子供の頃、私のひそかな楽しみは砂糖を舐めることであった。
特に角砂糖がお気に入りであったが、これは数が限られるので、母にすぐにばれてしまう。致し方なく、私はガラス瓶に入れられた白砂糖をスプーンで取り出して舐めていた。別に当時、甘いものを禁じられていた訳ではないが、砂糖を舐める悦楽は、禁じられた快楽に近いものがあり、悪いと思いつつも止められなかった。
砂糖に魅力を感じるのは、なにも私だけではないはずだ。特に成長期の子供にとって、甘い砂糖は堪え切れぬ魅力がある。もっとも、不思議なことに、成長するに従い、砂糖を舐めるといった禁断の悦楽からは遠ざかるようになった。基本、甘党である私だが、その頃になると甘すぎない甘さに惹かれるようになっていたからだと思う。
この砂糖は、古今東西問わずして人類を魅惑してきた。だが当初は稀少な医薬品として扱われていた。それが変ったのが、西欧の世界侵略であり、とりわけカリブ海から南米にかけてサトウキビの大規模プランテーションが運用されてからだ。
大量に生産された精製された砂糖がヨーロッパに運び込まれ、紅茶やコーヒーに不可欠なものとして認識された。だが海を越えて運ばれてくる砂糖はタダではない。ここに砂糖と黒人奴隷と綿布との三角貿易が確立された
甘くて白い砂糖だが、その背後には黒人奴隷の血と涙があふれていることは、歴史上の事実として覚えておきたいものだ。同時に、砂糖にはグローバル商品の先駆けとしての性格も有する。
驚くべきことに、今も砂糖はグローバル商品であり、世界経済に大きな影響を与えている。ただし、かつては熱帯でしか育たぬサトウキビだけが、砂糖の原料であったが、現在は寒冷な温帯でも育つ甜菜(ビーツ)がある為、以前ほどの圧倒的ではない。
砂糖の歴史を追うことは、欧州やイスラム国家の奴隷貿易を知ることであり、人間の特異な味覚を知ることでもある。人間がどれほどこの砂糖という甘味料に魅されてきたのかを知ると、少し怖くなるほどだ。
やっぱり人間って、欲望に従って発展してきたのだと痛感しますね。
魔法の白い粉ですね。
これを入れると料理はおいしくなり、常習性があるので入れすぎ注意と自分を戒めてます。
摂りすぎると生活習慣病にもつながるので、ある意味危ない白い粉並みです(笑)
著者はkinkachoが大学時代の先生です。
砂糖、滅多に使わないけど、使わないと美味しくないレシピがけっこう多いのが悩ましいですね。