既に故人だが、自動車評論家として著名な徳大寺有恒氏が、ディーゼルエンジンの環境対応の厳しさを語っていたのは1990年代半ばだった。
その時の話では、ダイムラー、プジョー、トヨタなど世界の主要メーカーが当時取り組んでいた、ディーゼルエンジンのPM粒子の排出について、いずれのメーカーも成功していない事実を語り、氏自身も悲観的に予想していた。
これは、当時大気汚染に悩むアメリカはカルフォルニア州でのディーゼルエンジン規制を念頭に置いたもので、あまりに厳しすぎる基準に、どのメーカーも悲鳴を上げていた。
しかし、その後ダイムラーやBMW、マツダなどが環境対応に適合したディーゼルエンジンの開発、実用化に成功したことで、主にヨーロッパにおいて、半数近くの車がディーゼルエンジンを搭載するに至っている。
徳大寺氏の心配は杞憂に終わったのだと、私は思っていた。私自身、ダイムラーのディーゼルエンジン搭載車や、BMWのディーゼル・ハイブリット車、マツダのスカイアクティブ搭載のディーゼル車に試乗してみて、その性能の良さに驚き、再三購入を検討したものだ。
購入に至らなかったのは、我が家の庭の狭さと、値段の問題であった。大型車は庭に入りきらないし、ディーゼルエンジン搭載車は、ガソリンエンジン搭載車に比べて値段が若干高めになるからだ。
ただ、関心はもっていた。21世紀中には石油は枯渇問題が顕在化するはずだし、汎用性の高いディーゼルエンジンに将来性を感じていたからである。そこに降ってわいたように飛び込んできたのが、フォルクスワーゲン社における違法ソフトによる規制逃れであった。
これは現場に一存で出来ることではなく、会社全体、特に上層部の主導なくして出来ることではない。その意味で、極めて悪質な工作だと云える。窒素粒子化合物の排出に対する技術的解決は済んでいるはずである。では、いったい何故、このような所業に及んだのか。
おそらくは燃費の問題だと思う。
メルセデスなどの大型車とでは、燃費を気にするユーザーは少ないと思うが、ゴルフのような小型車では、燃費は車の選択における重要な要素だ。ディーゼルエンジンにおいては、排出される窒素のPM粒子を減らすことと、燃費は相反する性格となる。
ライバルであるプジョーやルノー・日産、トヨタ、ホンダなどは、この燃費競争においては、VWと常に競い合う関係にある。燃費の良さが売りのディーゼルエンジン搭載車において、悪い燃費は販売上きわめて不利なポイントとなる。
もう一つ、コストの問題もある。費用さえかければ、ある程度、燃費と環境対応の両立も出来たであろう。ただ、小型車ではコストの問題は難しい。ライバル企業の小型車との価格競争に、著しく不利となることも容易に分かる。
だからこそ、今回の不正ソフトで切り抜けようとしたのだろう。
非常に残念でならない。これは断言してもいいが、小型車においてVWのゴルフという車は、きわめて優秀であり、私は小型車NO1だと考えている。走る、止まるといった基本性能は高く、遮音性、快適性においても頭一つ抜けている小型車だと、高く評価している。
ただ、国産車よりも高く、その値段差を考えて購入を断念したが、今でも小型車では一番だと思っている。それだけに、今回の不正事件は残念でならない。この事件によるブランド失墜は、かなり長く続くと思われる。
小型車の規範といってよりゴルフの価値が、このような事件で落ちてしまう。改めて断言しますが、ガソリンエンジンのゴルフは、今でも小型車では最高の車です。値段が少し高いのが難点ですがね。
VWの経営陣には痛切に反省を促したいものです。