもそう思おうとすればするほど、辛くて、悲しくて、涙があふれて止まらないのでした。パピは自分の体の手入れをし終わると、タオルで体をふきつつ、鏡に映る自分の裸をみました。象牙を彫ったような白い少女の裸体がそこにありました。パピの乳房のふくらみは痛々しいほどまだ小さくて、薄紅の花がそのてっぺんに咲いていました。
パピは突然思いました。「ミラみたいに、星の名前がほしい!」

パピは急いで服を着ると、風のように部屋を出て、奥の事務室で帳簿を読んでいるマダム・ヴィオラのところに行き、自分もミラのように、星の名前が欲しいと言いました。

「星の名前?なんでだい?」マダム・ヴィオラは、面倒くさいと思いながらも、そっけなく追い返したりはせず、帳簿から目を上げて、パピを見ました。
「ミラに聞いたの。ミラは星の名前だって。そしていつか、ミラはミラに帰るんだって。わたしもいつか、自分が帰れる星がほしい」
「パピじゃいやなのかい?かわいいって、お客さんには気に入られてるんだけどねえ」
「星の名前がいいの。ミラみたいな、きれいな星の名前がほしいの」
「やれ、わけがわからん。でもわかったよ。ミラのお客さんに、大学で星の研究をしている先生がいるから。きっとその人が、ミラに教えたんだろう。その人が今度来た時、聞いといてあげよう」
「ほんと?きっとね!ありがとう、マダム・ヴィオラ!」
パピは大喜びで、子どものようにはねて、マダム・ヴィオラの頬にキスをしました。マダム・ヴィオラは、びっくりしたように目を丸めて、ふう、と息をつきました。

それから数日後のこと。昼時にパピが皆と一緒に大部屋で軽い昼食をとっていたとき、マダム・ヴィオラがパピのところにきて、言いました。
「例の先生に聞いといてあげたよ。南十字の星に、ミモザというかわいい名の星があるそうだ。どうだね」
「ミモザ?」パピはマダム・ヴィオラの顔を見あげながら、きょとんと返しました。マダム・ヴィオラは続けました。「どう、きれいだと思うがね」「ミモザ…、ミモザ…」パピがつぶやきながら考えていると、隣に座っていたミラが少し笑いながら言いました。「ミモザって、花の名前にもあるわよ」
「…あ、そうだ、わたしも見たことがある。黄色くって丸いとてもきれいな花」「星も花も、どっちもきれいじゃない」「うん、きれいね」
パピが言うと、マダム・ヴィオラがパピに言いました。
「気に入ったかい。じゃあ、パピは今日からミモザだね?」「うん、ミモザ、ミモザにするわ!」パピは大喜びで言いました。

その夜、パピ改めミモザのところに、馴染みのお客さんがひとりやってきました。それは、ミモザの死んだお父さんくらいの年の男の人で、車の修理工場の社長さんでした。名前が変わったことをお客さんに告げると、お客さんは興味もなさそうに言いました。「へえ、星の名前ねえ」「うん、そうなの、きれいな名前でしょう」「パピのほうがかわいかったがな」「うん、でも今日からはミモザって呼んでね」「まあいいがね」

ミモザが仕事を終えて、自分のヴァギナを洗い終わり、体を拭きながらふと鏡を見ると、ミモザは自分の裸身が、いつもより白く光っているように見えました。きっと自分が星の名前になったからだと、ミモザは思いました。ああ、これで、どんなにつらくても、いいんだ。帰ってゆける星ができたのだもの。お空にある、遠いわたしの故郷…。どんなにつらくても、お空には、わたしの星の、天国があるんだ…。

美しい黒髪のミラが死んだのは、それから一カ月後のことでした。

お客さんにもらった睡眠薬を、たくさん飲んだのです。ベッドの横の小机に、小さな紙切れに書いた遺書が置いてあり、ただ一言、「ごめんなさい」とだけ書いてありました。マダム・ヴィオラは、亡骸の前で声もなく泣いていました。ミラにはもう、家族も故郷もなかったので、マダム・ヴィオラが、ミラの小さなお葬式をやってくれました。親切な牧師さんが来てくれて、ミラのために祈ってくれました。ミモザも黒い服を着て、棺の中のミラに小さな薔薇の花をあげました。

「ミラに帰ったのね、ミラ」ミモザはそっとミラにささやきました。

お葬式があった日の夜、早々に、ミモザのところに客がやってきました。その夜の客は、ミラの馴染みのお客でした。いつもミラばかりを指名していたのだけど、ミラが死んだので、代わりにミモザのところにきたのです。

ミモザは悲しむ暇もなく、お客のお世話をしました。お客さんは、ミラが死んだと聞いても、別に驚いた様子も悲しむ様子もないようでした。ミモザは、ミラが生きていたとき、言っていたことを思い出しました。

「この仕事はね、『男』っていう赤ん坊の、命令を全部聞けって仕事なのよ。女は男のためにどんな辛いことでも何でもやって、男の方がずっと偉いんだってことに、してあげるの。そして結局、女は、全てを与えて、何にもなくなって、どこかに消えていくの…」

そうね、ミラ。ミモザはまだちびだから、よくわからないけど、お客さんはみんな、えらそうにしてても、ほんとはママみたいにミモザに甘えて、なんでもやってもらいたいみたい。とミモザは心の中でミラに言いました。

お客が用をすまし、金を払って帰っていくと、ミモザはお風呂場に行き、自分のヴァギナを宝物のように丁寧に洗いました。そしてきれいに手入れをすると、清潔な下着をつけ、マダム・ヴィオラがくれた、安物で、少し派手ではあるけれど、薔薇の花模様のきれいな寝巻を着ました。そして窓を開けて夜空を見ながら、言いました。

「ミラ、今頃はどこにいるの?」

黒い空にはうっすらと銀河が横切っているのが見えました。ミラの星がどこなのか、ミモザにはわかりませんでした。そうして、夜空に目を吸い込まれているうちに、いつしか、心の奥にため込んでいた涙が、たっぷりとミモザの頬を濡らしていました。

南十字座にあるミモザの星は、ここからは見ることができないと言うことをミモザが知ったのは、もう少し後のことでした。

(おわり)



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モナリザを描いてみた

2012-08-16 07:58:27 | 画集・ウェヌスたちよ

切り絵でモナリザを描いてみました。一挙にレベル上がりましたな。無謀もいいとこかもしれない。

背景などはとても描けないので、一切省略。衣服やヴェールなども、切り絵にしやすいように細かいところを変えました。目を支えるために、眉毛も描き入れたら、とてもかわいいモナリザになりました。手元などは、なかなかうまくマネできたと思うのですが。

最近一番古い模写だと分かった、プラド美術館のモナリザの模写なども参考にして、細かいところを確認したりもしました。まあ、これは遊びですから。おもしろがっていただければいいかと。

一応、切り絵の下描きに手を入れて、鉛筆の絵にもしてみました。これもフェイスブックのアルバムにいれときます。



完璧主義でちょっとおっかなかったレオナルドですが、こうして描いてみて、一気に親近感わいてきました。今度は「白テン」などにも挑戦してみましょうか。
人の絵の真似するのって、なかなかに勉強になりますね。モナリザの真似して、わたし、自分の絵が少し変わりましたよ。

さて、次は誰のまねしようかな。



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ホミエル

2012-08-15 07:47:17 | 画集・ウェヌスたちよ

金の百合のラッパを吹く、天使ホミエルです。

昨日のお話を発表する前の朝のテレビニュースでは、シリアの内戦の模様が語られていました。男の人たちが銃を持って、装甲車みたいなのに乗って町を走っていた。銃を打つと、銃口から火花のような閃光が飛び出した。

戦争とは、人殺しと泥棒を、みんなでいっしょにすることです。

このホミエルのお話の元になったのは、昔描いたことのある一枚の切り絵です。タイトルは「三本のラッパを持ち星を修正する天使」。文字通り、天使が三本のラッパを左手に持ち、右手は星に手を差し伸べている。夜空を飛びながら。

なんで三本なのかというと、その天使の絵を描いていたとき、左手に持たせるラッパが一本では絵がさびしかったので、三本にしてみただけなのですが、三本にしたせいで、何か不思議な感じがして、後で星を描き入れ、「三本のラッパを持ち星を修正する天使」というタイトルの絵にしたのです。多分この天使は、星を修正することによって、地球の運命を修正しているのだろう。と、そんなことを考えた覚えがあります。

で、それをお話に書いてみたのが、昨日のお話です。絵の中では、紙の大きさの都合でラッパはちょっと短いけど、イメージの中のラッパは、もっと細長いです。

本当に、戦争が、早く地球上から、なくなってくれますように。


今気がついたけど、今日は終戦記念日だ!






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天使ホミエルの話

2012-08-14 08:29:43 | 薔薇のオルゴール

白い綿をどこまでも果てもなく敷き詰めたような雲の原には、ところどころ星を隠しているかのように、かすかに光っているところがありました。清らかに澄んだ白い雲はほんの少し青みを帯びていて、時々、その奥からパシャリ、という不思議な水の音が、聞こえるときがあります。それは、雲の原の少し下にある透きとおったカンラン石の水の層の中で、小さな星を宿した透明な岩魚が跳ねる音だそうです。

天使ホミエルは、雲の原の上に立ち、空を見あげながら、時を待っていました。空には双子のような金色の銀河が二つ、並んで浮かんでいました。ホミエルは星の位置を目で確かめながら、風が刻むかすかな時の音に耳をすまし、空にある星の一つが、突然、きん、と鳴る音を捕まえました。それと同時に、ホミエルは手に持っていた小さな銀の種を、雲の原に落としました。

とたんに、雲の原の上に、ひょこりと白い百合の花が顔を出しました。ホミエルはそれを確かめると、いそいで百合のそばから飛びのきました。白い百合は一息の風に揺れると、どんどん丈を伸ばし、枝別れして、その枝はどんどん太く長くなり、二本が綱のように抱き合い互いに巻きつきながら、空に向かって太く大きく伸びてゆきました。やがてそこに、大きな白い百合のつるでできた、塔のように高い緑の木が現れました。天高く伸びた百合のつる木には、所々に伸びた薄緑色の枝に白い百合の花が咲き乱れ、その香りが辺りの空気を涼しく清めて、つややかな緑の葉はうれしそうに風にゆれて喜びをまきました。百合は何かの予感を感じて、きれいな銀の露をひとつほとりとホミエルの額に落としました。

ホミエルは百合のつるの大木を見あげて、満足の微笑みをすると、今度は歌の魔法をしました。澄んだ美しい声で一節の歌を歌うと、百合のつるにはいつかしら、糸のように細い銀の針金をレースのように編んでできた、銀の細い螺旋階段が巻きついていたのです。螺旋階段の欄干には、星や月や花の模様が、銀の針金でそれは細やかに美しく編みあげてありました。
ホミエルはうれしそうに笑うと、螺旋階段の前に立ち、神に丁寧にお辞儀をしてから、その螺旋階段を上ってゆきました。

翼をもつ天使も、神の空にまで上るには、途中まで百合の階段を上らねばなりませんでした。ホミエルは銀の螺旋階段をどんどん上り、とうとう、銀の階段のてっぺんまで来ました。双子のような銀河から、うすい箔を落とすような金の光が、ホミエルの頭に落ちていました。ホミエルは銀河の神に丁寧にお辞儀をし、感謝をすると、ほう、と一声言って、百合の階段の少し上に、透明な入り口をこしらえました。そこでようやくホミエルは、背中から菫色の翼を出して広げ、その入り口から、神の空に向かって、飛び出していったのです。

神の空に出ると、そこには不思議な青い太陽があって、空間はまるで青いラピスラズリの粉を詰められているかのように青く光り、どこまでも果てしなく広がっておりました。太陽風が高い次元で、天使の耳を壊さないように静かにも豊かな交響曲を歌っていました。かすかに聞こえるその音に耳を澄ますと、ホミエルの胸に歓喜が花園のように咲き乱れ、楽しくてたまらなくなり、笑い出さずにいられませんでした。そういうことで、ホミエルはまるで子どもが野で花を探しながら走り回るように笑いながら、青い神の空を飛んで行きました。

やがてホミエルは目当ての小さな星を見つけました。それは青い太陽の周りを回る、胡桃のような形をした小さな灰色の星でした。普通の岩の星のように見えますが、よく見れば所々に、透きとおったアイオライトの結晶が、ジャガイモの芽のように小さく生えていました。星はヴェールのような半透明な大気に包まれて、神の歌の歓喜に酔い、くるくる回りつつも、自分の軌道を一ミリたりと間違えずにゆっくりと飛んでいました。ホミエルは小さなその星に近づくと、何事かを星にささやきました。すると星はくるくる回るのをやめ、少し考えるようにころりと横に傾いたあと、ホミエルの言葉にやさしくうなずきました。ホミエルはほっとして、神と星に深く感謝をすると、その灰色の星を脇に抱え、再び入り口を通って百合の階段を下り、元の雲の原へ帰ってきたのです。

さて、ホミエルの仕事はまだこれからでした。ホミエルは雲の原に戻ると、百合の木と銀の階段はそのままにしておいて、星を抱えながらもう一つの入り口をこしらえ、その入り口をくぐって飛んで行きました。するとそこには、暗い宇宙空間がありました。遠くに白く小さく太陽が見え、近くには、虎目石と蛋白石と赤や青の瑪瑙を混ぜ合わせて丸く磨いたような木星が、大きく見えました。ホミエルは、菫色の翼をはためかせ、一ふしの歌を口笛で歌いました。するとすぐに、目当ての星は見つかりました。それは、木星の軌道上を回る、人間はまだ誰も知らない、小さな氷の衛星でした。氷の衛星は、木星軌道上を回りながら、まるで胸が破れそうな悲しそうな声で、歌を歌っていました。ホミエルはそれを見て、眉を寄せ、思わず息を飲み、悲哀を癒す呪文を星に投げてやりました。星があまりにも苦しそうに、今にも割れそうな声で、痛い、痛い、痛い、と叫んでいたからです。

ホミエルは、悲哀する氷の星に近づくと、そっと星に何かをささやきました。そして、新しく連れてきた灰色の星と、その星を、さっと取り替えました。灰色の星は、木星の軌道に乗ったとたん、歌を歌い始め、くるくる回り始めました。悲哀の星は、ホミエルの手の中で、赤子のように震え、泣いていました。ホミエルは星を抱いてやさしく慰めました。

この小さな氷の星は、地球上に、醜い戦争が起こらないようにと、ずっと長い間魔法の歌を歌ってきたのです。それは、星々が地球にささげる愛の歌の合唱の中の一つの大切な旋律でした。星は、星が歌う歌に人間が気づかなくても、ずっと歌ってきたのです。時には、その歌が人間の心に届いて、戦争がなくなったこともありました。けれども、ほとんどの人間は星の歌に耳を貸さず、人間は決して戦争をやめませんでした。長い長い時を経て、辛抱に辛抱を重ねて歌い続けてきたこの星は、ある日とうとう絶望して、泣いてしまったのです。

このままでは、星の悲哀が、地球に悪影響を及ぼすと考えたホミエルは、神に問い、新しい星と取り替えてはどうかとお尋ねしてみたところ、神はそれをせよとホミエルにおっしゃり、かわりとなる新しい星の居場所を教えて下さったのでした。

新しい星は木星の軌道上を、ぎくしゃくとしながら回っていました。まだ木星の引力に慣れていないからでしょう。一度など、軌道上を転げ落ちてしまいそうになり、あわててホミエルが元に押し戻しました。ホミエルは、太陽と木星の神に拝礼すると、今度は手の中に金の種を出し、それに呪文を吹きこみました。すると金の種は、吹き口は一つで、音の出口は三つある、金色の細長いラッパになりました。ラッパの出口は、百合の花の形をしておりましたので、そのラッパはまるで、三本の金の百合を束ねたようでもあったのです。

ホミエルは悲哀の星を左わきに抱きながら、右手に持った三本の百合のラッパを吹き、高らかに音楽を奏でました。それはまだ少しゆらいでいた新しい星の軌道の動きを修正し、正確な位置に戻し、新しい使命と歌と踊りを、星に深く教えたのです。

「よし」という御心のことばが、木星の神からかすかに聞こえてきました。ホミエルは深く木星の神に頭を下げると、新しい星の未来を祝福し、傷ついた悲哀の星を赤子のように抱いて、また、透明な入り口を通って、元の雲の原に戻ってきました。

「ほう」とホミエルは言って、傷ついた氷の星を、弱った魚を川に戻すように宙に放ち、しばらくの間、雲の原の上の空間で毬のように静かに回らせ、もう一度百合のラッパに口をつけて、今度はいかにも優しく、魂の深いところに届く透明な音で、心地よい子守唄のような曲を吹きました。星の長い長い間の苦労と悲哀に、感謝し、慰める歌でした。星はしばらくは悲哀に硬く心を閉ざしているかのようでしたが、次第に音楽が心に響いて、やがてほんの少し喜んで、一度だけ、くるりと回り、かすかな祝福の歌を歌ったのです。
ホミエルはラッパを口から離して、微笑むと、小さな星をもう一度抱き、百合の木の階段を上り始めました。そして神の空に出て、星を放つと、見えない神の手が風となって星をすぐにどこかに連れていってしまいました。

このようにして、新しい星が、木星の周りを回り始めたので、地球の運命はこれから、少しずつ変わっていくことになるそうです。戦争をすることが、だんだんと、難しくなってくるそうです。本当かなあ。本当だと、いいですね。

(おわり)



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オリンピアード

2012-08-13 10:49:08 | 詩集・貝の琴

よきものは あしきもの
ただしきものは あやまちたもの
たかきものは ひくきもの
歓喜の歌は 忘却に埋めた 
彼方からの 青い呼び声

オリンピアード 
やっと終わったか

遠い未来の者が
おまえを見るときの驚愕を
だれもが今知らぬことは
幸福やもしれぬなれど

痛き秘密の証しよ
今宵見る夢が
苦しみに歪むのは
まことに幸福と思うておるがよい





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精霊たち

2012-08-13 08:10:29 | 画集・ウェヌスたちよ

「月の世の物語」から。精霊の絵をたくさん描いたので、紹介したいと思います。
まずは余編「二」と「一」に出て来た、白蛇に化身する精霊です。まだ二人だった頃、一緒に歌を歌っているところです。

彼らは全身白く目は赤銅色で瞳は細い。唇もうっすらと赤い。非常に清らかな心の持ち主でそれゆえに神に大事な仕事をさせられたらしい。彼らは二人になる前の記憶が一切ないのですが、それもこの役目のために神に消されたらしい。
彼らの仕事がなんだったのかは、神以外ご存じないでしょうが、多分、この世界で、本当は一つのものであるはずが、二つになってしまった何かが、崩壊してしまうのを防ぐための、何らかの楔のようなものだったのでしょう。


瑠璃の精霊。

別章「石」に出て来た瑠璃の精霊。もう一度描きなおしてみました。前のがちょっと気にいらなかったので、髪は透き通った水色で額に金に縁取られた瑠璃をはめ込んだ、美しい青年の姿をしているという設定です。記憶で書いてるので、少し間違ってるかもしれないけど。

なかなかに美しく描けました。


紅玉の精霊。

同じく別章「石」に出て来た、紅玉の精霊。最初は切り絵にしようと思ったのですが、薄紅色の目が描きたくて、途中で色鉛筆に変えました。バックも塗ったら、ちょっと怖い感じになりましたが、薄紅の瞳がきれいなので、載せました。頭に三本の紅玉の角、銀の髪に薄紅の瞳。女性の精霊です。

彼らの仕事は、芸術の道をゆく人間の感性や霊性を高めて、導いていくことらしいです。


海の精霊。

これは本章「海」に出て来た海の精霊。色鉛筆で描いてみたら、ちょっとおちゃめな感じになってしまいました。きれいな緑の豊かな髪をしています。下半身はウナギのような、人魚の姿をとっている。本当の姿はまた少し違うでしょう。海の底で、人間たちが起こした戦争で穢れてしまった海の秘密をずっと清めているらしい。

いろんな精霊が出てきましたが、皆少々人間離れした姿をしてます。耳も少々とがっている。彼らの歌には「青年」や「少年」たちとはちがう、魔法の力があるらしいです。

今日は精霊の絵をたくさんあげてみました。



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