【ふるさと納税がゾンビ企業を生んだ】
消えるはずだった商店がゾンビとなって生きながらえる、という恐ろしい話。○ふるさと納税の裏側 その4 ガソリンスタンドがお礼の品で「売上1億円超」の“異常事態”(東海テレビ) - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
(記者リポート)
「東海3県で2番目に多い寄付を集めた岐阜県・七宗町のページです。洗剤やジュースなど、七宗町と関係がなさそうなお礼の品が並んでいます」
昨年度、18億円あまりを集めた、ふるさと納税「勝ち組」の七宗町。しかし、お礼の品は、日用品やスポーツ用品など、国が問題視しているような地元と関係のない品物がほとんどです。
岐阜県七宗町で何が起きているのか…。早速、その現場を確かめに向かいました。
七宗町は、岐阜県中部の山あいにある人口4000人の小さな町。まず訪ねたのは、サイトに名前が出ていた「お礼の品」の提供元の一つ。そこにあったのは、昔ながらの衣料品店。
Q.商売はやっているんですか?
衣料品店の女性:
「もう全然だめなもんで、もうやめようかなとなったんですが、こういうの(ふるさと納税)であれだもんで…」
~~~~~~(中略)~~~~~~
同・女性:
「ここらへんのものはなにもないから(岐阜県)高山市のハムとか、飛騨(牛)カレーとか。ハチミツは(愛知県の)安城市のものですし」
Q.七宗町のものは?
同・女性:
「七宗は物産何もないんです。お米くらいですね」
この店では、町役場からの誘いを受けて「お礼の品」の提供をスタート。もともと衣料品以外にも、贈答品を扱っていたことから、食品や家具など幅広い商品をお礼の品にしています。
廃業を考えていた店に突如飛び込んだ、ふるさと納税の恩恵。
年末のピークには、北海道から沖縄まで1週間に200個ほどの商品を発送すると言います。
======【引用ここまで】======
ふるさと納税が、本来なら廃業するはずだった店を生きながらえさせてしまった。
補助金や公的融資によって「ゾンビ企業」が生み出されることは知られているが、ふるさと納税でも同様のことが起きている好例と言えよう。
ふるさと納税は形を変えた悪しき補助金行政の一種である。
【税金の非効率さを加速するふるさと納税】
都会の住民が、住所地の自治体に住民税を払う。その税金は、くだらない事業や非効率な事業、民業圧迫となる事業に費やされる可能性が大きい。行政は市場と比べるとはるかに非効率だ。
しかし、時には、こうしたダメ事業にではなく、現状では自治体にしかできないインフラ整備(渋滞する公道の整備・拡幅や老朽水道管の交換等)に投じられ、自分達の生活水準の維持・向上につながることもある。
(※ 道路や上下水道が民営化され個人や企業の所有になるのが望ましいが、現状、自治体が道路や上下水道を所有しているため、所有者として為すべき維持管理として自治体が税金を投じるのはやむを得ない面もあろう。)
ここで、ふるさと納税によってその税金は都会から田舎の自治体へ移ったとする。
ふるさと納税の一部は、旧態依然で経営の傾いていた田舎の衣料品店の延命に投じられ、残りの部分が田舎の自治体の収入となる。そして、都会の自治体と似たような比率で、田舎のダメ事業と有用な事業に分配される。
ふるさと納税をしなかった場合、都会の住民が払った住民税は、都会の自治体のダメ事業と有用な事業に投じられる。
他方、ふるさと納税をした場合、ふるさと納税に係る手数料、配送料や職員人件費といった本来なら不要だった経費を発生させ、田舎のゾンビ企業を生み出した後、その残りが田舎の自治体のダメ事業とインフラ整備に分配される。ゾンビ延命分だけ無駄が増えることになる。
【有用な事業が目減りする】
仮に、自治体の事業のうち、「 ダメ事業 : 有用な事業 = 8 : 2 」
となっていて、ふるさと納税の返礼率が3割だったとしよう。
都会のA市住民が田舎のB町へ合計20億円分のふるさと納税をした場合、まず、A市から20億円の税収が消え、ダメ事業16億円分と有用な事業4億円分が消える。
そして、田舎のB町に入った20億円のうち、6億円が田舎の衣料品店に支払われてゾンビ化する。非効率な衣料品店が補助金によって延命されることになる。
残り14億円のうち、11億2千万円がダメ事業に投じられ、2億8千万円だけが有用な事業に投じられる。
ダメ事業16億 + 有用な事業4億
⇒ ゾンビ延命6億 + ダメ事業11億2千万 + 有用な事業2億8千万
ということになる。
実際には、B町職員の人件費やサイト運営会社への委託料等も支払わなければならないため、有用な事業に投じられるお金は更に目減りする。
【ふるさと納税をする際の注意】
元々行政は市場よりも資源分配が非効率であるのに、ふるさと納税はゾンビ企業の延命の分だけ行政の非効率さを増してしまう。民間分野が行政分野よりも優れている点として、
「失敗した事業者が市場から退場することで、効率性を保つ」
という点が挙げられるが、ふるさと納税によるゾンビ企業の延命はこの利点を後退させてしまう。
田舎では旧態依然とした衣料品店がゾンビとして温存され、市場による効率化が阻まれる。
一方、都会では税収が消えてしまい、開かずの踏み切りや慢性的な渋滞などの解消が遠のいていく。
あぁ、早くこの制度が終わってほしい。
もしあなたが、ふるさと納税をするのであれば、
1.寄付金の使途を指定できる自治体を選ぶ。
2.事業の目的や方法が明確で詳細になっている。
3.事業の目的が適正で、事業の方法が効率的かどうかをきちんと見極める。
の3点に十分気を付けよう。
事業の指定をしないと、税金の持つ非効率さを増してしまうことになる。
また、「子育て応援」のようなフワッとした美辞麗句に惑わされないよう気を付けてほしい。
事業の中身を見極めた上で寄付金の使途を指定して、ダメ事業と有用な事業の割合が8:2から7:3位になれば、ふるさと納税の弊害を緩和することができる。
・・・って言っても、みんな、返礼品目当てだけでふるさと納税をするんでしょ?
事業を見極めるって言うほど簡単じゃないしね。