北朝鮮から小船でやってきた9人が保護されたと報じられました。子供を含む家族の一蓮托生の逃避行だけに、失敗した場合はことさら悲惨です。死を覚悟した航海であったと思われますが、その裏にはきっと苛酷な事情があったのでしょう。しかしその背景に注目した報道がいささか少ないように感じます。
それで思い出したのですが、百年ちょっと前の日本でもたいへん厳しい状況があったようです。優れたノンフィクションである「サンダカン8番娼館」の作者、山崎朋子氏は1988年の講演で、体を売るために東南アジアなどへ渡った「からゆきさん」の話をしています(文芸春秋8月号に収録)。
からゆきさんは明治のごく初期から昭和初期まで続いたのですが、なぜ遠い外国へ出かけていったのかというと、それは今日では想像することもできないほどの日本の農山漁村の貧しさのためだと断言したい、と山崎氏は述べています。
外国へ渡るときの年齢は明治の初めは16~18歳であったのが10歳前後にまで広がったといいます。東南アジアの島々に残されたからゆきさんの墓には16や18という没年を示す文字が多くあり、彼女達の暮らしのひどさを物語っているといいます。
その裏には少女を買い集め、外国で売る仕事をする親方や女衒と呼ばれた「ビジネスマン」の暗躍があったそうです。需要があれば何でも供給する、逞しくもあざとい連中はいつの世にもいるようです。彼らは先駆的な市場原理主義者なのでしょう。
すべてを捨て、命を賭してまで脱出する、あるいは娘を外国に売らざるを得ないといった極限の状況は、幸いなことに今の日本では想像することすらできません。自分に経験のないことを十分理解することは困難です。餓死すらあるという北朝鮮の国内事情にあまり関心が向かないのはそんなところもあるのかも知れません。
一方、9月15日の天声人語は東電の5%の給与カットが甘すぎると言わんばかりの内容ですが、東電を非難すれば読者に受けるだろうという思惑を感じます。しかしほとんどの社員に事故の責任はありません。公共財でもあるマスコミが「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」式の発想では困るわけです。
拉致問題に対する扱いなど、北朝鮮はならずもの国家と呼ばれるほどの国ですが、そのために被害者である北朝鮮の国民に対してまでフィルターを通して見る傾向がないとは言えないと思います。
国や会社などの集団に対し、世間は責任のある部分とそうでない部分を区別せず、抽象的なひとつのものとして判断する傾向があります。アタマの負荷が少ない単純さが好まれるわけです。それに乗じるような迎合報道はさらにその傾向に拍車をかけます。メディアもまたアタマの負荷を嫌うのかも知れません。
それで思い出したのですが、百年ちょっと前の日本でもたいへん厳しい状況があったようです。優れたノンフィクションである「サンダカン8番娼館」の作者、山崎朋子氏は1988年の講演で、体を売るために東南アジアなどへ渡った「からゆきさん」の話をしています(文芸春秋8月号に収録)。
からゆきさんは明治のごく初期から昭和初期まで続いたのですが、なぜ遠い外国へ出かけていったのかというと、それは今日では想像することもできないほどの日本の農山漁村の貧しさのためだと断言したい、と山崎氏は述べています。
外国へ渡るときの年齢は明治の初めは16~18歳であったのが10歳前後にまで広がったといいます。東南アジアの島々に残されたからゆきさんの墓には16や18という没年を示す文字が多くあり、彼女達の暮らしのひどさを物語っているといいます。
その裏には少女を買い集め、外国で売る仕事をする親方や女衒と呼ばれた「ビジネスマン」の暗躍があったそうです。需要があれば何でも供給する、逞しくもあざとい連中はいつの世にもいるようです。彼らは先駆的な市場原理主義者なのでしょう。
すべてを捨て、命を賭してまで脱出する、あるいは娘を外国に売らざるを得ないといった極限の状況は、幸いなことに今の日本では想像することすらできません。自分に経験のないことを十分理解することは困難です。餓死すらあるという北朝鮮の国内事情にあまり関心が向かないのはそんなところもあるのかも知れません。
一方、9月15日の天声人語は東電の5%の給与カットが甘すぎると言わんばかりの内容ですが、東電を非難すれば読者に受けるだろうという思惑を感じます。しかしほとんどの社員に事故の責任はありません。公共財でもあるマスコミが「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」式の発想では困るわけです。
拉致問題に対する扱いなど、北朝鮮はならずもの国家と呼ばれるほどの国ですが、そのために被害者である北朝鮮の国民に対してまでフィルターを通して見る傾向がないとは言えないと思います。
国や会社などの集団に対し、世間は責任のある部分とそうでない部分を区別せず、抽象的なひとつのものとして判断する傾向があります。アタマの負荷が少ない単純さが好まれるわけです。それに乗じるような迎合報道はさらにその傾向に拍車をかけます。メディアもまたアタマの負荷を嫌うのかも知れません。