若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

藤田孝典さんが知らないようで実は知っている、「だいたいこんなもんです」で決まる賃金の仕組み

2019年01月23日 | 労働組合
藤田さん、いつもネタ提供ありがとうございます。
今回は、藤田さんのツイートの問に対し、藤田さんのツイートでお答えするコーナー。

Q「どうして儲かっているんだから従業員に金払わないの?と、なんでこんな当たり前のことを繰り返し言わないと理解できないの?


A「障害者福祉事業、生活困窮者支援事業はだいたいこんなもんです。


そう、業種ごと、業務ごとに、だいたいこんなもんな賃金相場がある、ということです。

同じ事業、同じ業種、同じ業務に携わる人の賃金は、だいたい同じような額になります。これは一般に「同一労働同一賃金」と呼ばれます。
wikipediaによれば、「同一の仕事(職種)に従事する労働者は皆、同一水準の賃金が支払われるべきだという概念。」と定義されています。

ここで重要なのは、
1.雇用が流動的でないと、同一労働同一賃金は成立しない。
2.会社が儲かっているかどうかは関係がない。
の2点です。

【雇用が流動的でないと、同一労働同一賃金は成立しない】

wikipediaでは、同一労働同一賃金について、上記の定義の後で、
経済学的には一物一価の法則(自由市場では需要と供給の関係から、標準的な相場が形成される)を、労働市場に当てはめたものである。
との説明が続きます。

自由市場では需要と供給の関係から、標準的な相場が形成される
ここ大事、試験に出ます。

同じ労働条件なのに、賃金が低い企業にわざわざ就職しそこに留まり続ける人は多くないでしょう。

 就職 → 退職 → 再就職 → 退職 → 再々就職 → ・・・

が容易な環境であれば、労働者は、他と比べて賃金を低く設定している企業から去ってしまいます。
労働者が就職と退職を繰り返し、同時に、企業側が
「労働者を確保するために賃金を上げよう」
「求人者が多くて労働者を確保できそうなら、少し下げてみようか」
をといった判断をその都度繰り返す中で、「この業務なら、だいたいこんなもんだろう」という賃金の相場が形成されていきます。

就職と退職の回数が多いほど、企業の提示した金額が相場に照らして妥当かどうか判定される回数が増えることになります。相場と比べて著しく低い金額を提示した企業は、いずれ淘汰されることになります。

ここで、採用や解雇において過度の規制があると、新規採用が抑制され、再就職が困難になります。
すると、労働者は転職を控えるようになり、結果、企業の提示している金額と条件が相場に照らして妥当かどうかがを試す回数が減ってしまいます。
すると、市場の中に「実は相場よりも低い賃金を提示している企業」が淘汰されず残ってしまいます。

日本では、労働組合と裁判所で成立させた正社員の解雇規制があるため、

 1.新卒で正社員就職 → 定年までしがみつく
 2.新卒で正社員就職 → 退職 → 非正規で再就職
3.新卒で正社員の枠に入れない → 非正規で就職

という3択に迫られる人が少なくありません。
一度正社員で就職した後、
「事前に聞いていた話と実際の勤務が全然違う」
と憤慨しても、退職したら非正規しかないとなれば、転職に二の足を踏む人も多いかと。
正社員の解雇規制が、「正社員 → 非正規」の一方通行を生んでおり、同一労働同一賃金の成立を妨げています。
同じ業務をしていても、正社員の身分保障と年功賃金と、非正規の賃金や待遇で格差が生じているのは、この解雇規制に原因があります。
だからこそ、自由市場、雇用の流動性は重要なのです。

【会社が儲かっているかどうかは関係がない】

次に。
企業は契約に基づき労働者に賃金を払い、テナント料や電気代等を払い、取引先に原材料費等を払います。
その上で、残ったお金があれば儲かったということになります。

儲かったかどうかは、賃金を支払った後で初めて分かります。
儲かったかどうかが分かる前に、まずは、契約に定められたとおりに賃金を支払わなければなりません。
そして、契約した通りに賃金を払っていれば、義務は果たされているということになります。
性質上、賃金が先で、儲けは後。
後になって
「儲かってたんだから賃金上げろ」
は後出しジャンケンです。

「去年は儲かったから、契約に定める賃金とは別に臨時手当を払います」
といった措置は、あくまで経営者の任意によるものです。
そりゃ、貰った側は嬉しいでしょう。
あるいは、来年・再来年と今以上の利益が続くことが見込めるなら、臨時手当でなく賃金を上げて、より優秀な労働者を確保しようと判断するのも一つの方法でしょう。

しかし、これは法律で義務化したり、外部の第三者がどうこう主張する性質のものではありません。
あくまで経営判断です。

逆に、自由市場において、時給1500円で雇用契約を結んでいた企業が、赤字になったから時給900円に下げる、あるいは儲かって黒字になるまで無給で働かせる、なんてことは通常できませんし、倫理的に許されませんし、仮にそんな事態になっても長続きさせることはできません。
労働者がみんな逃げてしまうからです。

儲けも損失も、どちらも労働者のものではありません。
損失が出たときのリスクを労働者に背負わせるのは、酷ではありませんか?

賃金相場に照らして「だいたいこんなもんです」という水準の賃金を契約に基づいて支払っている限り、そこに倫理的な問題は生じませんし、経営上の問題も生じません。

【藤田さんも、大いに儲けよう】

だから、藤田孝典氏が、いくらNPO法人の活動を通して見聞きしたネタを本に書いて印税で儲けようが、NPO法人理事として講演に呼ばれて講演料で儲けようが、NPO法人の職員に対し

「障害者福祉事業、生活困窮者支援事業の職員はよそを見てもだいたい月20万円くらいだから、まぁこんなもんだろう。法人の利益や、貰った講演料や印税は職員には関係ない。職員には契約に基づき給料を払ってるんだからそれで良いんだ」

と自信を持って主張して良いと思います。
印税や講演料の総額を開示する必要もありませんし、その総額をNPO職員に均等に分配する必要もありません。
印税収入で活動家仲間たちとパーッと飲む打つ買うで遊んでも良いですし、講演料で家族旅行をしても良いですし、全額貯めて家のリフォーム代に当て込んでも良いのです。

相場に基づいて賃金を設定し、契約に基づき賃金を支払う、それで良いのです。
コメント
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