
「霧景初の沢」 Photo by Ume氏
もう、雪景色はいいと思っていたが、さすがに昨日の花に降った霙に近い雪だけは特別で、偶々通りすがりに見付けた情景だったが、思わず車を停めた。
「年寄りの達者、春の雪」の通り、季節外れの雪はすぐに融けてしまうだろうが、ただ上はそうはいかない。仕事開始めまでに10日を切ったが、今回の雪で恐らく、一昨日に行った時よりもさらに積雪量は増えたはずだ。もしも焼合わせで車を捨て歩くことになれば、そこからは、片道5キロの雪道を登る覚悟をしなければならない。「年寄りの達者」もだが、歩いて通う日も、いつまで続くのか分からない。
実は一昨日、車を停めた場所から歩き始め、ド日陰を過ぎても、いつも山の中で味わう高揚感のようなものが湧いてこなかった。なぜだろうかと、そのもの足りなさを考えてみてやがて納得した。歩いていたその時間だった。恐らく昼近くになっていて、木々の間から射し込む朝の新鮮で清々しい日の光がなかったのだ。張りつめた清澄な朝の光と、弛緩した昼の光の中とでは、舞台の雰囲気が全く違ってくる。輝かしい晴天と、それの失せた曇天以上の差がある。
というか、朝そのものに、何かが始まる期待感がある。それを、朝日や残雪、ようやく新しい季節を迎えた森の息遣いが、さらに高めてくれる。そういうものが、その時はなかったのだ。
もうさんざん呟いてきたが、一人であることは程よい孤独感もある。残雪のせいで周囲はまだ閉ざされている。きょうのUme氏の写真のような場所へ、時間をかけて入っていく。これからの7か月、あっという間に過ぎた冬ごもりの日々、夢幻のように過ぎていった牧場での12年、あれこれ考えるには舞台も距離もその時間も、達者な年寄りにはちょうど合っているだろう。合掌
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