悪玉と善玉が対決する漫画はよく見られる。多くの悪玉は自信たっぷりでいつも明るく高笑いする人物として描かれる。一方、善玉はクソ真面目な人物として描かれるれることが多く、人物としての面白さは悪玉の方が多い。
北朝鮮の金正恩もいつも自信たっぷりであり、明るい笑顔がしばしば報道される。数百人を粛清したといわれる残虐さ、アメリカを焦土にする、日本の4島を核で海に沈める、といった過激な言動は漫画の悪玉そっくりである。漫画では最後に滅びるのだが、こちらはそう簡単なことではない。
余談はともかく、最近フィナンシャルタイムズに載った記事(2017年9月5日付、日経に転載)は面白かった。冒頭の部分を紹介する。
「20世紀に起きた大きな戦争は、何らかの破滅的な誤算が誘因となって発生することが多かった。1914年、中立国ベルギーに侵攻したドイツは、英国が同国を守るために参戦してくるとは予想していなかった。ソビエト連邦のスターリンも41年、ヒトラーが侵攻してくるとは思ってもいなかった。日本と米国も、互いの意図と対応を何度も読み違えた末、日本による真珠湾攻撃で開戦するに至った。50年に始まった朝鮮戦争では、米国は中国が参戦してくるとは考えていなかった。
(中略) 金正恩委員長と米国のトランプ大統領は、共に何をしでかすか予測がつかない。両者が互いの行動を読み違えた末に、破局的な結果に至るという危険性が今や現実味を帯びている」
読み違いの危険を説いているわけだが、その通りだと思う。また次のように述べる。
「金氏が高度な核兵器の開発を進めているのは、現体制の維持が狙いだとの見方がもっぱらだ。金氏は、イラクのフセイン大統領やリビアのカダフィ大佐といった独裁者が自らの政権崩壊に至ったのは、核兵器を保有していなかったからだとみている。従って、核兵器を保有する以外に自分が生き残る道はないというのが彼の結論だろう。
(中略) 金氏がこう考えていることには、ある意味、安堵を覚える。そう考えているのであれば、核による先制攻撃をする可能性は低いからだ。しかし、金氏の行動を見ていると、核兵器を保有すれば先制攻撃はしないだろうという漠然とした安心感は裏切られる可能性がある、と考えざるを得ない側面もある。というのも、もし核による抑止力が唯一の目的だとすれば、なぜ米国や日本、さらには中国までをも挑発する必要があるのかという疑問が生じるからだ」
後半が重要で、私も以前から北朝鮮の無用とも思われる挑発行為に疑問を持っていた。フセインやカダフィになりたくなければもっと静かに核開発をするのが合理的だと考えられるからである。過度の挑発は米の先制攻撃を招きかねない。派手な挑発にどんな意味があるのだろうか。FTの記事でも金氏の行動は合理性を欠く人物、つまり「核を持った狂人」とみなされ、先制攻撃を正当化する意見が通りやすくなる、と述べている。
しばしば失敗例として語られるのがチェンバレンの融和政策である。1938年、チェコのスデーデン地方の割譲を要求したナチス・ドイツに対し、英チェンバレン首相はミュンヘン会議でその要求を認めた。一時的な平和が訪れたが、それは巨大な災厄となった第二次大戦を招いたとされている。チェンバレンはヒットラーの意図を見事に読み違えたわけである。金氏が何を考えているか、誰もわからない。金氏がミニヒットラーである可能性も排除できない。FTの記事はこう結んでいる。
「金氏が、現体制が崩壊し、自らの命をも危ういとの見通しに直面したら、核による先制攻撃をする危険性は間違いなく高まる。
こうした危険性に対処するのは、権力の座にあるのが経験を豊富に積んだ理性的な指導者であっても難しいだろう。ところが今、判断を下すべきキーパーソンは、しかるべき経験もなく切れやすい71歳のビジネスマンと、粛清におびえ、こびへつらう取り巻きしかいない33歳の独裁者だ」
この記事の筆者はGideon Rachman氏、優れた識見であると思う。
北朝鮮の金正恩もいつも自信たっぷりであり、明るい笑顔がしばしば報道される。数百人を粛清したといわれる残虐さ、アメリカを焦土にする、日本の4島を核で海に沈める、といった過激な言動は漫画の悪玉そっくりである。漫画では最後に滅びるのだが、こちらはそう簡単なことではない。
余談はともかく、最近フィナンシャルタイムズに載った記事(2017年9月5日付、日経に転載)は面白かった。冒頭の部分を紹介する。
「20世紀に起きた大きな戦争は、何らかの破滅的な誤算が誘因となって発生することが多かった。1914年、中立国ベルギーに侵攻したドイツは、英国が同国を守るために参戦してくるとは予想していなかった。ソビエト連邦のスターリンも41年、ヒトラーが侵攻してくるとは思ってもいなかった。日本と米国も、互いの意図と対応を何度も読み違えた末、日本による真珠湾攻撃で開戦するに至った。50年に始まった朝鮮戦争では、米国は中国が参戦してくるとは考えていなかった。
(中略) 金正恩委員長と米国のトランプ大統領は、共に何をしでかすか予測がつかない。両者が互いの行動を読み違えた末に、破局的な結果に至るという危険性が今や現実味を帯びている」
読み違いの危険を説いているわけだが、その通りだと思う。また次のように述べる。
「金氏が高度な核兵器の開発を進めているのは、現体制の維持が狙いだとの見方がもっぱらだ。金氏は、イラクのフセイン大統領やリビアのカダフィ大佐といった独裁者が自らの政権崩壊に至ったのは、核兵器を保有していなかったからだとみている。従って、核兵器を保有する以外に自分が生き残る道はないというのが彼の結論だろう。
(中略) 金氏がこう考えていることには、ある意味、安堵を覚える。そう考えているのであれば、核による先制攻撃をする可能性は低いからだ。しかし、金氏の行動を見ていると、核兵器を保有すれば先制攻撃はしないだろうという漠然とした安心感は裏切られる可能性がある、と考えざるを得ない側面もある。というのも、もし核による抑止力が唯一の目的だとすれば、なぜ米国や日本、さらには中国までをも挑発する必要があるのかという疑問が生じるからだ」
後半が重要で、私も以前から北朝鮮の無用とも思われる挑発行為に疑問を持っていた。フセインやカダフィになりたくなければもっと静かに核開発をするのが合理的だと考えられるからである。過度の挑発は米の先制攻撃を招きかねない。派手な挑発にどんな意味があるのだろうか。FTの記事でも金氏の行動は合理性を欠く人物、つまり「核を持った狂人」とみなされ、先制攻撃を正当化する意見が通りやすくなる、と述べている。
しばしば失敗例として語られるのがチェンバレンの融和政策である。1938年、チェコのスデーデン地方の割譲を要求したナチス・ドイツに対し、英チェンバレン首相はミュンヘン会議でその要求を認めた。一時的な平和が訪れたが、それは巨大な災厄となった第二次大戦を招いたとされている。チェンバレンはヒットラーの意図を見事に読み違えたわけである。金氏が何を考えているか、誰もわからない。金氏がミニヒットラーである可能性も排除できない。FTの記事はこう結んでいる。
「金氏が、現体制が崩壊し、自らの命をも危ういとの見通しに直面したら、核による先制攻撃をする危険性は間違いなく高まる。
こうした危険性に対処するのは、権力の座にあるのが経験を豊富に積んだ理性的な指導者であっても難しいだろう。ところが今、判断を下すべきキーパーソンは、しかるべき経験もなく切れやすい71歳のビジネスマンと、粛清におびえ、こびへつらう取り巻きしかいない33歳の独裁者だ」
この記事の筆者はGideon Rachman氏、優れた識見であると思う。