ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

さらば愛しき人よ レイモンド・チャンドラー

2011-07-04 12:07:00 | 

気障な科白は、誰にでも口に出来るものではない。

試してみたのだから間違いない。大学生の頃だが、当時付き合っていた彼女に向かって、歯が浮くような気障な科白を口にしたことがある。

彼女、下を向いて震えている・・・

あァ、やっちまった。似合わない、似合わなさ過ぎる科白だった、ゴメン。そう言うと、涙目で笑いをこらえていた彼女が「ちょっと待ってて」と苦しげに言うと、深呼吸している。

そこまで酷かったのか。けっこう落ち込んだゾ。以来、その手の科白が私の口から出ることはなくなった。

うん、本当は分っていたんだ。気障な科白が似合わないってことには。でも、一度くらい試してみたかっただけなんだ。

気障な科白を平然と口にして、それが絵になる男といえば、表題の作品の主人公であるフィリップ・マーロウにおいてほかは在るまい。

表題の作品でも、けっこう気障な科白を口にしているが、悔しいことに実に似合う。男として色気のある奴だと思うな、マーロウは。

相変わらず女性にもてるが、マーロウの真価は男同士の友情だと思う。ホモという意味ではない。あくまで大人の男と大人の男同士の関係を、ベタベタせずに、それでいて心の深みにじんわりと入ってくるところこそが真価だ。

これが出来る男は、そう多くない。私の人生でも、これに近い才覚を持ち合わせた奴は稀だ。そんな奴は、ある意味男として強烈なライバルでもあるが、縁を切りたくない奴でもある。

残念ながら、私には極めて乏しい才覚だとも分っている。真似しようと思っても、まず無理だろう。だから、小説で楽しむに限る。自分にはない才覚だからこそ、憧れるのだろうと思う。

チャンドラーは寡作な作家だが、私はこれが一番好きなのです。バカで一途で愚かな男たちを、決してバカにすることがないマーロウは、やはりイイ男だと認めざる得ないのです。


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6 コメント

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Unknown (タク)
2011-07-04 18:41:53
ハードボイルドにはまると使ってみたくなるんですよねえ。その手のセリフ。
私も「やっちまった…」があります。
で、その使った相手が今の妻だったりすると最悪です。
いまなお、ここぞの時にうちのめされる凶器となってます…。
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Unknown (ごみつ)
2011-07-05 01:12:26
今晩は!

ヌマンタさんのハードボイルドなセリフが知りたいです!(笑)

「君の瞳に乾杯・・」とか?これは、ボギーか。

チャンドラーは村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」を買ったまままだ未読なのです。ヌマンタさんの記事で早く読みたくなりました!

「さらば愛しき人よ」はけっこう前に記事にしたのでTBさせていただきました!!(^^)!
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Unknown (kinkacho)
2011-07-05 09:06:25
ヌマンタさん、こんにちは。
ハードボイルドを読まない人間でもこの作品は読んでますよね。余りに有名な名作です。
かっこ良すぎて、生身の人間に目の前でやられてしまうと、すみません、鳥肌立っちゃいます。
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Unknown (ヌマンタ)
2011-07-05 13:21:16
タクさん、こんにちは。それはまた大変な凶器ですね。ダメージ、きついです。
昔、東映のヤクザ映画をみた観客が、肩を怒らせて、健さん気取りで映画館を出てきたのも、似たようなものでしょう。ハードバイルド恐るべしです。
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Unknown (ヌマンタ)
2011-07-05 13:24:07
ごみつさん、こんにちは。いやいや、その台詞は勘弁です。もう二度と口にしたくないですね。
村上春樹版の「長き別れ」は私も未読です。フィッツジュラルドと同様に、柔らかく繊細に訳しているだろうと思うので、機会があったら読んでみたいですね。
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Unknown (ヌマンタ)
2011-07-05 13:25:56
kinkachoさん、こんにちは。ミステリーであることは間違いないのですが、ハードボイルドというより抒情的な香りが強い作品だと思います。だからこそ、本国アメリカでも文学作品としての評価が高いのだろうと想像しています。
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