噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

ゼロ金利政策の副作用と日銀の無策

2024-05-31 20:34:11 | マスメディア
 4月26日、日銀の植田和男総裁は金融政策決定会合後の記者会見で、円安は「基調的な物価上昇率に大きな影響は与えていない」と述べ、現時点で無視できる範囲かと問われると「はい」と言い放った。市場はこの発言を受け、円はさらに進み4円ほど下落した。通貨の売買をせずに為替相場に介入することを口先介入というが、上田総裁は望ましくない方向へ、つまり円安という逆方向に介入されたのである。市場というものがお分かりになっていないのではないか。
 
 金利がほぼゼロになって久しい。以下、大変大雑把な計算だが全体の傾向ぐらいはつかめると思う。私は経済の素人なのでご容赦願いたい。2022年9月末時点で日本の個人(家計部門)が保有する金融資産は2005兆円、うち現金・預金は1100兆円である。1100兆円をほぼ預金と考え、金利を主要国並みの3%と仮定すると33兆円、税引きで約26兆円の金利収入があったことになる。現金・預金以外の金融資産もゼロ金利の影響を受け、それからの収入は大きく減少する。逆に住宅ローンなどの借入にはプラスに働くがその金額は少ない。
 
 さらに低金利によって円安が進み、その結果、消費者物価は上昇した。IMFの資料によると2020年から2024年にかけて消費者物価は7.96%上がっている。すべてが円安のためではないにせよ、2020年の家計の消費額は280.5兆円を用いると4年間で約22兆円、年間5.5兆円が物価上昇のために失われていることになる。これに金利が正常ならば得られたはずの26兆円を加えると30.5兆円が毎年家計部門から失われたことになる。厳密には家計部門からは住宅ローンなど借入金利が減少した部分を差し引く必要があるが大きなものではないので省略する。ただ2019年の2%の消費税率の上げによる税収の増加が約4兆円であり、それが経済を冷やしたと言われていることを考えると毎年30.5兆円の効果はまことに大きい。
 
 低金利の恩恵を最も受けたのは企業と大量の国債を発行した国である。実際、実質所得の減少した家計に対し、企業は高水準の利益を出している。そして長期間にわたったゼロ金利政策が経済に好影響を与えたのかという視点からの議論はあまり見かけない。議論をしても確実な答えは得られないだろうが、正常な金利に戻った他の主要国との比較はできる。5.5%の金利となった米国は経済が好調である。ゼロ金利政策という家計に重い負担を押し付ける政策を続けながら成果が出ていない点に注目すべきである。
 
 ゼロ金利政策の負の面を放置してきたメディアにも責任がある。メディアの本来の性格として、動かないものには注意しないということがある。ゼロ金利政策が始まった当初は報道していても年数が経つとその是非を気にもしない。そういう問題意識がないため上田総裁の発言にも寛容なのであろう。
 
 ゼロ金利政策の負の面、つまり預金する側である家計の所得減少と通貨安に改めて目を向けることが必要ではないだろうか。あまりにも借りる側である企業に配慮し過ぎてきたのではないだろうか。低金利でも、需要が不足しているから企業は投資せず、借りてくれない。もし金利上昇で家計の所得が上がれば需要の拡大が見込める。そううまくいくとは思えないが30年近くうまくいかなかったのだからそろそろ違うことをやってもよい。いろいろ事情があるだろうが、日本以外の経済政策はみな優秀に見えてしまう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿