午前6時、気温9度晴れ、珍しいことに今朝は東の空に幾つかの棚引く雲が朝焼けした状態で見えている。一度だけ遠くで鹿の鳴く声がした他は辺りに一切の音がしない。以前なら聞こえていた電気牧柵のカチッ、カチッと聞こえる断続音も、冬支度を済ませた今はしなくなって大分経つ。
寝坊をしていたのか、ようやく小鳥の声が聞こえてきたと思ったら、それも長続きせずにすぐまた元の静寂が帰ってきた。いや、もっと正確に言うなら、耳の中はシーンとした音で埋まっているのだから、無音ではない。
しめやかな林の中を少しだけ歩く。昨夜の雨のせいだろう、落ち葉も草も、林の中全体が濡れたままでいて、そんな中、頭上の真っ青な空に朝日が昇ってきたようだ。
樹々の枝の間から何本もの細い朝の光が射しこんでくると、林の中の表情が変わる。すでにコナシの葉は大方散ってしまっていて、遠くからだと細い無数の枝がワイン色に見えるようになる。シラカバの木も上部のわずかな部分に葉を残すだけで、白い樹幹が一段と目立つようになってきた。
囲いの中の牧草はまだ鮮やかな緑の色を残していても、ここを去るころにはやがては枯れて黄色く変色していくだろう。その中に、今朝も鹿の姿はない。
ここへ来る人の中には落葉松の木さえ知らない人がいる。もちろん、ミズナラもダケカンバも知らない。それでいて紅葉には関心があるようだ。
そんなことを言いながら、自分のことを振り返れば、やはりこれだけ長く山の中で暮らしていても、今鳴いている歌手、鳥の名を知らない。
モミとシラビソの区別もできず一緒くたにしている。クヌギがどんぐりの実のなる木だというぐらいは知っていても、クリの木との違いには自信がない。
知らないことがたくさんありながら、新しいことを覚えるよりか忘れていくことの方が多いだろう。
雨に濡れて朝日に光るクモの糸が思いのほかあちこちに張り巡らされているのに初めて気づいた。ただし、罠をかけた主はいないようだ。獲物も見えない。
上手い照明屋さんよりもっと上手に朝日が落葉松、白樺、そしてほぼ裸のコナシの枝を輝かせ、背後の雑木林から浮き上がらせて見せてくれている。
少し雲がでてきたようだが、きょうも気持ちのいい秋日和が続くだろう。
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本日はこの辺で。