気障な科白は、誰にでも口に出来るものではない。
試してみたのだから間違いない。大学生の頃だが、当時付き合っていた彼女に向かって、歯が浮くような気障な科白を口にしたことがある。
彼女、下を向いて震えている・・・
あァ、やっちまった。似合わない、似合わなさ過ぎる科白だった、ゴメン。そう言うと、涙目で笑いをこらえていた彼女が「ちょっと待ってて」と苦しげに言うと、深呼吸している。
そこまで酷かったのか。けっこう落ち込んだゾ。以来、その手の科白が私の口から出ることはなくなった。
うん、本当は分っていたんだ。気障な科白が似合わないってことには。でも、一度くらい試してみたかっただけなんだ。
気障な科白を平然と口にして、それが絵になる男といえば、表題の作品の主人公であるフィリップ・マーロウにおいてほかは在るまい。
表題の作品でも、けっこう気障な科白を口にしているが、悔しいことに実に似合う。男として色気のある奴だと思うな、マーロウは。
相変わらず女性にもてるが、マーロウの真価は男同士の友情だと思う。ホモという意味ではない。あくまで大人の男と大人の男同士の関係を、ベタベタせずに、それでいて心の深みにじんわりと入ってくるところこそが真価だ。
これが出来る男は、そう多くない。私の人生でも、これに近い才覚を持ち合わせた奴は稀だ。そんな奴は、ある意味男として強烈なライバルでもあるが、縁を切りたくない奴でもある。
残念ながら、私には極めて乏しい才覚だとも分っている。真似しようと思っても、まず無理だろう。だから、小説で楽しむに限る。自分にはない才覚だからこそ、憧れるのだろうと思う。
チャンドラーは寡作な作家だが、私はこれが一番好きなのです。バカで一途で愚かな男たちを、決してバカにすることがないマーロウは、やはりイイ男だと認めざる得ないのです。
私も「やっちまった…」があります。
で、その使った相手が今の妻だったりすると最悪です。
いまなお、ここぞの時にうちのめされる凶器となってます…。
ヌマンタさんのハードボイルドなセリフが知りたいです!(笑)
「君の瞳に乾杯・・」とか?これは、ボギーか。
チャンドラーは村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」を買ったまままだ未読なのです。ヌマンタさんの記事で早く読みたくなりました!
「さらば愛しき人よ」はけっこう前に記事にしたのでTBさせていただきました!!(^^)!
ハードボイルドを読まない人間でもこの作品は読んでますよね。余りに有名な名作です。
かっこ良すぎて、生身の人間に目の前でやられてしまうと、すみません、鳥肌立っちゃいます。
昔、東映のヤクザ映画をみた観客が、肩を怒らせて、健さん気取りで映画館を出てきたのも、似たようなものでしょう。ハードバイルド恐るべしです。
村上春樹版の「長き別れ」は私も未読です。フィッツジュラルドと同様に、柔らかく繊細に訳しているだろうと思うので、機会があったら読んでみたいですね。