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昨夜から降り続いていた雨が止んだ。目の前には渋い秋が広がり、就中権兵衛山の落葉松の黄葉がまた一段と進んだのが分かる。
全体の色調はまず下から牧草の緑、そして中段に雑木の林の黄色に赤が少し混ざり、点在するモミの緑はきょうはあまり目立たないまま曇天の空へと続いている。
囲いの牧草は雨に濡れてまだ鮮やかな緑の色を残しているが、その中にきょうも鹿の姿はない。罠を仕掛けてからすでに9日が過ぎているというのに、いくら誘引してもこれではもう、賢くなった鹿の捕獲は難しいかもしれない。
外へ出たら、雨は一時止んだだけでまた降っていた。初の沢の大曲まで行けば、それまでの黄色が主体であった色調にも赤い色が目立つようになる。特に南面の斜面にはモミジやカエデの大きな木が幾本もあって、ここらあたりの赤や朱の色を目にしてやっと、そこまで出かけけていった理由、目的が自分の中ではっきりとしてきた。
大曲を回ったところで、藪の端に雨に濡れた鹿の尻が見えた。すぐ近くだ。車の接近に気付かないまま草を食べていたようで、さらに近付いてみると大きな雄鹿だった。
敵もようやくこちらに気が付き、やっと流れの方へと逃げていこうとした。しかしその動きに素早さはなく、10メートルもしないうちに立ち止まり、こちらへ振り向いた。
立派な角が目を引く。それも4尖ではなく滅多にしか目にしない5尖のような気がした。1本の角が枝分かれしたその先の数をこのように呼ぶ。
車を戻し、再度確認しようとしたら鹿は対岸へ渡り、さらに下流へと下り、姿を消した。
もしも数え間違いでなく5尖だったとすれば、相当の年寄だったことは間違いがなく、ならば車の接近にも気付かず、この時季に1頭で仲間もおらず、どことなく動きが鈍かったのも納得がいく。
雨に濡れ老いた身のその孤独な姿が、日頃の鹿に対する敵愾心よりかも不憫さを誘い、やがて来る長く酷しい冬に耐えられるのかと案じさえした。
いやいや、わが身を重ねてというわけではござらん。野拙はまだあそこまでは老いておらず、足腰も達者、清貧独居禁欲の日々に格別の苦も無く過ごせている果報者、あの老躯を引きずる鹿などと一緒にされては、迷惑千万でござる。
きょうは小屋に台湾から予約者が1名、到着はいつになるのやら。それにつけても善男善女の皆さま方、深まりゆく秋を求めてなにとぞお出かけくださるやうお待ち申されてこそ候へ。
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本日はこの辺で。