久しぶりにテイ沢、そしてついでに小黒川林道まで足を伸ばした。20年ほど前の秋、今ごろ、この林道をTDS君と一緒に訪ねなかったら、こうして入笠牧場の牧守になどになることはなかっただろう。もうすぐこの谷は黄金の谷に変わる。
もう少し、法華道に関連したことを呟いてみたい。
御所平峠を芝平へ向けて少し下ると、この古道・法華道に合流するように上ってくる1本の山径がある。種平小屋の夫婦が開いて整備を続けていた径で、下れば「カンバの岩場」を通り、種平小屋を経由して赤坂口に達する。
残念なことに、種平小屋は主が体調を崩して2年ほど前に営業を続けることを断念した。しかし、夫婦二人で作った道標や標識布が各所に残っていて、彼らの努力、苦労の跡が今も偲ばれる。
最近は標識布と言っても大概がビニールテープで、林業関係者も同じことをするから判別するのが難しくなっている。しかし、この人らの標識布は文字通り布である。それにも彼らの配慮とか誠意を感じる。
牧場に立ち寄る時はいつも刈払機やチェーンソーなど作業のための道具を携えていた。何の縁もない土地へ来て山小屋を始め、さらに二人は人知れず入笠山周辺の整備をずっと続けてきた。今そんな日々のことを、あの二人はどんなふうに振り返るのかと、ふと、考えたりする。
実はまだ全行程を歩いたことがない。先日は途中の「カンバの岩場」まで行ってみようとしたが、径が急に勾配を強めた所で引き返してきた。いずれ日を改めて下ってみようと思っているが、歩く人も絶えれば彼らの善意であるこの径は早晩なくなってしまうかも知れない。
これはこの山径だけのことではない。法華道だってそうだ。将来のことは後に続く人たちに託すしかないが、安易な観光政策などによって、ここの自然を、環境を、駄目にしないようにと、そのことを切に願っている。
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