天井桟敷の人々 ☆☆☆
Les Enfants du Paradis
1944 フランス、白黒、普通サイズ
監督:マルセル・カルネ、脚本:ジャック・プレヴェール
出演:アルレッティ、ジャン・ルイ・バロー、マリア・カザレス
ピエール・ブラッスール、マルセル・エラン
パリの空の下、爽やかに晴れた日の犯罪大通りは、
熱狂したカーニバルの幸せそうな人々でごった返している。
こまかい紙吹雪が舞いちり、
音楽が絶叫し、人々の歓喜がうずまき、
幸福が所狭しと踊りくるう。
その満員電車の中のような大通りを、
おしあいへしあいしている人々の中を、
苦しそうな、心臓を無くしたかのようなバチスタが、
理想の女性を失いかけて、
絶望の淵に立ったような表情のバチスタが、
かきわけかきわけしながら、
その女性を追いかける。
必死で、必死の形相で。
画面は白く精緻で、冷徹な感じだ。
馬車は無情に、冷静に、群集の中を消え去っていく。
ジャン・ルイ・バローはパントマイム役者のバチスタで、その純粋で素朴な感じが印象的。ピエール・ブラッスールは気さくで女ったらしのシェークスピア役者のフレデリック・ルメートルで、陽気な中に一本気な所がある。マルセル・エランはインテリ犯罪者のラスネール。アルレッティはいつも内容不明の微笑を表情に固定した神秘的雰囲気の、男達みんなに愛されるガランス。マリア・カザレスは気の強い、一途な感じの若い娘のナタリーでバチスタを想い続ける。ピエール・ルノワールは要所要所で出て来る古着屋のきたならしい爺さんで、様々な事件や事実を暗示する狂言回しのような役割。ジャンヌ・マルカンは宿屋の女主人のエルミーヌ夫人役で、小さな脇役だけれども、中年女がピエール・ブラッスールに口説かれてウキウキしまくっている様子が面白い。
戦時中、占領下の作品とのことで、反ナチの意味が隠されているらしい。最後に殺される伯爵が占領軍、ラスネールやルメートル、バチスタ等が抵抗組織、ガランスが彼らの愛するフランスと見なされなくもない。Garanceは「あかね色」の意味で、セリフでは花の名前となっているが、GaをFに変えればFranceになる。ただ、そうした構造は予備知識なしでは全く分からない程度に深く隠されている。
芸術、特に舞台芸術を愛する庶民的な人々の群像を描いた物語で、そうした人々への愛に満ちあふれた映画だった。登場人物の表現が深く克明で印象的。演出も俳優たちの芝居も良かった。ウェッブで調べてみるとParadisは「パラダイス、天国」の意味で、「天井桟敷」の意味もあるらしく、Enfantが「子供」でEnfantsがその複数形、「市民、国民」の意味があるらしい。
キャラクター設定については「白痴」の登場人物に似た感じがあると思った。ガランスとナスターシャ、バチスタとムイシュキン、ナタリーとアデライーダ、ルメートルとロゴージン。それぞれ、黒澤明の映画では、原節子、森雅之、久我美子、三船敏郎。
10.06.06 シネコン映画館(午前十時の映画祭)、昔TVで1度
Les Enfants du Paradis
1944 フランス、白黒、普通サイズ
監督:マルセル・カルネ、脚本:ジャック・プレヴェール
出演:アルレッティ、ジャン・ルイ・バロー、マリア・カザレス
ピエール・ブラッスール、マルセル・エラン
パリの空の下、爽やかに晴れた日の犯罪大通りは、
熱狂したカーニバルの幸せそうな人々でごった返している。
こまかい紙吹雪が舞いちり、
音楽が絶叫し、人々の歓喜がうずまき、
幸福が所狭しと踊りくるう。
その満員電車の中のような大通りを、
おしあいへしあいしている人々の中を、
苦しそうな、心臓を無くしたかのようなバチスタが、
理想の女性を失いかけて、
絶望の淵に立ったような表情のバチスタが、
かきわけかきわけしながら、
その女性を追いかける。
必死で、必死の形相で。
画面は白く精緻で、冷徹な感じだ。
馬車は無情に、冷静に、群集の中を消え去っていく。
ジャン・ルイ・バローはパントマイム役者のバチスタで、その純粋で素朴な感じが印象的。ピエール・ブラッスールは気さくで女ったらしのシェークスピア役者のフレデリック・ルメートルで、陽気な中に一本気な所がある。マルセル・エランはインテリ犯罪者のラスネール。アルレッティはいつも内容不明の微笑を表情に固定した神秘的雰囲気の、男達みんなに愛されるガランス。マリア・カザレスは気の強い、一途な感じの若い娘のナタリーでバチスタを想い続ける。ピエール・ルノワールは要所要所で出て来る古着屋のきたならしい爺さんで、様々な事件や事実を暗示する狂言回しのような役割。ジャンヌ・マルカンは宿屋の女主人のエルミーヌ夫人役で、小さな脇役だけれども、中年女がピエール・ブラッスールに口説かれてウキウキしまくっている様子が面白い。
戦時中、占領下の作品とのことで、反ナチの意味が隠されているらしい。最後に殺される伯爵が占領軍、ラスネールやルメートル、バチスタ等が抵抗組織、ガランスが彼らの愛するフランスと見なされなくもない。Garanceは「あかね色」の意味で、セリフでは花の名前となっているが、GaをFに変えればFranceになる。ただ、そうした構造は予備知識なしでは全く分からない程度に深く隠されている。
芸術、特に舞台芸術を愛する庶民的な人々の群像を描いた物語で、そうした人々への愛に満ちあふれた映画だった。登場人物の表現が深く克明で印象的。演出も俳優たちの芝居も良かった。ウェッブで調べてみるとParadisは「パラダイス、天国」の意味で、「天井桟敷」の意味もあるらしく、Enfantが「子供」でEnfantsがその複数形、「市民、国民」の意味があるらしい。
キャラクター設定については「白痴」の登場人物に似た感じがあると思った。ガランスとナスターシャ、バチスタとムイシュキン、ナタリーとアデライーダ、ルメートルとロゴージン。それぞれ、黒澤明の映画では、原節子、森雅之、久我美子、三船敏郎。
10.06.06 シネコン映画館(午前十時の映画祭)、昔TVで1度