10月2日、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件をめぐり、日本では東京など7都市で中国に対する抗議デモが行われ、渋谷では2600人が参加したとも言われています。主催は田母神俊雄氏が会長を務める右派系の全国ネットワークです。検索で調べた限りですが、報道機関でこれを報じたのはAFP(日本語版)、CNN(日本語版)、ロイター、WSJ、香港メディアの鳳凰網、シンガポールのチャンネル・ニュース・アジアなどであり、報道した国内メディアは皆無です。
日中関係への関心が強くなっている現在、このニュースの価値は決して低くないと思われます。それは海外メディアが取り上げていることからもわかります。また2日には他のニュースを追いやるほどの重大ニュースはなかったので、国内メディアには何らかの圧力、あるいは配慮や忖度が働いたのではないかと勘ぐりたくなります。
尖閣問題では、中国船の船長が釈放されるまで日本メディア冷静さが目立ちました。9月8日の船長逮捕の後、この問題を社説で取り上げたのは産経が最も早く14日、もっとも遅かったのは22日に初めて取り上げた朝日で、2週間後となっています。文末に関連した社説の表題を掲げましたが、中国よりの新聞ほど報道に消極的である様子が伺えます。例外は産経で25日までに5本を掲載し、船長釈放直後の25日、各社がそろって出したなかでも政府の措置への批判が際立ちます。
領土問題、とりわけ中国や韓国との問題はナショナリズムを刺激しやすいと言われていますが、今回、国内であまり騒ぎが起きなかったのはこうした報道姿勢によるところがあるのでしょう。9月2日のデモが黙殺されたのもこのようなメディアの姿勢によるものとすれば辻褄が合います。しかし喜んで報道しそうな産経まで黙っていたのは報道の自粛以上のものがあったのではないかとの疑いが残り、不気味です。
独裁国など、情報統制された国の国民は海外メディアによって初めて事態を知ることがあります。今回のデモ報道はよく似た有様で、恥ずかしいことに自由な言論が保障された先進国の出来事とは思えません。
むろんナショナリズムを煽るような報道はよくありません。しかしだからといって隠してしまうのは間違っています。ナショナリズムの発露が事態をいっそう困難にするといった判断があったとしても、メディアがそれを恣意的にコントロールしようとするのは傲慢な越権行為でありましょう。戦前、国民の士気を低下させないためという理由で、不利な戦況を報道しなかったのと同様です。
一方、メディアスクラムという言葉はひとつの事故・事件に同じような横並び報道が集中するという、メディアの付和雷同体質を指しますが、今回のように全てのメディアが一斉に黙殺するのも同じ体質の現れであると理解できます。全てのメディアが隠せば、事件があったことは無論のこと、隠したこと自体もわかりませんから、より厄介です。
メディアは民意、民意という表の顔とは裏腹に、国民の判断は信頼できないという考えを密かに持っているのでしょう。腹の底では愚民どもよりも我々の方が正しい判断ができるというふうに。でなければ世論をリードするという自負が成り立たなくなります。
しかし過去の報道を見てきた限りでは、メディアの判断に全幅の信頼を置くことは残念ながら期待できそうにありません。いっそ独立性の強い海外メディアに来てもらい、主要メディアの一角を担ってもらえば多様で自由な報道が実現するかもしれません。
朝日新聞
9月22日付 尖閣沖事件―冷静さこそ双方の利益だ
9月25日付 中国船長釈放―甘い外交、苦い政治判断
毎日新聞
9月21日付 閣僚交流停止 冷静さ欠く中国の対応
9月25日付 中国人船長釈放 不透明さがぬぐえない
読売新聞
9月16日付 尖閣沖漁船衝突 中国は「反日」沈静化に努めよ
9月25日付 中国人船長釈放 関係修復を優先した政治決着
産経新聞
9月14日付 対中姿勢 尖閣の守り強化が課題だ
9月17日付 反日運動 中国は邦人の安全を守れ
9月23日付 菅・オバマ会談 日米で尖閣防衛確認せよ9.23 02:37
9月23日付 尖閣漁船事件 危険はらむ中国首相発言9.23 02:37
9月25日付 中国人船長釈放 どこまで国を貶(おとし)めるのか
日経新聞
9月21日付 中国は対立激化を抑える冷静な行動を
9月25日付 筋通らぬ船長釈放 早く外交を立て直せ
日中関係への関心が強くなっている現在、このニュースの価値は決して低くないと思われます。それは海外メディアが取り上げていることからもわかります。また2日には他のニュースを追いやるほどの重大ニュースはなかったので、国内メディアには何らかの圧力、あるいは配慮や忖度が働いたのではないかと勘ぐりたくなります。
尖閣問題では、中国船の船長が釈放されるまで日本メディア冷静さが目立ちました。9月8日の船長逮捕の後、この問題を社説で取り上げたのは産経が最も早く14日、もっとも遅かったのは22日に初めて取り上げた朝日で、2週間後となっています。文末に関連した社説の表題を掲げましたが、中国よりの新聞ほど報道に消極的である様子が伺えます。例外は産経で25日までに5本を掲載し、船長釈放直後の25日、各社がそろって出したなかでも政府の措置への批判が際立ちます。
領土問題、とりわけ中国や韓国との問題はナショナリズムを刺激しやすいと言われていますが、今回、国内であまり騒ぎが起きなかったのはこうした報道姿勢によるところがあるのでしょう。9月2日のデモが黙殺されたのもこのようなメディアの姿勢によるものとすれば辻褄が合います。しかし喜んで報道しそうな産経まで黙っていたのは報道の自粛以上のものがあったのではないかとの疑いが残り、不気味です。
独裁国など、情報統制された国の国民は海外メディアによって初めて事態を知ることがあります。今回のデモ報道はよく似た有様で、恥ずかしいことに自由な言論が保障された先進国の出来事とは思えません。
むろんナショナリズムを煽るような報道はよくありません。しかしだからといって隠してしまうのは間違っています。ナショナリズムの発露が事態をいっそう困難にするといった判断があったとしても、メディアがそれを恣意的にコントロールしようとするのは傲慢な越権行為でありましょう。戦前、国民の士気を低下させないためという理由で、不利な戦況を報道しなかったのと同様です。
一方、メディアスクラムという言葉はひとつの事故・事件に同じような横並び報道が集中するという、メディアの付和雷同体質を指しますが、今回のように全てのメディアが一斉に黙殺するのも同じ体質の現れであると理解できます。全てのメディアが隠せば、事件があったことは無論のこと、隠したこと自体もわかりませんから、より厄介です。
メディアは民意、民意という表の顔とは裏腹に、国民の判断は信頼できないという考えを密かに持っているのでしょう。腹の底では愚民どもよりも我々の方が正しい判断ができるというふうに。でなければ世論をリードするという自負が成り立たなくなります。
しかし過去の報道を見てきた限りでは、メディアの判断に全幅の信頼を置くことは残念ながら期待できそうにありません。いっそ独立性の強い海外メディアに来てもらい、主要メディアの一角を担ってもらえば多様で自由な報道が実現するかもしれません。
朝日新聞
9月22日付 尖閣沖事件―冷静さこそ双方の利益だ
9月25日付 中国船長釈放―甘い外交、苦い政治判断
毎日新聞
9月21日付 閣僚交流停止 冷静さ欠く中国の対応
9月25日付 中国人船長釈放 不透明さがぬぐえない
読売新聞
9月16日付 尖閣沖漁船衝突 中国は「反日」沈静化に努めよ
9月25日付 中国人船長釈放 関係修復を優先した政治決着
産経新聞
9月14日付 対中姿勢 尖閣の守り強化が課題だ
9月17日付 反日運動 中国は邦人の安全を守れ
9月23日付 菅・オバマ会談 日米で尖閣防衛確認せよ9.23 02:37
9月23日付 尖閣漁船事件 危険はらむ中国首相発言9.23 02:37
9月25日付 中国人船長釈放 どこまで国を貶(おとし)めるのか
日経新聞
9月21日付 中国は対立激化を抑える冷静な行動を
9月25日付 筋通らぬ船長釈放 早く外交を立て直せ
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