ここ数日、佐佐木信綱の歌集から鶯の歌を探しています。
24首ありましたが、その中で好きなのはこの御歌です。
・多摩川の水あたたかき朝東風(ごち)に若いうぐひす岩づたひすも 『新月』
『新月』は信綱40歳のときの歌集、
若いうぐいすに新進気鋭の姿が重なります。
晩年の歌を集めた『老松』には子が吹く鶯笛の歌が3首あります。
そして最後の鶯の歌は自らが吹く鶯笛なのです。
・老い心幼きにかへり窓によりて取(と)うで吹き鳴(な)らす鶯笛を
この時、信綱先生は膝を病み、
家内を歩くこともかなわぬ日々をお過ごしで、
その中で詠われたことを思いますと、鶯笛の音は胸に迫ります。
先生には庭に窓辺に訪れる小鳥との交感の歌が多く、
また旅先でも小鳥の声を聞き分けていらっしゃいますが、
ついに自ら鳥となられたのでしょうか。
「歌壇」2月号「編集室拝見」で
わが結社の編集部のメンバーが紹介されました。
K岩さんの発案で、先生のお宅にかかる「竹柏園」の額を前面にして
お庭で写真が撮られたのですが、この額、
信綱先生が富岡鉄斎に求めて書いていただいたもの。
その御歌を発見しました。
・仰ぎ見つつ折々に吾をむちうちぬ雄渾なる文字の「竹柏園」の額 『老松』
学者として信綱先生が研究に没頭されていた様子がうかがえます。
これは信綱、治綱両先生が使われた文机です。
漆塗りで、もとはよいものらしいですが、
今はぼろぼろで割れた脚を紐でくくってあったりします。
校正の机として使わせていただいているのですが、
でこぼこで使いづらいし、どなたかがつけられた
修正インクの白がついていたりして、
信綱先生の机と知るまではあまりうれしくなかったのです。
この文机をどれほど先生が愛されたことでしょう!
やはり『老松』にこの机の歌があります。
・わが机によらず書斎の一隅に仰臥すすでに四十余日を
・足(あ)なやみに歩みは得ざれ終日(ひねもす)を文机にむかふ幸人(さちびと)といはむ
・文机に向ふよろこび嬉しもよ清くしづけきこの朝心
先生の背負う重さを支え続けた机。
先生の夢の世界を広げた机。
あまりに有名なこの御歌もこの机で作られたのですね。
・花さきみのらむは知らずいつくしみ猶もちいつく夢の木実(このみ)を
こんな色彩に優れた艶の歌もあります。
・柿落葉はつかにのこる紅ゐの色うつくしみ文机におく
朱の机にまだ鮮やかな紅の残る柿の葉、
きっと机上には書物が何冊か積んであり、
一冊は読みさしであったに違いありません。
聴覚、視覚にすぐれた方でもあったのだと思います。
『佐佐木信綱全歌集』2004 ながらみ書房
24首ありましたが、その中で好きなのはこの御歌です。
・多摩川の水あたたかき朝東風(ごち)に若いうぐひす岩づたひすも 『新月』
『新月』は信綱40歳のときの歌集、
若いうぐいすに新進気鋭の姿が重なります。
晩年の歌を集めた『老松』には子が吹く鶯笛の歌が3首あります。
そして最後の鶯の歌は自らが吹く鶯笛なのです。
・老い心幼きにかへり窓によりて取(と)うで吹き鳴(な)らす鶯笛を
この時、信綱先生は膝を病み、
家内を歩くこともかなわぬ日々をお過ごしで、
その中で詠われたことを思いますと、鶯笛の音は胸に迫ります。
先生には庭に窓辺に訪れる小鳥との交感の歌が多く、
また旅先でも小鳥の声を聞き分けていらっしゃいますが、
ついに自ら鳥となられたのでしょうか。
「歌壇」2月号「編集室拝見」で
わが結社の編集部のメンバーが紹介されました。
K岩さんの発案で、先生のお宅にかかる「竹柏園」の額を前面にして
お庭で写真が撮られたのですが、この額、
信綱先生が富岡鉄斎に求めて書いていただいたもの。
その御歌を発見しました。
・仰ぎ見つつ折々に吾をむちうちぬ雄渾なる文字の「竹柏園」の額 『老松』
学者として信綱先生が研究に没頭されていた様子がうかがえます。
これは信綱、治綱両先生が使われた文机です。
漆塗りで、もとはよいものらしいですが、
今はぼろぼろで割れた脚を紐でくくってあったりします。
校正の机として使わせていただいているのですが、
でこぼこで使いづらいし、どなたかがつけられた
修正インクの白がついていたりして、
信綱先生の机と知るまではあまりうれしくなかったのです。
この文机をどれほど先生が愛されたことでしょう!
やはり『老松』にこの机の歌があります。
・わが机によらず書斎の一隅に仰臥すすでに四十余日を
・足(あ)なやみに歩みは得ざれ終日(ひねもす)を文机にむかふ幸人(さちびと)といはむ
・文机に向ふよろこび嬉しもよ清くしづけきこの朝心
先生の背負う重さを支え続けた机。
先生の夢の世界を広げた机。
あまりに有名なこの御歌もこの机で作られたのですね。
・花さきみのらむは知らずいつくしみ猶もちいつく夢の木実(このみ)を
こんな色彩に優れた艶の歌もあります。
・柿落葉はつかにのこる紅ゐの色うつくしみ文机におく
朱の机にまだ鮮やかな紅の残る柿の葉、
きっと机上には書物が何冊か積んであり、
一冊は読みさしであったに違いありません。
聴覚、視覚にすぐれた方でもあったのだと思います。
『佐佐木信綱全歌集』2004 ながらみ書房