1967年
名古屋から近鉄特急で一時間二十分、そこから車で十分。山のいただきを切り開いたような伊勢市営球場。三重交通の野球チームはいまそこでひっそりと練習している。じみなこのチームで大きな東田はすぐ目立つ。当りは群をぬいている。脚光をあびたのはことしの夏の都市対抗で西濃運輸に補強され、四打数四安打、1ホーマー、3打点の大あばれをしてからだ。その後の産業対抗の鉄道・運輸部門の予選(八月二十九日、対西濃運輸)でも四打数二安打、1ホーマーとよく打った。名乗りをあげたプロは巨人、西鉄、中日。ノンプロ四年目で通算ホームランが十四本の力はプロのスカウトをひきつけるには十分の魅力。中日はまだ直接勧誘の手は打っていないが、巨人は加藤、西鉄は深見スカウトがすでに周囲の説得をはじめている。加藤氏は御所工時代から「攻走守そろった選手」と注目、あまり有名にならないうちに巨人へ、と考えていたらしいが他球団もマークしていた。スカウトの評価は「足が速く、プロのスピードになれれば使える。二十二歳と若いのもいい」(深見スカウト)ただ中堅より右の打球が多く内角に弱いのではないかという心配がある。中日・柴田渉外課長は「右でも左でもスタンドまで運ぶ力はりっぱ」といい、右翼にホームランできる腕っぷしの強さに逆に高い評価を与える。本人は「右方向が多いのは偶然で、左へも引っぱれる」と不服そう。しかし「プロで力をためしたい。チームはどこでもいい」という。弟と二人兄弟。父親・末義さん(43)が胃弱で無職のため、経済的にはあまり恵まれていないようす。円子監督(元南海投手)は、大黒柱を失うのは残念だが、と前置きして「プロでやっていけるだけの馬力はある。力負けすることはない」と推薦する。ただ「すぐでられるチームがいい。下積みが長すぎるとマイナスだから・・・」というあたり西鉄を希望している感じ。南海時代に深見スカウトと知りあいあったこともあり、自由競争のころだったら西鉄有利で局面が展開していたかもしれない。「体力ならだれにも負けない。ただ肩にあまり自信がない」と東田はいっているが、中日・塚越スカウトは「打撃さえよければ、まだ若いから肩や足は鍛えようでどんどん進歩する」と保証していた。大きくてがんじょうな荒けずりの素材。産業対抗の予選(浦和市営球場)には、関東地区相当の各球団スカウトがそろって顔をみせていた。東京・山田スカウトは「三拍子そろった大物ですよ。問題は内角を打てるかどうか、スカウトが集まったのはその品定めですよ」といっていた。(東田正義=ひがしだ・まさよし=、1㍍81、78㌔、右投右打、松阪営業所勤務)
名古屋から近鉄特急で一時間二十分、そこから車で十分。山のいただきを切り開いたような伊勢市営球場。三重交通の野球チームはいまそこでひっそりと練習している。じみなこのチームで大きな東田はすぐ目立つ。当りは群をぬいている。脚光をあびたのはことしの夏の都市対抗で西濃運輸に補強され、四打数四安打、1ホーマー、3打点の大あばれをしてからだ。その後の産業対抗の鉄道・運輸部門の予選(八月二十九日、対西濃運輸)でも四打数二安打、1ホーマーとよく打った。名乗りをあげたプロは巨人、西鉄、中日。ノンプロ四年目で通算ホームランが十四本の力はプロのスカウトをひきつけるには十分の魅力。中日はまだ直接勧誘の手は打っていないが、巨人は加藤、西鉄は深見スカウトがすでに周囲の説得をはじめている。加藤氏は御所工時代から「攻走守そろった選手」と注目、あまり有名にならないうちに巨人へ、と考えていたらしいが他球団もマークしていた。スカウトの評価は「足が速く、プロのスピードになれれば使える。二十二歳と若いのもいい」(深見スカウト)ただ中堅より右の打球が多く内角に弱いのではないかという心配がある。中日・柴田渉外課長は「右でも左でもスタンドまで運ぶ力はりっぱ」といい、右翼にホームランできる腕っぷしの強さに逆に高い評価を与える。本人は「右方向が多いのは偶然で、左へも引っぱれる」と不服そう。しかし「プロで力をためしたい。チームはどこでもいい」という。弟と二人兄弟。父親・末義さん(43)が胃弱で無職のため、経済的にはあまり恵まれていないようす。円子監督(元南海投手)は、大黒柱を失うのは残念だが、と前置きして「プロでやっていけるだけの馬力はある。力負けすることはない」と推薦する。ただ「すぐでられるチームがいい。下積みが長すぎるとマイナスだから・・・」というあたり西鉄を希望している感じ。南海時代に深見スカウトと知りあいあったこともあり、自由競争のころだったら西鉄有利で局面が展開していたかもしれない。「体力ならだれにも負けない。ただ肩にあまり自信がない」と東田はいっているが、中日・塚越スカウトは「打撃さえよければ、まだ若いから肩や足は鍛えようでどんどん進歩する」と保証していた。大きくてがんじょうな荒けずりの素材。産業対抗の予選(浦和市営球場)には、関東地区相当の各球団スカウトがそろって顔をみせていた。東京・山田スカウトは「三拍子そろった大物ですよ。問題は内角を打てるかどうか、スカウトが集まったのはその品定めですよ」といっていた。(東田正義=ひがしだ・まさよし=、1㍍81、78㌔、右投右打、松阪営業所勤務)