噛みつき評論 ブログ版

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死刑廃止論の衰退と殺人事件報道の関係

2008-10-13 20:02:21 | Weblog
 04年12月の内閣府の基本的法制度に関する調査(図2)によりますと10年前の調査に比べ、「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」は13.6%から6.0%と大きく減少し,「場合によっては死刑もやむを得ない」は73.8%から81.4%と増加しています。死刑廃止論が支持を失ってきたことが伺えます。

 諸外国は次々と死刑制度を廃止し、死刑制度を維持している先進国は珍しい存在となりました。その中で、日本の世論が世界の潮流に逆行している主要な原因は、凶悪犯罪が増加しているという認識が広まっているためであると思われます(私は廃止論者ではありませんけれど)。

 04年7月の治安に関する内閣府の調査(図4)によりますと、ここ10年間で日本の治安は「よくなったと思う」は7.1%,「悪くなったと思う」は86.6%となっています。また同調査(図6)によると自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれないと不安になることは多くなったと思うかに対し、「多くなったと思う」とする者の割合が80.2%となっています。ところが実際にはこの期間に凶悪・犯罪事件は横ばいであり、治安が悪くなったという印象は事実に反します。

 注目したいのはメディアの報道のあり方で、朝日新聞では85年から03年にかけ殺人事件報道は3~5倍になったという事実があります(参考)。「殺人重視」は朝日新聞だけではなく、NHKのニュース報道でも感じます。民放を含め、メディアの「殺人重視」報道が治安悪化という誤った認識をふりまいたと考えてよいと思います。近年の刑の厳罰化傾向はこのような背景と無縁ではないと考えられます。

 個々の報道内容がウソでなくても、報道量と誇張など報道の仕方によっては結果的に誤った認識を国民に与えてしまうことをこの例は示しています。国民の誤った認識が国の法制度にまで影響を与えることはとても理不尽なことです。メディアは間違い報道さえしなければ、報道の結果には責任を持たなくてもいい、と思っているかのようです。

 朝日新聞は、警察庁発表の08上半期に認知した刑法犯件数の、悪い部分だけを強調し、「殺人事件、上半期649件 前年比1割増」と報じました。これは朝日の姿勢を示す例として「朝日記事の信頼度が最も低い理由」で述べたとおりですが、これには不安を煽るという朝日の強い意欲を感じます。この刑法犯の減少を主旨とする警察庁発表は、殺人重視報道から生じる誤解を解く絶好の機会であるにもかかわらず、記事は逆に誤解を深めることを意図しているように見えます。これは朝日が報道の結果に責任を持つつもりがまったくないことを示しているようです。

 メディアリテラシーとはメディア報道を読み解く能力を指しますが、メディアリテラシーに関する特別な教育を受けないと正しく理解できない現状はおかしいと言わざるを得ません。特別な教育がなくとも正しく理解できるような報道にする努力が必要です。それが出来ないのであれば、機器などに付属している取扱い説明書のように、せめてメディア自身の手で「報道は事実の一面しか伝えていません」、「報道はある程度の誇張を含んでいます」とかの注意書きをつけるべきでしょう。

 読者・視聴者の関心を引くことを最優先した報道が社会に誤解を与え、その誤解の上に世論が形成されるという危険性に注目すべきです。事件報道と死刑廃止論を例にしましたが、この問題はより一般化できるのではないかと思います(すでにダイオキシンやBSEなどの問題では過剰報道が法制化を促し、多額の税金が費やされました)。