二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

宗方姉妹

2010-01-13 | 邦画
宗方姉妹 ☆☆
1950.08.25 新東宝、白黒、普通サイズ
監督・脚本:小津安二郎、脚本:野田高梧、原作:大仏次郎
出演:田中絹代、山村聡、高峰秀子、上原謙、笠智衆

闇の奥の底深く、
縦に長く黒く、
太くて鋭い、
トゲトゲした楔が一本、
田中絹代と山村聡を引き裂くように、
画面中央に入っているかのようだ。

どうにもまとまることの無いこの夫婦の絆に、
こだわって、
貞節を守ろうとするこの節子という女性は、
理想主義者なのだろか?

自分の本心に忠実に生きようとしている主人公の
本当の気持ちは、
本人にも、観客にも、脚本家にも、原作者でさえ
分からないのかも知れない。
そもそも人に本当の気持ちなんてあるのだろうか。
実は、存在しているのは、
千路に乱れて、多数に分岐した、
複雑な気持ちの流れなんじゃないだろうか。
それでもなお節子は理想にこだわるのだ。

理想主義者の節子がドン・キホーテだとすれば、
妹の満里子はサンチョ・パンサか?
節子の経営するバーの壁に
I drink upon occasion,
sometimes upon no occasion.
Don Quixote
と大書してあって、しばしばクローズアップされる。

節子の強烈な貞節の美しさを田中絹代の美しさに重ね合わせ、
満里子の強力な活動力を高峰秀子の聡明さに重ね合わせ、
静的で和服の、戦前の価値観を代表する節子と、
動的で洋装の、戦後の価値観を代表する満里子とを
対比させることが、この映画な主軸なのだろうけれども、
どうにも、
山村聡が演じる田中絹代の夫役の暗さが印象に残りすぎて、
それで、
この夫婦の亀裂の深さが思いやられる。
たぶん、
姉妹の父親の笠智衆もそう思っていたのではなかろうか。

映画自体は比較的明るい喜劇調のもので、
軽い気持ちで見ていいものだと思う。

高峰秀子と笠智衆が並んで庭の鶯を見ているシーンがある。高峰秀子が「うんこ」と言う。原作にそういうセリフがあるのかどうか分からないが自分の別荘に雲呼荘という名前を付ける野田高梧と、そして小津安二郎による「高峰秀子に『うんこ』と言わせる」作戦には間違いないように思う。楽しい作戦で、うれしい。

節子役は小津映画の原節子そのもので、もしかして原作者はこれを原節子に当てて書いたのではとさえ思える。それを田中絹代がやる所が面白い。まったく違和感なく田中絹代風「節子」になっていたと思う。

高峰秀子はやんちゃで元気ないたずらっ子。特に、弁士と言うかナレータというか、脚本を読むような感じで何度も繰り返し上原謙にアプローチするシーンが秀逸で面白い。

10.01.10 神保町シアター

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 10国立劇場1月/旭輝黄金鯱... | トップ | 女の園 »

コメントを投稿

邦画」カテゴリの最新記事