噛みつき評論 ブログ版

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ガソリン代月22万円の一家、暫定税率復活で大変と朝日が大真面目に紹介

2008-05-08 11:35:45 | Weblog
 5月2日の朝日新聞17面に「ガソリン税 地方の嘆息」と題する記事が大きく掲載されています。小見出しには「一家に6台 月4万円の乱高下」「燃料費、月22万円」とあります。記事は、はじめに月22万円のガソリンを消費する富山の一家族を取り上げます。

 この家族は5月からは6万円の出費増になりそうと言います。地方は車への依存度が高く、ガソリン税の影響を強く受けるということをこの記事は訴えたいようです。

 記事の左の隅に1所帯あたりのガソリン支出金額の最小都市と最多都市の小さな表があります。それによると08年2月の最小は東京都の1515円、最多は山口市の9505円となっています。従ってここに例として取り上げられた所帯は最多消費の山口市の平均の約23倍のガソリンを大量消費しているわけです。

 なぜ平均の23倍ものガソリンを使う一家を例にとるのでしょうか。記事には何故このような特殊な例を取り上げたかという理由の説明はありません。運転者が5人ということを考慮しても過多消費です。

 また詳細に読むと、この一家のガソリン消費の内容に疑問が生じます。一家は5人が通勤などで毎日往復20キロ以上走るとあります。220000円ではガソリンを145円/Lとして1517L買うことができます。平均燃費を10km/Lとすると約15000km走ることができますから、5人で割ると1人3000km/月となります。

 1日にすると100kmですから、毎日20km以上という記事の説明との差が大きすぎます。5人が毎日100km走るというのも普通ではありません。5人の使う車が燃費5km/L程度の大型高級車ならば1日50kmであり、少しは現実的ですが、それなら別の意味での特殊ケースです。どちらにせよこの一家は極めて特殊なケースです。

 平均の23倍ものガソリンを消費し、その内容も極めて理解し難いこの一家を取り上げて、あたかも一般例のように紹介する記事は納得できません。

 地方のガソリン依存度の高さを説明するなら、標準的な例を示すべきです。特殊な例を取り上げるのであれば特殊な例だと明示し、その理由を説明するのが当然です。またこの一家のガソリン消費と走行距離の内容は少し注意すればその異常がわかるのに、無視しています。よほど算数のできない記者なのか、あるいは、気づかれることはまずないだろうと読者をバカにしているか、どちらかでしょう。

 この記事の問題点をまとめます。
①特殊な例を一般例のように取り上げ、誇張表現している。
②ガソリン消費量の異常さに対する説明がない。
③一家のエネルギー大量消費生活に対する言及がない。

 ③のエネルギー多消費の問題については記事の主題から外れますが、これほど極端なエネルギー多消費を紹介することは、それを是認していると理解される可能性があります。常に温暖化問題で騒いでいるのが空しく聞こえます。その意味でも取り上げるべき例ではありません。

 暫定税率の復活による地方の痛みをできる限りセンセーショナルに報道しようという意図なのでしょうが、この記事には誠実さを著しく欠いた、目的のためには手段を選ばない姿勢を感じます。サンゴ事件の伝統、いまだ死なず、というところでしょうか。

 以上はこの記事を書いた記者だけの問題ではありません。記事を通した朝日新聞の体質に関わる問題でもあります(記者のレベルを表す他の例)。現実はこのような記事を作る人たちが世論をリードし、政治に影響を与えているわけです。ま、暫定税率復活に反対した民主党や社民党だけはこの記事に深く感謝することでしょう。