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多数の神父による子供への性的虐待を告発した映画「スポットライト 世紀のスクープ」

2020-08-09 21:30:32 | マスメディア
 まだ観ていないが、現在上映中の「グレース オブ ゴッド 告発のとき」は子供に対する神父の性的虐待を取り上げたドキュメンタリー映画である。同種の映画では、2015年の「スポットライト 世紀のスクープ」を是非お勧めしたい。米国のボストンで数十年間、多数の神父達によって続けられてきた性的虐待がボストングローブ紙によって暴かれたが、その実話をベースにした映画である。題名のスポットライトとは同紙の調査報道班の名前である。ボストングローブ紙の報道班はピューリッツァー賞を受賞し、またこの映画はアカデミー賞2部門(作品賞、脚本賞)受賞している。

 ボストングローブ紙は2001年、カトリック教会で子供が神父に性的虐待を受けているとの情報を得、調査報道班は調査を開始した。翌年、同紙は600本近くの虐待記事を掲載、ボストンでは249名の神父が告発された。被害者は1000人以上。影響は世界に及び、同様の問題が明らかになった主な都市は206都市に上る(以上、映画より)。文字通り世紀のスクープである。いくつかの都市での問題発覚の際には日本でも報道されたが、ごく小さい扱いであった。

 この事件が起こした波紋は凄まじいものであったと思われる。日本では教会の存在感が薄いのでピンとこないであだろうが、尊敬されている神父がこともあろうに子供に性的虐待を継続的にしていたのである。教会の権威は地に堕ち、信仰心は大きく揺るいで、まさに天が落ちたような衝撃であったろう。ある男性被害者は神父に誘導され、オーラルセックスや性交(といっても一般とは少し異なる)をさせられたと証言する。性的虐待と言えばやや軽く聞こえるが、実態は神父という強い立場を利用してのレイプであろう。敬愛される神父という外形と、欲望を抑えられず、抵抗できない子供相手に淫らな行為を強要する犯罪者の内面とのあまりにも大きい。これほどの偽善は滅多にない。

 この経験が被害者の子供の心に大きい傷を与え、その影響は成人してからも続くとされる。耐え切れずに、何人かの自殺者もあったようだ。つまらない比較であることは承知の上だが、この神父達に比べれば元文部科学事務次官の前川喜平氏が夜な夜な出会い系バーに通われていたことなど、まことに可愛いものである。

 問題は神父たちの淫行を教会が知りながら組織として隠蔽していたという事実が明らかになったことである。つまり一部の少数の神父が偶然に起こしたものでなく、全世界で、かつ多数の神父によって数十年間も続いてきた「伝統」になっていたわけである。それはもうカトリック教会の属性と言ってよいほどである。教会の権威は強く、ボストングローブ紙の調査は様々な抵抗にあったとされる。強い信仰心は調査への障害となった。

 それにしても理解できないのは虐待神父が4%あるいは6%とも言われる事実である。通常の犯罪者の率から比べるとはるかに高い率はどう説明できるのだろうか。淫乱な男が神父という仕事を選ぶのか、あるいは神父という仕事が男を淫乱にするのか、多分妻帯を許さない不自然な慣行など後者の方だと思われるが、解明が待たれる。面白いのは、虐待が判明した神父達を罰しなかったのは「神はすべてを許される」という教えがあるからだという説明である。実にふざけた話である。

 ボストングローブ紙のスクープがカトリック教会の偽善を暴くことによって、教会は大きな改革を迫られることになった。また世界中の子供達は今後、教会で性的虐待を受ける恐れがほぼなくなった。ボストングローブ紙の調査報道班は実に素晴らしい仕事をしたわけである。日本の新聞記事は政府などの発表ものが8割と言われ、調査報道が少ない現状から見ると羨ましいが、そのボストングローブ紙も経営難らしい。記事の価値と収益とは比例しないのが悲しいところである。

「参考」 この問題に関する最近のBBC記事はこちら