噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

書評『メディア・バイアス』(光文社新書)・・要らぬ心配を取り除く好著

2007-10-11 18:25:23 | Weblog
 この食品には発ガン性のある農薬が含まれていないか、あるいは有害な食品添加物が含まれていないか、などという心配を全くしない人は少数ではないだろうか。

 週間金曜日発行の「買ってはいけない」は累計225万部も売れ、「心配や恐怖」を広く撒き散らすことに大いに貢献した本の代表であるが、本書は逆に「心配や恐怖」の根拠のなさを分かりやすく解き明かした本である。「心配や恐怖」の元となった間違った説明を検証すると共に、なぜメディアが間違った説に加担するのかを説く。是非お薦めしたい一冊である。

 題名の『メディア・バイアス』とは文字通りメディアによる偏向のことだが、その結果報道と事実との間に深刻な差が生じる。本書は様々な具体例を示し、報道と事実の隔たりを説明し、その弊害を明らかにする。著者の松永和紀氏は農芸化学を専攻し、毎日新聞の記者を10年勤めた経験を持つ。扱われる問題はサプリメント、フードファディズム、環境、食品添加物、オーガニック食品、遺伝子組み換え食品などだ。

 「心配や恐怖」が広まる理由として、メディアのセンセーショナリズムと共にそれに加担する一部の信用できない科学者の存在、及びその科学者の信頼度を正しく評価できないメディアと市民団体の評価能力の低さを指摘している。全く同感だ。

 本書で紹介された事例を一部紹介する。
まず「みのもんた症候群」。これは「午後は○○おもいッきりテレビ」で採り上げられた食品を食べ過ぎて体の不調を訴える人を指すという。開業医の間で言われているそうだが、実害を生じている例である。

 もうひとつ例、06年5月6日、TBSの「ぴーかんバディ!」の白いんげん豆ダイエットは翌日650人の中毒患者を発生させた。死者はなかったものの救急車のなかで吐き続け、便まみれになった人もあるという。

 この事件を起こしたTBSに対しては、総務大臣より文書による警告のみとなっている。中毒者を出していないにもかかわらず、期限を僅かに過ぎた原料を使用しただけでマスコミの集中バッシングを受け、経営危機に陥った不二家のケースを思うと釈然としないものがある。

 本書は、でたらめな情報を選別するのに役立つし、メディアリテラシーを身につける意味でも有用である。高校の教科にも取り入れたいと思うほどだ。世界でトップクラスの平均寿命を実現した日本の食品・医療行政よりも怪しげな本の方を信用する方々には是非とも読んでいただきたい。

 しかし残念なことに、本書は07年4月20日に初版、9月10日でまだ3刷である。ちなみに養老孟司著「バカの壁」はほぼ同じ期間に35刷である。

 余談になるが、「バカの壁」は間違いが多く、内容も空疎であり、益より害の方が多い(正論04/5月号掲載の拙論「『バカの壁』を読めばバカになる」参照)。
 それが朝日、毎日、読売に絶賛された(以来、新聞の書評は信用しなくなった)こともあって400万部以上売れた。それに対して本書のような有益な本がたいして売れないというのはなんともやりきれない。まさに悪書は良書を駆逐する、である(グレシャムの「悪貨は良貨を駆逐する」からの冗談です)。