噛みつき評論 ブログ版

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「ロス疑惑」推定有罪で自殺に追い込んだ週刊文春

2020-08-16 21:17:40 | マスメディア
 前回、米国メディア、ボストングローブ紙の素晴らしい仕事を取り上げたので、日本のメディア、泣く子も黙る文春砲の大スクープを紹介したい。以下は主として弘中淳一郎著「無罪請負人」を参考にした。

 まだ記憶されていることと思うが週刊文春による「ロス疑惑」「疑惑の銃弾」事件である。事件は1981年、旅行先のロスアンジェルスで起きた。三浦和義氏と妻が銃撃され、妻は1年後に死亡、三浦氏は重傷を負った。そして84年1月から週刊文春が「疑惑の銃弾」と題して、三浦氏による保険金殺人ではないかとの連載記事を7週間掲載した。その後2年間近く、日本中のマスコミが過熱報道を繰り返した。85年9月、それに押されるように警視庁はついに愛人に妻を殴打させたという殺人未遂容疑で三浦氏を逮捕した。その後の経過を簡単に述べると、殺人未遂では有罪が確定したものの、本丸の保険金殺人では最終的に無罪が確定した。裁判での無罪はあらゆる証拠、証言を検討した結果であるから、捜査権のないマスコミが集めた情報だけの憶測とは信頼度が違う。マスコミが何年も疑惑を報道し続けた容疑を裁判所が否定したのである。そして2008年、事件から30年も経ってから、三浦氏はサイパンで米国の警察に逮捕される。30年前の逮捕状によるものだという。数か月後、三浦氏はロス市警の留置施設で自ら命を絶った。日本の裁判で無罪判決を得ているのに、残念なことである。

 三浦氏が日本の刑務所と留置所にいた期間は通算16年に及ぶ。また獄中、三浦氏は新聞、テレビ、週刊誌を相手に530件もの名誉棄損訴訟を起こし、大半を勝訴、あるいは事実上の勝訴と言える和解をした。

 ロス疑惑についての過熱報道をうっすら覚えているが、「無罪請負人」を読むまで三浦氏は殺人犯であるという印象を持っていた。三浦氏の弁護人を引き受けた弘中弁護士は最初から無罪を確信していたと述べている。幾多のマスコミ報道より、弘中氏の方が信頼できると私は思っている。

 三浦氏は週刊文春をはじめとするメディアに翻弄され、彼はむろんのこと、彼の家族の人生まで滅茶苦茶になった。発端となった週刊文春は無実の人間を罪に陥れ、自殺にまで追い詰めたと言える。しかも腹立たしいことには事件の元凶であるマスコミは誰も責任を取っていない。妻が殺され、その保険金を夫が受け取ったという外形的な事実をもとにストーリーを組み立てていったわけだろうが、もしもそのストーリーが外れていた場合のことを全く考えなかったのか。推定有罪というわけだ。外れた場合、どう責任を取るつもりだったのか。

 せめて三浦氏が無罪判決を受けたときには大きく報道して三浦氏の名誉を回復するとともに自分たちの誤った報道に対して謝罪の気持ちを表すべきであった。長い年月が経って確信はないが、私に無罪の記憶はない。最後になったが弘中淳一郎の「無罪請負人」はぜひお薦めしたい本である。村木厚子事件など、証人たちが検察に証言を都合よく曲げられていく様子がわかる。ストーリーに沿うように嘘を証言させられるのである。まさしく泣く子も黙る検察なのであるが、外面は正義の顔をしているから厄介である。