あまりに気怠すぎて読む気にならなかった。
ジョージ秋山といえば「銭ゲバ」「アシュラ」「デロリーマン」と子供たちの心を深くえぐるような漫画を描いてきたことで知られていた。そのエグイ内容は、あたかも血に塗られた鈍刃のような恐ろしさを伴っていた。よくぞ少年誌に連載されていたと、今さらながら呆れてしまう。
しかし、人気を博した表題の漫画は、あのジョージ秋山が描いたとは思えないほど長閑な作風であった。はっきり言えば、裏切られたかのような読後感であった。だから私はよほど暇でない限り、読むことはなかった。
ところが不思議なことにこの漫画、中高年に当時大人気であった。あの頃、なんであんなつまらない漫画が人気なのか、さっぱり分からなかった。だが、自分が中高年になってみて気が付いた。
癒しが欲しかったんだと。
70年安保闘争は失敗し、学園紛争は尻切れトンボに終わり、社会党が政権をとることも絶望的となったあの時代。若き青春の血のたぎりを、デモと論争に投じながら、遂に実らず、夢は頓挫したあの時代。
ロングヘアーの髪をばっさり切って、就職活動に勤しみ、かつて蔑んだ体制側に安住する平凡な社会人である自分を自覚した時、何事にも達観しつつ、自分を失わない主人公に、ある種の理想を感じたのではないか。
決め台詞「おねえちゃん、あきちと遊ばない」と軽薄に振る舞う一方、居合抜きの達人でありながら決して荒ぶることをせず、飄々と激動の時代を流れるように生きている主人公の姿に、青春の挫折を癒せずにいた大人たちは憧れを抱いたのではないか。
自分が中高年になってみて、初めてこの漫画が当時の大人たちに人気であった原因に気が付いた。もっとも私自身は、この年になっても特段この漫画に魅力を感じることはないが、1970年代から長期連載が続いていることには敬意を表さざるを得ない。
若い頃は、この漫画に苛立ちさえ感じたが、今は落ち着いて読めたことを思うと私も大人になったもんだと思う。あんまり嬉しくもないのですがね。