本書の前半分は題名どおり、アルツハイマー病に関して書かれている。しかし一般の読者にとって、本書の価値の多くは後半部にある。健康に対するリスクを経済問題として扱う第4章、リスク情報とメディアとの関係を論じた第5章はとても興味深い視点を含む。前回紹介した『メディア・バイアス』と共に一読されることをお薦めしたい。
後半部で著者はまずBSE問題を取り上げる。
「BSE問題でまず死亡したのは女性の獣医だった。(中略)感染牛の発生を見逃した責任をとっての自殺だと見られる」「BSEの発生以降、全国で焼肉店が2000店もつぶれた。経営者の家族や従業員は路頭に迷ったに違いない」と述べる。
日本人がBSEに感染するリスクは試算によって、1億人に1人から今後1000年間で1人まで差がある。政府の食品安全委員会で示された試算では10億人に1人だが、これは危険部位の除去などの対策を何もとらない場合の数字だという。
1億分の1以下のリスクに3300億円を投じている、3300億円あればいったい何人の命を救うことができるのかと考えてしまう、と著者は述べている。まったく同感である。また米国産牛肉の輸入停止で、民間分野では既に6000億円の損失が出ているという。またダイオキシン問題では数千億円の税金が投入されたが、その妥当性にも私は疑問をもっている。
これらは著者の言う「不安沈静対策費用」なのである。この「不安」は主としてメディアによって作られ、増幅された、ほぼ根拠のないものだ。次の章ではメディア側の事情が説明される。著者の小島正美氏は現役の毎日新聞の編集委員であり、説得力がある。
メディアが不安情報を撒き散らすメカニズムについては様々な要因が示される。妥当なものが多いが、そのひとつとして記者の勉強不足を指摘し、これを防ぐために行政や企業、専門家が記者を集めてセミナーを開くのがよいと提案されている。
私はこれだけでは不足だと思う。より深く現在の社会を理解するためには科学の基礎知識が不可欠であり、理系の学力を備えた記者を育てる必要を感じる。取材で得た一次情報を理解もせずして選択・加工し、報道することは読者に対して大変無責任な行為である。
BSEだけでなく、食品の安全、原子力発電、環境問題など、理解に科学的な知見を必要とする分野は多く、また重要でもある。このような問題を理解できないメディアが情報伝達の中枢を握っている現状は危険である。つねに不安を増幅する方向性をもつため、それに呼応する市民団体などを刺激し、社会の不安定化にもつながる。また、なによりも間違った世論形成を通じて、社会をミスリードする危険性を指摘したい。
後半部で著者はまずBSE問題を取り上げる。
「BSE問題でまず死亡したのは女性の獣医だった。(中略)感染牛の発生を見逃した責任をとっての自殺だと見られる」「BSEの発生以降、全国で焼肉店が2000店もつぶれた。経営者の家族や従業員は路頭に迷ったに違いない」と述べる。
日本人がBSEに感染するリスクは試算によって、1億人に1人から今後1000年間で1人まで差がある。政府の食品安全委員会で示された試算では10億人に1人だが、これは危険部位の除去などの対策を何もとらない場合の数字だという。
1億分の1以下のリスクに3300億円を投じている、3300億円あればいったい何人の命を救うことができるのかと考えてしまう、と著者は述べている。まったく同感である。また米国産牛肉の輸入停止で、民間分野では既に6000億円の損失が出ているという。またダイオキシン問題では数千億円の税金が投入されたが、その妥当性にも私は疑問をもっている。
これらは著者の言う「不安沈静対策費用」なのである。この「不安」は主としてメディアによって作られ、増幅された、ほぼ根拠のないものだ。次の章ではメディア側の事情が説明される。著者の小島正美氏は現役の毎日新聞の編集委員であり、説得力がある。
メディアが不安情報を撒き散らすメカニズムについては様々な要因が示される。妥当なものが多いが、そのひとつとして記者の勉強不足を指摘し、これを防ぐために行政や企業、専門家が記者を集めてセミナーを開くのがよいと提案されている。
私はこれだけでは不足だと思う。より深く現在の社会を理解するためには科学の基礎知識が不可欠であり、理系の学力を備えた記者を育てる必要を感じる。取材で得た一次情報を理解もせずして選択・加工し、報道することは読者に対して大変無責任な行為である。
BSEだけでなく、食品の安全、原子力発電、環境問題など、理解に科学的な知見を必要とする分野は多く、また重要でもある。このような問題を理解できないメディアが情報伝達の中枢を握っている現状は危険である。つねに不安を増幅する方向性をもつため、それに呼応する市民団体などを刺激し、社会の不安定化にもつながる。また、なによりも間違った世論形成を通じて、社会をミスリードする危険性を指摘したい。