えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

図書館のこと

2010年05月25日 | 雑記
改札を出て階段を左に曲がり、階段を下りたタクシーのたまり場を過ごして
呉服屋を左に曲がる。ゆるやかに右に曲がる、今思えばやっとわかるほどの坂を
おりてゆく。クリーニング屋を左手に過ぎ、駄菓子屋を右手に、桑の木の向かいが
えんじ色の煉瓦を積み重ねて作った図書館でした。図書館は、今も清流と小さな
お稲荷さんを抱えて元気にやっています。ただ桑の木と駄菓子屋と、それから
右に、たしかに右に曲がりながら図書館へ連れて行ってくれた道は、もうありません。

桑の木の後ろに広がっていた畑が駐車場になったころから、工事のロープが駐車場の
向こうに張り巡らされて、ロープはだんだんと桑の木を隠し、駄菓子屋が空き家になり
いつの間にかただの地面に変わると、ゆるやかな曲線は宅地の四角い地面に追い詰められて、
マスゲームのように角ばった道へと姿を変えてゆきました。駄菓子屋がなくなった頃から、
煉瓦をくりぬいて作ったような図書館に足を運ぶことはぐっと少なくなります。
もっとずっと本のある図書館がそばにあって、毎日そこに通って、夢中になっている
合間駅の向こうではショベルカーがどんどんと、壁の向こうにあった畑や八百屋や
古い家を掘り出して、空いた穴に別のぴんぴんに角の立った家を埋めてゆきました。
駅の向こうには小さなバス停ができました。バスがくるりと体を
変えられるよう、ぐいぐいと土を押しのけてアスファルトを並べ、銃弾の軌道のように
まっすぐな道路がバイパスから道の横っ腹を貫こうとしています。

呉服屋を左に曲がると、前からある工務店が一軒左手に立っています。
ものさしを並べてつくった道路は、どちらに曲がっても図書館へは遠い道です。
扇形の孤をてくてくと歩いていた記憶が邪魔をして、正方形の辺を歩かなければ
いけないたび、うっと胸が息苦しくなります。道が家にあわせた地面、家が道に
あわせた地図。また土に売約済みの立て札が増えました。

バイパスへ直通する道路はたくさんの車のために、ぐっと道が左右にひろげられて、
その分、家の影が遠くずれこみ、西日と空がかろうじて広々と両手を伸ばして、
見上げると画面の左右しか見ていなかった目が上下の動きを強いられて、まぶたの筋肉を
ふるわせながらも思い切り空を吸い込みました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする