院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

どこへ行った?「計量裁判」の試み

2015-02-21 05:36:54 | コンピュータ

(名古屋地裁内部。裁判所のHPより引用。)

 私が大学に入ったばかりの1970年ころ、大型コンピュータが普及し、膨大な統計計算が一瞬でできるようになりました。

 それに歩調を合わせるように、「計量心理学」や「計量診断学」が勃興しました。現象を数値化して計算はコンピュータにやらせようというわけですね。

 同じころ「計量裁判」という考え方出てきました。犯罪を細かく数値化する、すなわち、犯罪被害の大きさ、常習性、動機、犯意、情状酌量などを数値化して「悪質度」が計算できれば、裁判官の恣意が入らない公正な判決が出せると考えた人々がいました。

 結果がどうなったかというと、同じ「悪質度」でも裁判官によって量刑が違うことがわかりました。私が見た本では、4人の裁判官が別々の量刑を行いました。

 そのときに、量刑が重い裁判官から軽い裁判官までA、B、C、Dと並びました。別の犯罪で同じことを行っても、この順位は変わりませんでした。それにより、裁判官の恣意性ではなく、逆に裁判官の一貫性が見えてきたのでした。

 裁判官の独立性はやはり重要で、人が人を裁くのは機械が人を裁くよりはマシだということになったのでしょうか。その後計量裁判がまだ研究されているとは聞きません。

 じつは、連続量でない(非線形な)データを線形とみなして得点をつける方法は、薬効検定では未だに行われています。うつ病の重さを表すハミルトン尺度が有名です。前にご説明した二重盲検法には抗うつ薬の場合ハミルトン尺度が用いられることが多いです。

 うつ病の重さや改善という質の問題を数値で表すのは本当はおかしいのですが、それを凌駕するだけの説得力のある研究方法がまだないのが現状なのです。


※今日、気にとまった短歌

  まどろめば腹に乗りくる猫なりきもう一度抱き荼毘師(だびし)にわたす (深谷市)上田英司

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