1961年
先発の板東は乾いたシャツに着がえると医務室でブドウ糖の注射を打ってもらっていた。「別に悪くはないが、これで元気をつけるんだ」と笑っていたが、針が静脈にはいると顔をしかめながら「みんな(河村、権藤のことらしい)調子がいいので引きずられますね」とニヤリ。後楽園での巨人戦の時のような表情の堅さはない。森はロッカーでハダカになりアーアと大きなアクビをしていた。「どうしてこんなにねむいんだろう」と目をしょぼしょぼさせながら「だるくてしようがない。開幕早々にバテがきたかな」と笑いとばし「フリー・バッティングでもいい当たりがとばない」とぼやく。「オープン戦でそんなことをいいながらでかいのを打ったじゃないか」とひやかされると「ヘッヘッヘッ」と笑いながら石川マネに「ジュースをちょうだい」と勢いよく立ちあがっていった。試合がきまると板東は真っ先にかけ寄った与那嶺に帽子をとって「ありがとうございました」とおじぎをしていた。巨人打線の欠点をアドバイスしてくれたお礼の意味なのだろう。そのうちナインにとりかこまれもみくちゃ。本多コーチが「やった、やった」と板東の頭をコツンコツンとたたく。「カーブやシンカーなどを投げましたが、結局球が低目にきまったということじゃないですか。こんな暖かい日に投げたのははじめてなので、思いきり投げられた。巨人ですか?こわいですよ」とけんそんしながら「去年より(10勝)勝ちたいです。権藤、河村さんがいいのでいい刺激になります」といっていた。板東は昨年も巨人を九回二死までノーヒットにおさえたことがある。最終回ウイニング・ボールをがっちりととった森はゆうゆうとベンチへ引きあげ、顔を洗っていた。おしゃれな森らしい。「四回のホームランは真ん中の絶好球だ。カーブだった。ちょっとつまったがね。それより八回ファウルになったフライは、ふつうならホームラン・コースだよ。風がきついので流れてしまったが・・・」とくやしそう。「だるいといいながら打ったじゃないか」といわれると「ほんとうや。ワシのからだは自分でもわからん。いいと思うとアカンし・・・」と笑いながら、報道陣にかこまれている板東のそばにいき「英二、ナイス・ピッチング」と握手を求めた。
先発の板東は乾いたシャツに着がえると医務室でブドウ糖の注射を打ってもらっていた。「別に悪くはないが、これで元気をつけるんだ」と笑っていたが、針が静脈にはいると顔をしかめながら「みんな(河村、権藤のことらしい)調子がいいので引きずられますね」とニヤリ。後楽園での巨人戦の時のような表情の堅さはない。森はロッカーでハダカになりアーアと大きなアクビをしていた。「どうしてこんなにねむいんだろう」と目をしょぼしょぼさせながら「だるくてしようがない。開幕早々にバテがきたかな」と笑いとばし「フリー・バッティングでもいい当たりがとばない」とぼやく。「オープン戦でそんなことをいいながらでかいのを打ったじゃないか」とひやかされると「ヘッヘッヘッ」と笑いながら石川マネに「ジュースをちょうだい」と勢いよく立ちあがっていった。試合がきまると板東は真っ先にかけ寄った与那嶺に帽子をとって「ありがとうございました」とおじぎをしていた。巨人打線の欠点をアドバイスしてくれたお礼の意味なのだろう。そのうちナインにとりかこまれもみくちゃ。本多コーチが「やった、やった」と板東の頭をコツンコツンとたたく。「カーブやシンカーなどを投げましたが、結局球が低目にきまったということじゃないですか。こんな暖かい日に投げたのははじめてなので、思いきり投げられた。巨人ですか?こわいですよ」とけんそんしながら「去年より(10勝)勝ちたいです。権藤、河村さんがいいのでいい刺激になります」といっていた。板東は昨年も巨人を九回二死までノーヒットにおさえたことがある。最終回ウイニング・ボールをがっちりととった森はゆうゆうとベンチへ引きあげ、顔を洗っていた。おしゃれな森らしい。「四回のホームランは真ん中の絶好球だ。カーブだった。ちょっとつまったがね。それより八回ファウルになったフライは、ふつうならホームラン・コースだよ。風がきついので流れてしまったが・・・」とくやしそう。「だるいといいながら打ったじゃないか」といわれると「ほんとうや。ワシのからだは自分でもわからん。いいと思うとアカンし・・・」と笑いながら、報道陣にかこまれている板東のそばにいき「英二、ナイス・ピッチング」と握手を求めた。