時の音が聞こえる。
春先に起きた悪夢の現実から始まって
日に日にそれは増し、音無のかまえだった森にも
近づいてきた

例年より控えめだった雨量で、梅雨後だというのに川の水は
嵩を増さず、夏の光が早めにきたと申し訳なさげに照っている
音は聞こえる
このごろは毎日、新種の音も加わって、リズムさえ刻みはじめた
ひと月、ふた月、三月、四月、やがて一周忌さえやってきて
その頃には大音響となっているだろうか
かつて誰にも聞こえなかった時の音
数えてみても終わりのない時の音
胸苦しさとともに刻まれる音に、来る日も来る日も思うだろう
こんなふうに日が過ぎていくとは 思わなかった
こんなふうに時はきちんと過ぎていくのだとは 思わなかった
止められないことを知らなかった、と

去年と違うところに咲いたねじり草をみつけ、咲いたんだね
あなたはこの夏も咲いたんだね、話しかけると
わたしの名前も時なの
わたしについておいで
小さなからだで力強い声を発した。