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βカロチンの危険性は知らないが、赤福や吉兆の偽装はみんな知っている…日本国の奇怪

2008-02-04 16:29:20 | Weblog
 βカロチンは喫煙者の肺がん発生を抑制するというふれこみで登場した。しかし、その後の大規模な疫学研究によって、βカロチンをサプリメントで飲み続けると逆に肺ガン発生率が高くなるという信頼できる研究結果が相次ぎ、その見解は既に定着しているようである。

 2月3日の日本経済新聞の「健康情報を読み解く」では、このβカロチンが有害という事実がどれだけの人に知られているかということを問題にしている。筆者である坪野氏が講演会の会場で、知っているか否かを聴衆に挙手で示してもらった結果である。

 それによると手を挙げるのはたいてい聴衆の1割未満、一般市民の場合も栄養士などの専門職の場合も変わらないという。私は数年前から日経の同様の欄などで何度か目にしているが、1割未満とは意外なほどの低率である。

 ついでに同記事に載った研究結果の主要部分を紹介する。94年のフィンランドの喫煙者3万人を対象とする研究では最長8年間の投与で肺ガン発生率は18%増加、96年の米国の喫煙者など2万人対象の研究では4年間の投与で28%の増加となっている。さらに質の高い臨床試験12件をまとめた07年の論文ではβカロチンのサプリメントによって喫煙者に限らず、総死亡率が7%増加した。

 最悪なのは当初広まったβカロチン有益説だけを信じたままの人の存在である。死の危険を高めるβカロチンのサプリメントを、せっせと金を出して買い続けている人がいる可能性がある。

 βカロチンは肺ガン予防という期待が大きかっただけに、大規模な研究が実施されたのだが、その結果は薬と思ったものが毒であったというわけで大きい衝撃をもたらした。

 現在様々なサプリメントが販売されている。数年前から所得番付の上位に健康食品会社の経営者が目立っており、販売量も無視できるものではない。統計的に意味のある対象者数と数年間以上の時間をかけた研究を経て、有害性、有益性を確認しているものがどれだけあるだろうか。

 βカロチンのサプリメントの危険性を知っている者が1割未満だという事実をマスメディアは重く受け止めてほしい。賞味期限や産地の偽装で命を落とす人はまずいないが、このサプリメントで死亡する人は統計上いる筈である。どうやら死亡であっても「劇的な死」でなければ報道の価値は低いようだが、広く知らせることができるのはマスメディアしかないのである。(参考:これで報道の使命を果たされていますか)